第13話 ライブのあと

ライブも後半にさしかかっていた。背の低い笠松のバンドもその後半に出てきた。笠松はドラムを担当していたのだが、その技術はたいしたもので、あきらは不覚にも笠松のことを一瞬格好いいとさえ思ってしまった。あいつの彼女もそんな笠松を好きになったのだろうか。

 笠松のバンドもそうだったが、後半に出てくるバンドはかなり本格的で、固定のファンもついているらしかった。客席は立ち上がり、縦ノリで飛び跳ねている者もいた。素人バンドの演奏ばかりの前半では客のノリは今ひとつだったが、後半になるにつれ、実力のあるバンドの演奏で客席は必然的に盛り上がりだしていた。

 あきらたちも、前半のようにライトをでたらめにクルクル回すだけでなく、バラード調の曲にはブルー系で落ち着いたライティングをするなど、工夫をこらすようになっていった。

 そうしながら時々は客席の篠原みゆきを見たり(彼女は楽しそうに手拍子を打ったりしていた)、ひろしとあの彼女のことを気にかけたりしていた。

 しばらくしてひろしが戻ってきた。笑顔だがなんとなく表情が読めない。悪い展開をごまかそうとして強がっている笑顔なのか、それともうれしさを抑えてもそれでも顔に笑いが滲みでてしまっているのか。


 「どうやった?」


 あきらは訊いた。


 「今日はやっぱり友だちと帰るってさ」


 「そうかいな・・・」


 みんな一瞬だまってしまった。


 「でも、今日のおれらの演奏はよかったってさ」


 彼は、もったいぶった感じを醸し出した。


 「それでやな、また電話していいかってきいたら、いいってさ。ほんで携帯の連絡先も交換してもらったわ!」


 言って、ひろしの顔はバターのようにとろけた。


 「なんや、よかったやん!」


 あきらたちは声を上げ、お互いみんなでハイタッチをしあったのだった。


 ライブは9時前に終わった。

 最後のバンドは同じ高校生だということだがかなり本格的で、みんな金髪をきれいにおっ立て、音楽的にもおおいに聴かせる連中だった。客もノリノリで、正直はじめの方に演った自分たちのライブなど忘れ去られてしまいそうだった。

 しかしあきらたちは、やり遂げたという充実感に満たされていた。

 片付けも終え、ロビーに戻ってみると、篠原みゆきが友人の石川かおりと牧田といっしょに彼らを待っていた。


 「お疲れさま!」


 あきらが彼女のところへ駆け寄ったとき彼女は笑顔でそう迎えてくれた。あきらは照れ笑いしながら、


 「どうやった?」


 「よかった。すごいよかったわぁ」


 なりゆきで始めたバンドではあったけれど、彼女の言葉にあきらは素直にうれしくなった。周りは騒々しく、景色は眩しくて、彼は雲の上を歩いているかのように体がふわふわとしていた。ただ、彼女の言葉にうなづくしかできなかった。

 やがて、ロビーにたむろしていた若い客たちはぞろぞろと引き上げはじめる。

 ひろしはさっきまであの彼女と何やらしゃべっていたが、もう今では他のメンバーのところに戻っている。


 「これから一緒に帰れんの?」


 彼女は訊いた。その瞳はきらきらと輝いていて、あきらは彼女のその瞳をこれからもずっと忘れることはないだろうと感じた。帰りも一緒にいたかった。また彼女と一緒にコーヒーショップに行きたかった。しかし、彼の後ろには今日一緒に頑張ったメンバーたちが待っている。今やすっかり一員となった、あのバンドのメンバーが。


 「いや、一緒に帰りたいけど、今日はあかんねん」彼は彼女に言った。「今日このあとみんなで打ち上げに行くことになってんねん」


 「ええ?」


 彼女はびっくりしたように目を丸くした。


 「悪いけど・・・」


 「わかった。じゃあ、かおりたちと一緒に帰るわ」


 彼女は唇をとがらせたが、その目はやさしく微笑んでいた。


 「まあ、今日は許すか!」


 彼女は右手を上げ、


 「また、明日ね!」


 「うん、また明日」


 あきらはバンド仲間の方へ、みゆきはかおりたちの方へそれぞれ歩き出した。

 明日はもう、2学期終業式であった。

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