163.おじさん、対策する◆
「私は貴方や、貴方の大切な人を手に掛けてしまったらどうすればいいのでしょう……」
サラはそんなことをジサンに訊く。
「それは分からない……ただ、俺にできることは全力を尽くすのみだ」
ジサンはそう言うと魔法を宣言する。
「魔法:スロウ」
リアル・ファンタジーは基本的にどんなボスでもある程度の弱体化効果がある。
サラの敏捷性が弱体化する。サラはこのタイミングではリバースは使用しないようであった。
サラは険しい表情で右手を上げる。
[スキル:黒魔弾]
「シゲサトの兄貴! 黒魔弾、きます!」
「おう!」
ミストの掛け声にシゲサトが応じる。
「……?」
サラが少し不思議そうな顔をしている間に、ミストが槌で、シゲサトの武器を叩きまくる。
その間にも、サラの黒魔弾の夥(おびただ)しい量の黒球が進行を始める。
「……!」
が、しかし……
「うおりゃあああああ!!」
シゲサトがヘビィガンを連射しまくり、凄まじい量の迎撃弾で応戦し、ついには黒魔弾を全弾叩き落とす。
「……」
「ミストっち、迎撃特化、うまくいったね!」
「おう……!」
「すまんな、サラ……」
「……!」
気がつくとジサンはサラに接近しており、テイム武器による通常攻撃を加える。
サラのHPは少し減少する。
ジサンは一定間隔を置くように丁寧に通常攻撃を加えていく。
サラのHPは少しずつであるが確実に減少していく。
「マスター……!」
「っ!?」
サラは辛そうな表情を見せつつも、腕を前に出し、攻撃のモーションに入る。
カラフルな多量の光の球がやや不規則な軌道を描いて進んでいく。
「迎撃しまっす!」
シゲサトがそう宣言し、後方から迎撃弾を撒き散らす。
おかげで放たれた球の大多数が撃墜されていく。しかし、シゲサトはサラが発生させた弾数に合わせるように弾幕の濃さを調整しているためかいくらか迎撃を免れた弾が近くにいたジサンに被弾する。
「っ……」
ジサンのHPに小さくはないダメージが入る。
「……?」
が、ジサンのHPは少しずつ回復を始める。
それを見て、サラが呟くように言う。
「スプリングの特性:癒しの泉……ですか」
「そうだ」
「……なるほどです」
スプリングは特性により、戦闘に存在するだけでパーティメンバーのHPを徐々に回復させることができた。
「師匠! 次は自分が行きます!」
そう言って、今度はミストがサラに接近していく。
「っ……」
「姉さん……取り戻す!」
ミストは先ほどのジサンと同じように、通常攻撃を丁寧に加えていく。
「……」
サラは黙って、その攻撃を受ける。これはサラが手を抜いているというわけではない。ボスは通常、回避行動を取らないという仕様通りの行動である。
「マスター……」
サラは気付く。彼らが、この日のために、めちゃくちゃ自分(サラ)対策をしてきたであろうことに。
◇
「サラの能力はある程度、知っている」
ジサンはサラのプレイヤーとしての能力を知っていた。
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魔法:リバース、ドレイン、ムーヴ、ランダム
スキル:黒魔弾、支配
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ボスとしてのサラの場合と完全に一致しているわけではないと思われたが、実際にプレイヤーとしてのサラもボスとしての特色を色濃く受け継いでいた。
「サラの攻撃手段は基本的に弾幕……つまるところ弾幕タイプのボスだ」
弾幕タイプのボスとは、リアル・ファンタジーに一定数存在する光のエネルギー弾を撒き散らすことを主な攻撃手段とするボスのことであった。ちなみに魔帝:ジイニも弾幕タイプのボスである。
「弾幕タイプと分かっているなら、思い切った弾幕対策特化にすることができますね!」
一般的な戦闘では、ボスが弾幕タイプであるということを事前に知ることは難しいため、プレイヤーはどんなタイプの敵にも対応できるスキルと装備を選択することが多い。
「なるほど……それなら俺の戦闘中鍛冶で迎撃スキル向上を付与して更に性能を高めることができそうです」
「心強い……!」
ミストの発言にシゲサトが反応する。
「強力な弾幕はもちろんですが、サラの能力で一際、心強い……いや、この場合、厄介になるのかな……まぁ、どちらでもいいのですが……それが……"リバース"です」
「リバース……というと、反射系の魔法ですか?」
「反射もできますが、正確には違うようです」
「……なるほど」
「サラによるとリバースの能力は"事象の反転・逆行"とのことです」
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