第4話 転送

 カイン達が通されたのは、鋼色に輝く部屋であった。大人なら20人は入れる程度の部屋だが、その中央に巨大な装置が備え付けられている。

 その装置は部屋の鋼色にそぐわない緑の色の装置であった。


 何の装置か気になったメアリーは天眼を使ったが、何も読み取る事は出来なかった。


 その事に気付いたミランダは“よい”と無言で伝えてきた。


 メアリーは┃能力ちからの発動を止めた。天眼の力は物凄く精神を削る。出来るだけ使いたくないが、今は泣き言を言える時では無い。

 何故、母が牢獄に入り、世界と断絶していたのが分かる気がする。


 ミナの使者、DDR−3は自分の腰の部分から、長いケーブルを引き出すと緑色の装置と自分を繋ぎ始めた。

すると、装置は静かに唸り、動き始めた。


『これから皆様を我々の住むミナに転送いたします。それにあたってミランダ様にお願いがあります。ミランダ様がお持ちの宝玉を預からせていただきたいのですが!』


 それは意外な申し入れであった。どんな訳があるかは知らないが、セキアイの巫女に代々受け継がれている宝玉を手放すのは出来ない相談であった。

 それはロイの態度を見ても明らかであった。


「この宝玉は我々一族の宝。それをやすやすと手放せるわけがない」

 冷静沈着なロイの態度やミランダがこの宝玉の扱いを見れば、カインにもその気持ちは伝わった。


 そう訴えてもDDR−3は一方的に話を進めた。


『この装置は魂を媒体として、肉体を運ぶ装置なので、そのような魂の集合体を運ぶことはできません。無理をすれば、皆様の魂まで喰らいつくし、ただの肉塊になってしまいます』


 装置の原理は分からないがこの宝玉があることで全員の生命の危機が起こり得るということは間違いないようであった。


 そうと決めれば、ミランダの行動は素早かった。


 DDR−3に少しの時間を貰い、開放の儀の準備を始めた。


 ミランダとロイはスーツを脱ぐと、一族の伝統の衣装に着替えた。

 よく鞣された皮の衣装はスーツなどより、二人には似合っていた。

 スーツ姿でも隠しきれなかった野性味はここが月であることを忘れさせてしまった。


 二人はどこからか取り出したか分からないような原色の色粉で肌や顔に色を塗り始めた。

 ミランダの赤い髪は色粉で斑になったが、それがいっそう、野性的な美しさを際立たせている。


 ミランダとロイは床に座り、宝玉に手をかざし始めると、小さく┃しゅを唱え始めた。

 呪が大きくなるにつれ、宝玉も呪に同調するように輝き始め、ついには眩しいほどの光になった。

 その光が嘘だったように部屋は落ち着いていた。


 宝玉から感じられた力が消えてしまった。

 ただの石になってしまった宝玉を懐にしまうと、その重たさに寂しさを感じてしまう。


 あの宝玉には歴代の巫女の魂が蓄積された物であり、その力で色々な能力を使え、先読みなどでこれまでミランダの助けになっていた。

 もうその力も使うことは出来ない。


◇◇◇◇◇


 DDR−3は装置の調整を済ませたようだ。


『これは、貴方方が火星と呼ぶ星の首都ミナと繋ぐ転送装置なのです。これでミナに転送していただき、わがマスターにあってもらいます』


 転送、聞いたことのない言葉である。どんな装置かは分からないのは困まってしまう。

 オウホウならば何か分かるかもしれないが、オウホウはもういないのだから、自分達にできることをするしかない。


 DDR−3の説明で体と装置を繋ぐと準備は整ったようで、装置を本格的に稼働させた。

 装置は低く唸ると音は次第に高音になり、耳の奥がジンジンした。その振動が不意に止むと部屋が先ほどとは比べられない広い空間になっていた


『ここが我々の住むミナです』

 DDR−3はケーブルを外しながら口にした。

 それにならって、カイン達もケーブルを外した。


 メアリーが周りを見回すと、一つだけ異変が起きていた。


 先ほどまで幼女であったミランダの顔に深いシワが刻まれていた。


「ミランダさん、どうしたのですか?」

 それはミランダ本人にもなぞであった。


『それは空間転送の影響ですね』

 DDR−3は相変わらず、感情の無い言葉で言った。


 

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