ネットでも呪えるって知っている

氷河久遠

第一章 スピリットユーザー

第1話 初めての仕事01

『ゲームで死ぬと現実でも死ぬんだって』

 急速に普及したVR《バーチャルリアルティー》の世界では、そんなウワサが飛び交っていた。

 僕はウワサを聞いても頭をかしげるだけだ。いくら隠しても情報とは漏れ出るらしい。

 魔術や呪術が電子の世界にも入って来たのだ。

 今までは、対象を呪い殺すには、それなりの儀式が必要だ。懲罰として神や仏に祈願する。悪魔や魔物と取り引きをする。命を懸けて相手を呪う。その結果、何かしらの形で死ぬ。

 仮想世界で儀式をしても意味はない。悪魔や魔物、神や仏がいないからだ。人の念だけで殺すには、数少ない力のある術者だけだろう。そのため、仮想空間の中では関係なかった。しかし、電子の世界でも呪いが作られた。その呪いは自分のアバターの死を認識する。それだけで呪い発動した。

 詳しい理屈はわからない。だが、時代ともに精神世界は仮想空間にも現れた。

 僕が知る事件はゲームの世界でのアバターロストだった。

 そのゲームは戦争を再現したVR《バーチャルリアルティー》ゲームだった。兵士となり銃を撃って行軍する。敵を発見しだい発砲して倒して回る。しかし、戦死すると自分のアバターが死亡判定になる。その代り、新しいクローンとして次のアバターが現れる。そして、続きをゲームする。

 しかし、呪いを受けたゲーマーは死亡した。心不全らしい。

 十九歳の青年である。

 僕は霊能力者として働いている父にきいた。

 父の話では呪った痕跡があったらしい。そのため、アバターロストと共に死んだようだ。

 五感を投入するダイブ型での死亡だ。しかし、初めての例ではなかった。以前にもあるらしい。


 人間の拡張技術として、頭蓋骨の下の脳にナノチップを差し入れる。『エレクリットターミナル』といって、脳に疑似体験させる。

 その技術は新しい技術で日が浅いが、すぐに広まり一般的になった。手術をしないと、プログラマーはできなくなっていた。それに、仮想世界の方がお金がかからない。旅行一つでも仮想世界で済む。実際に行けるのは上級国民だ。

 資本主義は国民を上級と下級と分けた。富む者はさらに富み。貧しい者は使い捨てにされた。

 そこで、求められたのが、VR《バーチャルリアルティー》である。不満のはけ口して国家が先導して勧めた。

 保険適用ができるので、費用も安くて済む。それに、仮想とはいえ自分がしたいことができるようになった。

 仮想世界がふくらむほど、新しいプログラマーやグラフィックデザイナーなどの雇用が増えた。そして、人々は仮想空間を新しい生活の場にしていた。


 僕が脳にナノチップを入れたのは、高校進学と同じ時期だ。十五歳以上と法律で決められている。自動二輪車と同じ十六歳でないのは、高校一年生で情報技術の授業があるからだ。

 エレクリットターミナルは僕の認識を広げた。そして、父からやるべき仕事を教えられた。

 陰陽道の系譜を持つ霊能力者が父である。父はその霊能力で仕事をしていた。『機関』と呼んでいる民間会社から仕事がくる。しかし、その仕事は一般的にうさん臭いものだ。

 知っている仕事はビルに巣を張った霊たちを祓うという仕事だ。ただ、そのビルは民間のビルではない。政府が関わっているビルらしい。それから、機関の仕事でも、その上の方には国が関わっているようだ。しかし、僕は詳しくはきかない。昔、忠告されたからだ。

 学校の帰り道に知らない男が道をききに来た。貼り付けた笑みで僕を見ていた。僕は迷子だと思わなかった。本題は違うのは直感でわかった。父の仕事を調べるな、と警告された。好奇心があるのはいいが、今の僕が関わるには早すぎる話だからと。それ以降、父の仕事を調べるのをやめた。


 僕が高校生になると、父は僕に仕事をいいつけた。

 父は『スピリットユーザー』という敵を殺して欲しいらしい。物騒な話だが、霊術を使うので呪術的な戦いがある。もちろん命懸けだ。父がいった敵はエレクリットターミナルを使う呪術者らしい。

 僕は最初はわからなかった。しかし、積極的に父はゲームを勧める。学校の授業より優先するようにいわれた。

 最初は喜んだが、意識して探していると、身の危険を感じた。明らかに殺気を飛ばす人がいるからだ。そして、ネットを伝って呪いをかけられた。

 そこはエレクリットターミナルを使って入れる普通のSNSだ。文字情報だけで、こちらの気配を察して呪いを放ってきた。

 僕は小さい頃から習った霊術で防御する。今の陰陽道の技術は昔と変わったらしい。陰陽道の名前が使えなくなってから、柳川瀬やながわせ流霊術と名乗っていた。

 呪いを念でもって作った庇護甲冑を着て受け流した。体には霊子で作った鎧ができている。この甲冑を破るには本格的な呪いしかないだろう。即席の呪いでは通らない。

 相手は『死ね』と書くと消えた。ログアウトしたようだ。だが、書かれた文字から気配を感じて追跡できる。しかし、追うのはやめた。小者だからだ。僕でもいつでも倒せるほど呪いの念は弱かった。

 僕は危険な人物と気配を記憶するだけに留めた。

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