大災害

第1話 歓びの街

 中央都市国家 オウホウ。

 現在の数ある国家の中で最大の規模を誇る国家である。世界の標準歴である央豊暦オウホウれきを広めた国でもある。国土も人口も最大を誇っているが、大災害以前はインドと呼ばれた国であったが、建国の父オウホウの偉業を称えオウホウに国名が変えられたのであった。


 オウホウは国内に置いては英雄視されているが、歴史学者の間では最悪の人物と呼ぶ者も少なくはない。


 大災害はの手によって引き起こされたという説まであるのだった。その仮説がオウホウだけが大災害の被害から免れてはいるという事を理由だとしている学者も少なくないからだ。

 

 テラー、オウホウでも有数の観光地である。こんな時代なのにテーマパークまで存在するのだ。ヒンドゥー教の世界を模したそのテーマパークはオウホウの大きな観光資源であった。

 極彩色のアトラクションやパレードは独特な世界観で人気を博していた。


 そんなテラーの街には世界中の娯楽が集まっていた。娯楽と共に怪しい情報も集まってくるのが、世の常である。


 カイン達四人がテラーの街について二日がたつが、いまだに目ぼしい情報は手に入れられずにいた。

 世界的な厄災が起きようとしているのに四人に焦りは見られない。それはカインの言葉を信じての事だ。

「こうゆう時は情報が向こうからやってくるのを待つのが早道なんだよ」

 その言葉通り、いくつかの面白い話は拾えたが核心には辿り着けていなかった。


 そんな時こそ、焦らないのがカインのやり方だった。

 情報が情報を呼び込み、目的の物がやっとやってきた。それは意外な所からであった。

 街の雑貨屋の老夫人によってもたらされた。

「お兄さん達は観光客だろう?なら一度はミルル寺院は見たほうがいいよ。穴場だけど後悔はしないはずだよ」


『ビンゴ!』

 カインの勘はそう言っている。


 四人はタクシーを捕まえると、ミルル寺院を目指した。


 ミルル寺院は確かに穴場であった。一見して、まともな観光客がやってくるところではないのは間違いない雰囲気であった。

 どう見ても歓楽街なのは間違いない。

 こうゆう所はカインの出番である。

「ここは俺に任せろ。こんなところで美女二人じゃ聞ける話も聞けなくなる」

 そう言うと、いやらしい笑顔で人混みに消えていた。


 メアリーだけは心配そうな顔で、カインの背中を見つめていた。


「心配するな。アイツもプロだ。同じ失敗は二度としないよ。それにメアリー、お前を泣かせないと誓ったはずだろう」

 メアリーは恥ずかしそうに笑った。


◇◇◇◇◇


 カインは呼び込みをからかいながら、奥に進むと一軒の店に入っていった。


『いらっしゃい』


 カインはカウンターに座ると店員に声をかけた。


「お客さん、【帝】の人かい?珍しい酒があるんだがどうですか?」


 出てきたのは帝以外では珍しい焼酎であった。焼酎をロックで飲みながら、カインはその時を待っていた。

 それは程なくやってきた。

 原色の民族衣装を身に纏った女性が声をかけてきた。


「今日はどうしたの?」

「人探しだよ。黒ずくめの暑苦しい奴知らないかい」


 女性は一瞬、顔色が変わったがすぐに笑顔に戻った。


「この暑いのに黒ずくめのなんて目立つだろうけど、知らないわ」


 その会話に反応したのは他の店員であった。


 数人の店員がカインを取り囲んだ。


 カインはニヤリと笑うと、焼酎を一気に飲み干した。


 

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