第11話 思いがけない客
6時になり、いよいよライブがはじまった。
ステージに向かって左上にある照明のブースにあきらたちは入っていた。
そこからは観客席が一望できるようになっていた。
篠原みゆきは、石川かおりの隣、客席のちょうど真ん中あたりに座っていた。まあまあの客入りで、そのほとんどが高校生くらいの年代だった。
ざわめく客席を眺めながら、あきらはふと入口あたりを見た。そこには見覚えのある背の高い女の子が、腕を組んでもう一人の女友だちと並んで立っていた。
「おい、ひろし!」
あきらは野々山ひろしに声をかけ、入口あたりを指さした。
「あれ、あそこにおんの、お前がこないだ誘ってた子とちゃうか?」
「え、どこ?」
ひろしは身を乗り出した。
「ほら、あそこのドアの前んとこ・・・」
「あ、ほんまや」
ひろしはちらっと腕時計を見た。もうそろそろ始まる頃だ。ステージにはひと組目のバンドがもうセッティングを終えて演奏を始めようとしている。
ひろしは一瞬迷ったあげく、
「おれ、ちょっと行ってくるわ」
そう言うが早いかもう駆け出していた。
「照明、ちゃんとやっといてくれよ!」
背中でそうひろしが言うのとほぼ同時に、壇上のボーカルが自分たちのバンド名と、これから演奏する曲を紹介した。ドラムがスティックを打ち鳴らした。
「ワン・トゥー・スリー・フォー!」
大音量の演奏がはじまった。あきらは教えられたとおり照明マシンを操作した。基本は簡単で、静かな曲のときはブルー系統の落ち着いた色合いのライトをあて、逆に激しい曲の場合には赤や青や黄色、緑など激しくライトを切り変えていけばいいのだ。
「まあ、ほとんどはヘビメタっぽいガンガンのやつばっかりやろうけどな」
そうひろしは言っていた。
曲がはじまると、あきらは忙しく指を動かしてライトを調節しなければならなかった。ほとんどすべてが激しい曲で、赤青黄、黄緑赤、とステージの色がライトによって目まぐるしく変わった。それはほとんど無茶苦茶だった。やりながら、誰かから文句が来えへんやろうかと不安になり、他のバンド仲間に、
「ほんまにこれでええんか?」
と訊くと、
「ええんちゃう? いつもこんなもんやで」
という返答だった。
そんなこんなでひと組目の演奏が終わった。
彼らはまだ垢抜けない(人のことは言えないけれど)、音のうるさいだけのバンドだった。ボーカルもあまりにシャウトしすぎで、音が割れて何を歌っているのかまるでわからずじまいだった。
客は一応といった程度に立ち上がっていたけれど、多くは曲に乗ることもなく静かに聴いているだけだった。
2番目のバンドが終わった頃、ひろしが戻って生きた。照明をあてることに必死になっていたため、あきらはひろしと彼女のことを見るのを忘れていた。
「どうやった?」
訊くと、
「まあな。あとで話すわ」
そう答えたひろしの顔は、かすかに紅潮していた。
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