リクエストをもう一度

こふい

第1話 ラジオを聞きながら

 地元の小さなFM局の深夜放送が、ボリュームを低く絞ったラジオから流れている。ディスクジョッキーの女性が軽やかな声で話していた。

 参考書やノートでごった返した机に向かいながら、手塚あきらは日本史の問題集に取り組んでいた。

 11月も中頃に入り、先週あたりから急に肌寒くなりだしていた。机の向こう側のすりガラスには細かい水滴が一面に貼りつき、それを指でなぞるとひんやりとして少し気持ちが良かった。

 来年には大学受験が控えていた。高校に入って3年間、あきらはさして強くもない剣道部に身を置き、そしてこの夏、最後の大会に1回戦負けを喫し、部活動を引退した。


 ラジオではロックミュージックがかかっている。あきらは多くの高校生がそうであるように、ロック音楽をよく聞いた。海外のものがほとんどであったし、とりわけボブ・ディランのようなフォーク・ロックに傾倒していた。

 U2の曲が終わり、DJが番組に来たメールを紹介しはじめた。

 あきらはラジオのボリュームをもう少しだけ絞り、部屋の明かりを消して窓を開けた。真夜中の冷えた空気が静かに入ってきて部屋の中をゆっくりと満たしていく。

 窓の向こうにある雑木林はひっそりと静まり返り、周りの家々の明かりも今の時間ではもうまばらになっていた。

 あきらは目を閉じて背中をそらして大きく息を吸ってみる。肺の中に11月の冷気が入りこんでくる。この冴えわたるような感覚があきらは好きだった。そして自分の体が透明な存在になり、自由気ままな風の中に溶け込んだかのような錯覚を覚えるのだ。

 雑木林から、大型の鳥の鳴く声が低く聞こえてくる。風が吹いて木の葉がこすれて音を立てる。どこかで誰かがくしゃみをした。

 あきらは目を開け、部屋の明かりをつけて窓をしめた。そしてラジオのボリュームを上げた。

 番組も終わりに近づき、DJが明日の放送の予告をしゃべり、今夜の最後のナンバーを紹介した。

 あきらは小さく息をもらした。彼はほとんど毎夜このラジオ番組を聞いていた。それは、この番組が洋楽専門のリクエスト番組であるということもあったけれど―――最初はそれがきっかけだった―――他にもうひとつ、あきらがこのラジオを聞く理由があった。


 ある時から、あきらはこのラジオにリクエストを投稿してくるひとりの女の子のことが気になっていたのだ―――というよりも、ぽとんど彼女に恋をしてしまっていたのだ。


 

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