第5話 烈・庚申
メアリーが烈・庚申からカインの少年時代の話を聞いてから二回目の夜を迎えていた。
天の高いミンミアでは星が綺麗に見え、心が癒されるが、赤く輝く、朱き禍星だけがメアリーを不安にさせている。
メアリーに受け継がれた、天眼の能力は眠りについたようになにも語りかけては来なくなっている。今はそれでいいと考えている。今の自分には天眼の能力にのみ込まれるという恐怖心が拭えずにいた。
烈に入れてもらったお茶は素朴だが、体の芯に染み渡っていった。
烈はゆっくり茶碗をゆすり、メアリーが口を開くのを待っていた。
「私、自分だけが不幸だと思っていたけど、みんなそれぞれに過去があったのね」
メアリーは銀色に輝く瞳で、過去を見つめていた。
天眼が最後に見せてくれた、光景を噛み締めていた。
メアリーと烈から少し離れた場所でカインとロイが組手をしていた。ロイはすこしづつではあるが気の使い方を身に着け始めていた。
その動きはカインを上回る事も有ったが、トータルで見れば、カインとの実力にはまだ差があるようだ。
あのプライドの高い、ロイが楽しそうに笑っているのが印象的だった
そうすると必然的にミランダとオウホウが会話をすることが増えていた。
二人がこれからの世界の事や朱き禍星について、語り合って居るのは分かるが、メアリーには何か意見が出来そうに無いのはしかたないが、今は烈との会話が楽しいと感じることが多くなっている。
烈は焚き火に鍋をかけ、夕食の準備を始めていた。あまり料理の得意でないメアリーも野菜を切るのを手伝っていた。
烈の左手の手袋の中に小指が無いのは分かっているが、それでもメアリーよりは明らかに手際が良い。
六人は鍋と固いレーションでで夕食を取りながら、これからの事を話し合っていた。
これからの予定としては、明日村を出てミンミアの宇宙センターに向い、月へのロケットを準備し、月へ飛び立つ事で話しは纏まった。
これにはオウホウの知識と技術が要になる。
烈の情報で宇宙センターには元村人が住み着いていて、襲ってくるだろうという話であった。
村人と言っても、今では人の姿を守っている者はいないとの事であった。
それは、オウホウの専門の話であった。
オウホウが以前、この村で採取した血液から特別なウイルスが確認され、その技術でオウホウは生物兵器、キメラを作り出したのだった。
それはメアリーにとっては忘れられない記憶であったが、少しづつではあるが乗り越えていたが、もう関わりたくないのが正直な気持ちである。
カインはメアリーをに優しく笑いかけた。
「今度は俺がメアリーの心を守るよ」
「ありがとう。私も強くなるわ」
確かにメアリーは辛そうだが、その瞳には今までに無い、強さが感じられる。
その日は早めに眠りについたが、夜中にカインは何かを感じて起きてしまった。
「先生、囲まれましたね」
「あぁ、そうだな。だがこの気配はプロの気配だな」
しばらくしてロイも目覚めて状況を察して、ミランダ、メアリー、オウホウを起こすと、カインが簡単に事情を伝えて、迎撃の準備を整えた。
烈は気配の数を読んでみた。
「人数は十名。敢えて気配を読みやすくしているのが、五名、気配を消しているのが四名。気配を隠す気のないのが一人。出来るぞ!」
ロイには気配が読みきれず動揺してしまった。
「気にしなくていいさ。先生は達人の域を超えているからな」
ロイは感じんた気配にナイフを投げ、その勢いで宙に舞った。
それを合図に戦いが始まった。
カインとロイは積極的に攻撃をしかけ、烈とミランダはメアリーとオウホウを守る形をとった。
特にメアリーは天眼の力を手に入れたとはいえ、普通の女性なのだから、守られるのは当たり前だった。
ロイは自分が強くなっているのを実感していた。相手の動きが手に取るように分かるようになっていた。
カインとロイは無手で銃火器を持った相手をあらかた倒したし、烈はメアリーに一つの傷を負わせること無かった。
「素手でこの力、物凄いな。」
戦いに加わらなかった一人が姿を現した。それは機械兵だと分かる、異様な姿をしていた。
肩には何か仕込まれているのか、大きく膨らんでいる。
その異様さはカインがこの間、倒したリカルドなどとは桁違いである。
「俺をその辺のヤツと一緒にするなよ」
そう言うと、胸のカバーを外してみせた。
そこに現れたのはあのメルダインであった。機械兵のエネルギー源としてはもっとも優れた物であった。もの凄いエネルギー効率に安全性、核融合炉とはレベルが違う。
その莫大なエネルギーを肩のレンズで増幅し雷球を放った。その雷球は形を変え、雷獣となり、雷獣は宙を駆け巡った。
カインがレールガンを引き抜こうとすると、烈がカインを止めた。
「良く見ていなさい」
烈の手の動きは雷獣をあやすように撫で、雷獣を大地に還した。
呆気に取られる一同に見せつけるように烈は構えも取らずに機械兵の懐に入り、柔らかい発勁の一撃をメルダインがある胸の部分に撃ち込んだ。
その一撃でメルダインを無力化させてしまた。気の使い方を習ったロイには信じられない事であり、それだけで機械兵の動きを停めてしまった。
烈は、カインとロイに気の究極の使い方を示した。
しかし、烈は膝から崩れ落ち、倒れてしまった。
「━━━先生!」
烈は別人の様に見えた。
先程の攻防で烈は全身の気を使い切り、立ち上がることもできないほどで、先程までの姿が嘘のようだった。
烈はカインの手を握った。
「カイン、お前なら儂を超えれるだろう。そして、絶対に彼女を守るんだ。
自分に負けるなよ」
そう言うと、烈は静かに目を閉じた。
「峰、私もそっちに行くよ」
「先生〜・・・・・・・」
涙を流す、カインをメアリーは優しく肩を抱いた。
あのオウホウでさえ、声をかけるのを躊躇っていた。
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