二つの世界が重なり始める。僕のいる世界はどっちなんだ...

もぶだんご

第1話 夢は現実に

「ふわぁあ〜」


「おーおー、デカイあくびしてどうした?」


「また変な夢見てたの?」


「うん...なんか無駄にリアリティあってさ...疲れが取れてないよ」


「おいおい、ゲームのやり過ぎじゃないのか?」


「そうなのかなぁ...」


 高校2年生に進級して1ヶ月が経った僕(夢路遊星)は、幼馴染達と学園に向かっていた。


 僕よりも背が大きくて、サッカー部のキャプテンをしている一之瀬湊。小学生からの友人で、今では親友と呼べる人だ。

明るめの茶髪を短く整えていて、筋肉質な男の子。

 成績も良い上に、イケメンという事で、女子からの人気は学園1だと思う。


 そして、もう1人の幼馴染、姫崎佳織。

白くて長い髪と日本人離れした透き通る肌が特徴的な女の子。

 学園のマドンナって言われているけど、佳織は正義感が強くて、どちらかと言えば王子様に見える。

 可愛らしさとかっこよさ、どっちも両立しているのは本当に狡いと思う。


「夢の内容が平和なら良いんだけどさぁ...日を追う事に酷くなっていくから...何か体も疲れてるし...」


「遊星の夢ってあれだろ?何か色んなところ行って戦うやつ」


「そうそう、この前なんて北海道だよ。寒くて寒くて...」


「夢だけどね...でも、不思議よね。夢の内容覚えてるのも珍しいのに、明晰夢でここ1ヶ月は同じ夢...というか、繋がった夢なんでしょ?」


「そうなんだよね...ついに頭でもおかしくなったかなぁ...」


 月曜日で、元々憂鬱な気分だったのに、夢のせいで拍車をかけられていた。

 夢は夢だが、内容が重くて重くて...朝から脂身の多い焼肉を食べている気分だ。


 ちょっと違うかな?


 そうして学園に着いた時、少しの違和感を覚えた。

 正確に言うならば、違和感と言うには懐かしさのようなもの...前にも味わった事があるようなもの...ちょっと言い表すのが難しいな。


 でも、周りを見ても特に変化は無いし、おかしい点も見当たらない。僕は気のせいだと思い、先を行く2人の背中を追った。


 そしてそれは、僕達にとって地獄の一歩目だった。


「では、朝のホームルームを始めます。連絡事項は特にありませんが、そろそろ新学期に慣れて気が緩む時期だと思うので、気をつけて生活をして下さい。以上です」


 その言葉を皮切りに、ザワザワと話し声が教室を支配していく、それは僕も例外では無くて、前の席にいる湊が話しかけてきた。


「1時間目の数学も小テストあるよな?」


「うん、この前の宿題の範囲だね」


「あれ毎回やらなくていいよなぁ...宿題か小テストどっちかにすればいいのに」


「本当にね」


 その時、教室の扉からガタッという音が響いた。それは、教室の扉から発せられたもので、鳴らした本人である担任教師は首を傾げている。


 どうしたんだろうかと、視線が集まる中、担任はガタガタと建付けが悪くはない扉を開けようとしていた。


「あれ、おかしくね?」


「うん、なんで開けられないんだろう」


 不思議に思ったクラスメイトの1人が、担任とは反対側の扉を開けようとするも、どちらも開かなかった。


 何か変だと感じたクラスメイトが、どこか逃げ道は無いかと窓ガラスを開けようとしても開かず、少しのパニックになっていた。


 その時、教室に備え付けられているスピーカーから声が聞こえてきた。

 いつもより無機質なそれは、淡々とこう告げてきた。


『2年A組の皆さん、おはようございます』


 僕達のクラスだ。校内放送用のスピーカーだと言うのに、僕達のクラスだけを校長先生であろう声は呼んでいた。


『皆さん、まずはモニターをご覧下さい』


 そこにあるのは、1時間目の数学で使うはずだったモニター。

 公立の高校のため、少し年季の入ったそれは、何も操作をしていないはずなのに、映像を映し出していた。


「なんだよ...あれ」


「嘘...まさか」


 クラスメイトが、見たことも無い異形の化け物に目を奪われていた。しかし、それ以上に衝撃的なのは、その異形の化け物が襲っている人達。


 僕達と同じ制服を着た人達が、異形の化け物に襲われている。場所がどこなのか、映像だけでは判別出来ないけど、これを現実だと信じる人は少ない。


『見て分かる通り、君達以外、この学園の生徒、教師は殺されます。そしてこれは日本全ての地域に起こり、やがて...君達も殺します』


「なっ、なんで!!」「嫌っ!!」「アタシたちまで巻き込まれるのイミフ〜」


 クラスメイト達の言葉は誰にも届かず、阿鼻叫喚に包まれる教室は、少しずつ冷静さを失っていった。

 しかし、このざわめきを起こした張本人はそんなことを露知らず、続きを話していく。


『しかし、それだけでは面白くない。その為、白星学園2年A組にチャンスが与えられました。既に日本以外の国は陥落、残るはこの小さな島国のみ。皆さんの力で守り切ってください』


 その言葉を最後に、校内放送は途切れ、先程まで話していた校長先生は、異形の化け物に殺されていた。

 その様子はあまりに非現実的だったが、もう1つの声が教室に響き渡った。


『やぁやぁ!選ばれ者たち!私の名前はサブレ!君達の為に力を貸す妖精だよ?初めまして〜。あ、君は初めましてじゃないよね。夢路遊星くんっ』


 サブレと名乗る何かは、僕にこう告げてきた。


 クラスメイトの視線が集まる中、僕は起きて欲しくなかったことが、現実になってしまった事を理解するに至った。

 これは僕の夢の中に出てきた事のある...いや、毎度の事出てくるモノだ。


『なら、僕は説明しなくていいね〜。遊星くんっ、ルールは夢の中と同じだよっ。今度は頑張ってね』


「遊星、どういう事だ?夢の中ってもしかして...」


「うん、夢が...現実になったみたい。夢とは言っても、悪夢だけど...」


 白星学園2年A組、在籍28名、欠席0名、現員28名、異常なし。

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