第40話 3人で
再び藤野家に着いたのは家に着いたのは23時ちょうどだった。ベルを鳴らし、中に入ると、パジャマ姿の二人が迎えてくれた。風花はレモン色、凛花は水色のパジャマを着ていた。
(……かわいい)
普段よく見ている制服とは異なり、極めて家庭的な姿に俺はドキッとさせられてしまう。おそらく二人のこんな姿を見れるのは俺だけだろう。しかも二人とも、首元のボタンを留めておらず、胸元が大きく開いていた。高校生の男子には刺激が強すぎる。
動揺していることを悟らせないように冷静を装いながら俺は二人の後をついていく。中野から八王子までは自分のオーラで飛んできたため、そろそろ本格的に眠い。おそらく、オーラが切れてしまっているのだろう。スーツで飛んでも良かったのだがまた着替えるのが面倒だった。あくびが出そうになるが何とか我慢しながら階段を上がっていく。
案内された場所は二階だった。ドアを開けるとそこは10畳ほどの和室だった。部屋の左端と右端にそれぞれ学習机や箪笥が置かれているおそらくここは風花と凛花の部屋なのだろう。女子の部屋にしてはやや殺風景だった。しかし、注目するべきは部屋の家具の配置とかではなく部屋の中央にあった。
布団が一枚しか敷かれていなかったのだ。大きさはダブルサイズはありそうだから三人でも寝れそうではあるが……。
(まじか……お母さん……)
「普通、16歳の娘と同じ布団で寝かせるか」とか、「何を考えてるんだ」とか、いろいろお母さんに言いたいことはあったが、この状況で何か言うのは風花と凛花に悪いだろう。しかし、一応二人に確認だけは取っておこう。
「あの、3人一緒に寝るの?」
「そうだよ」
「もう婚約者なんだし別にいいでしょ」
(なるほど、二人が気にしてないことはよくわかった。確かに高校生と言えど許嫁同士なら同じ布団で寝ても問題はないだろう)
「そっか。じゃあ失礼して……」
俺はためらわずに布団の真ん中に寝転んだ。マットレスが良い物なのか寝心地がとてもいい。枕も俺が好きな硬さだった。これならすぐにでも眠れそうだ。
二人も布団の中に入ってきた。俺の右側に凛花、左側に風花が横になっている。
今にも寝てしまいそうなほど眠いが、二人が両隣にいることでドキドキもしている。
(こんな最高な状況なんだ。まだ寝たくない! 一晩中でも起きていたいぞ)
しかし、どんなに強く意識を保とうと思ってもオーラ切れの眠気には抗えそうもない。徐々に瞼が落ちてきてしまう。
凛花と風花も緊張しているのか、何も言葉を発しない。この静寂は良くない。睡魔に意識を奪われそうだ。
なにか話そうとも思うが、この状況で何を行ったらいいか分からなかった。
「遥斗くん。もう少しそっちに行ってもいいかな」
左に寝ている風花が口を開いた。
「うん」
俺が答えると、風花が体がくっつくほど近づいてきて、俺の左腕に抱きついてきた。それを見たのか、右にいた凛花も同じように距離をつめてきて右腕に抱きついてきた。
(えっ!?)
マシュマロのように柔らかい感触が両腕に伝わってきて、俺の眠気を吹き飛ばした。
(二人とも……下着をつけてないのか)
腕に伝わってくる生温かい感触が、脳を刺激してくる。
(なんだなんだ? 莉乃もそうだったけど、最近の女の子はこんなに積極的なのか? こんなの耐えられるわけないだろ!!)
確かに以前から二人は積極的だった。風花にはハグされたし、凛花にはキスをされた。しかし、これは流石にやりすぎじゃないか。俺らはまだ高一だぞ。
二人はさらに胸を押し当ててくる。また、髪からもわけがわからない良い匂いが伝わってきて頭がおかしくなりそうだった。
(なんだろう。2人の密着具合が増えた気がする。まぁ、もう婚約してるんだから別にいいんだけど……)
俺はなんとなく頭を傾け左にいる風花の方を見た。すると顔を真っ赤にしている風花と目があった。たまらず、右側を向くと凛花も激しく頬を赤らめていた。
「可愛すぎるだろ!! 二人とも!! 心臓が破裂しちゃうよ!!」
俺はたまらず声を上げた。
「あはは!! やっと反応してくれた!!」
風花は心から楽しそうに笑っている。
「けっこうかかったわね!! でも、良い顔見れたわ!」
凛花も満足そうな笑みを浮かべている。
「自分達の異常な魅力をもっと認識してくれ!! こんなことされたら頭がおかしくなっちゃうよ! 頭の血管が破裂するかと思った!!」
「あはは! ごめんごめん。私たちは遥斗くんの困った顔や驚いた顔を見るのが大好きだからさ。ついやっちゃった」
「でも血管が破裂しちゃったら大変だからこの態勢は変えようか。遥斗くん。両手を広げて大の字で寝そべって」
二人は腕を離して上半身を起こした。俺は言われるがまま両手を広げた。すると、二人が俺の腕を枕にして寝転んできた。しかも俺の胸な顔を乗せるようにしながら。身体が全て密着していて、むしろさっきよりも温もりが伝わってくる。
(いや、これもだめだろ! くっつきすぎだ。心臓がもたないよ……)
再び動きを速める心臓の鼓動を感じながら焦っていたが、二人はすごく幸せそうにしていた。
(ま、まぁ、もう二人は許婚だからな。これぐらいは俺も慣れなきゃだめだよな)
俺は少しだけ冷静さを取り戻した。すると二人の温もりが直に感じられ、幸せが込み上げてきた。
「最高……。ずっとこうしたかったんだ……」
風花が甘えたような声でつぶやいた。
「思っていた以上にいいわね。毎日こうして寝たいわ……」
凛花も恍惚とした表情を浮かべている。
「確かに最高だ……。幸せすぎる……」
(好きな人とくっついて寝るのってやばいんだな。なんかやばい物質が頭の中で出てるみたいだ)
二人の愛情が温もりとなって身体に伝わってきて、そのまま全身に広がっていくような心地だった。まるで天国にでもいるような幸福が、広がっていく?
しばらくその態勢のままでいると身体が温められてしまい、再び睡魔が襲ってきた。完全にオーラが切れてしまっているようだ。
「二人とも、ごめん。力を使いすぎちゃったみたい。たぶん、すぐ寝ちゃうかも……」
「えー!! 夜はこれからなのに!」
風花から悲しそうな声が聞こえてきた。
「ごめん、無理そう……だ、二人とも、いつもありがとう。大好きだよ……」
意識が途絶えて行った。
♢ ♢ ♢
「本当に寝ちゃったね!」
「仕方ないよ。東京中を守ってきたんだから」
「遥斗くん。ずっと、守ってきたんだね。誰にも知られないようにしながら……。私たちと同い年なのに……」
遥斗の寝顔を覗き込みながら風花がしみじみと呟く。
「さっきも、ほんと凄かったのよ!! 体育館のみんなを守ったとき!!」
「凛ちゃん! その話10回は聞いたよ。もう分かったって!!」
「いや、分かってないよ! あの時の遥斗くんのかっこよさはやばかったんだって!! みんなが大興奮だったんだから!! まるでライブ会場みたいで……」
「いいなぁー 魔物は怖いけど、遥斗くんの活躍は見たかったよ! 遥斗くんって本当に凄いね」
「うん。凄すぎるよ」
「寝る瞬間、大好きっていってくれたね」
「うん」
「すっごくドキドキした」
「私も」
「遥斗くんって、かっこよすぎない?」
「ちょっとすごすぎだよね……。かっこ良すぎてまだ、受け止めきれないよ」
「わかる……。でも、もう遥斗くんは私たちの婚約者なんだよ」
「やばいね。最高に幸せ……」
風花と凛花は遥斗の頬を指で突いている。起きる気配はない。
「寝てる顔かわいいね」
「ほんと」
「ねぇ、キスしていいかな」
「だめよ。私も考えたけどさ。起きてる時じゃないと……」
「はぁ。残念……。じゃあ、ほっぺは?」
「それならいいかも」
二人は遥斗の頬に口付けをした。二人とも幸せそうに微笑んでいる。
しばらくして風花が口を開いた。
「遥斗くんをメロメロにしなきゃ、誰かに取られるって、お母さん言っていたけど、そんなことあると思う?」
「ないと思いたいけどさ、お母さんの言うことだからあり得るのかもしれないわね。今まで、お母さんが嘘言ったことってなかったし……」
「確かに。でも遥斗くん、今でも十分私たちのこと愛してくれてると思うよ」
「私もそう思うわ。でもお母さんの言うとおり、遥斗くんにもっと好きになってもらうために頑張って行ったほうが良いと思う。お母さんは、占いもできるしね……」
「分かった。じゃあ変に気を抜かないで、もっと好きになってもらうようにがんばろっか!」
「そうだね。万が一にも失いたくないからね」
二人は遥斗を眺めながら話を続けた。
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