第16話『鍛冶屋、ついに女の子に囲まれる(物理)』

その日は、朝から気まずかった。


 理由は一つ──

 昨夜、メルゼリアのセクシー寝姿を見てしまったこと。


 そして、見てしまっただけでなく、本人に“修行”呼ばわりしてしまったという、消し炭になりたい記憶。


 (今日も鍛冶に没頭して忘れるんだ……)


 無言で槌を振るう湊。だが、ルフナが今日も絶好調で騒ぐ。


「湊師匠~! お風呂の準備できましたよ~! 今日はみんなで使うらしいです!」


「……みんな?」


「女騎士の方と、あと新しく来た魔法剣士さんが! 剣の相談にって!」


「……え?」


 


 ◇ ◇ ◇ 


 


 一方、その頃の風呂場。


 森の小屋の裏手、即席の薪風呂には、すでに三人の女性が身を沈めていた。


「はぁ……ここまで来た甲斐があった。噂の刀匠に、会えるなんて」


 長髪をまとめ、鋭い眼差しの女性が髪を絞る。


 【新登場】魔法剣士・エルネスタ。

 王国戦術学院出身。魔法と剣の両方を操るクール系お姉さん。


 「あの男……“炎の流れを読んで刀を打つ”らしいな。魔力の流体制御と似ている」


「はっはーん。まさか、師匠に会いに来た理由、それだけじゃないでしょ?」


 横からルフナが、湯をパシャリ。


「え?」


「顔が色っぽいってば。エル姐、あのタイプ好きでしょ~? 無口で堅物系の職人!」


「……し、しらん」


「よくあるんだよねー。最初は“打ち方だけ見たい”とか言って、だんだん恋するパターン!」


 その横で、女騎士カレンはぼんやり頬を染めていた。


(私も……気づけばこの鍛冶屋に泊まり込んで……なにしてるんだろう私……)


 それぞれの“湊への好意”が、湯気の中でふわふわ立ち昇るなか──


 


 バンッ!!!


 


 「ルフナ、風呂の蓋ってちゃんと閉じ──」


 勢いよく湊が戸を開けた。


 そこにあったのは、湯気の中、ほぼ全裸の女三人──。


 全員、こっちを向いた。


 (………………)


 沈黙が、世界を凍らせる。


 湊は、

 脳がフリーズした。


 


 最初に動いたのは、魔法剣士エルネスタだった。


「────《フリーズバースト・デルタ》」


 湊の顔面に、冷気魔法が炸裂する。


 


「ちょ、ちょっと姐さん!?」「え? 待って! 湊師匠、今のは事故ですってば!」


「……うわあああああああああ!!!」


 


 湊、全力撤退。


 しかし、残された三人の女子たちは見てしまった。


 ――湊が、意外といい身体していたことを。


 


◇ ◇ ◇


 


「……くっ……違うんだ……ッッ」


 小屋の裏で水をかぶりながら、湊は叫んでいた。


「俺は……俺はただ、静かに暮らしたかっただけなんだ……!!」


 けれど、冷却の水ではもう火照りも誤解も冷めない。


 ヒロインズの“個別好感度”は、知らぬ間に爆上がりしていた──

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