第8話 妖魔殲滅部隊 

 午後七時。俺は中野区鷺ノ宮の一画にある妖魔殲滅部隊専用の地下訓練施設にいた。毎週水曜日は七番隊の隊員たちが集まり訓練をすることになっていた。


 普段、24時間体制で街を守っているため、顔を合わせることは少ないが水曜日の18時から20時だけは集まることになっていた。


 ここは東京ドームほどの広さがある地下訓練場で、今は模擬戦をしている最中だった。相手は同じ七番隊の隊員の有馬翔さんだ。有馬さんは24歳の男性で身長は165㎝ほどと少し小柄だ。しかし、身体は大きくは無いが有馬さんが持つ能力は強力だ。


 有馬さんは自分が持つオーラを爆弾に変えることができる。作り出した無数の爆弾を俺に向かって投げつけてくる。直撃したらかなり痛いだろう。


 ただ、有馬さんは性格が直情的過ぎるため、手玉に取りやすい。もう少し攻め方を工夫した方がいいんじゃないかと後輩ながら思ってしまう。


 俺は自分目掛けて飛んでくる爆弾を念力で操作し、訓練場の壁にぶつけていく。ここの壁は建設系の能力者によって極めて頑丈に作られており、簡単には傷がつかない。


 壁にぶつかった爆弾は激しい音と共に次々と爆発していく。もうすでに50発以上は防いだだろうが、有馬さんは懲りずにひたすら投げつけてくる。


 その辺のA級モンスターであれば、爆発によってかなりのダメージを負うだろうが、正直言って俺にはこの程度の力は通用しない。


(いつまで続ける気なんだろう。このまま続けても勝ち目はないだろう……。そろそろ終わらせるか……)


 爆弾を防ぎ続けるのは造作も無かったが、正直そろそろ飽きてきていた。有馬さん体を念力で支配し奥の壁にぶつければ立ち合いは終わるだろう。


 俺が念力で有馬さんを拘束しようとした瞬間。有馬さんの身体のすぐ前方でで爆発が起こった。瞬く間に黒煙が広がって行き、有馬さんの姿を見失った。俺はすぐに自分の周囲にオーラを巡らせると有馬さんの姿を捕捉しようとする。


 すぐに、煙にまぎれて右斜め後ろから近づいてくるのが分かった。有馬さんは右手につかんだ巨大な爆弾で俺を自分事爆破するつもりなのだろう。だが、そうはさせない。


 俺は強力な念力で自身の身体を操作する。黄色いオーラが全身に充満していく。この状態の俺の速度は音速を超える。俺は超高速で有馬さんに近づいていくと、後ろに回り込み臀部を蹴り飛ばした。


「がぁあああーーーーーーーー」


 有馬さんはうめき声を上げながら数十メートル離れた壁に激突すると、地面に倒れ伏した。


「勝負あり!!」


 審判の掛け声がかかり模擬戦は終わった。


 同じく七番隊の隊員の早見沙良さんが急いで有馬さんに駆け寄って行く。すぐに結城さんは回復能力を発動させ、有馬さんの身体を治療していく。


 紗良さんは22歳の女性能力者で、七番隊唯一の回復能力持ちだ。即死でなければほとんどの傷は一瞬で治すことができるため、日本でも5本の指に入るヒーラーを呼ばれていた。妖魔に傷つけられた人たちを瞬時に回復させるのを今までに何度も見てきた。

 

 一目でわかるほどの美人なのだが、長い黒髪に、いつも寝癖があったり、かなり地味なメガネをかけていたりするところを見る限りおしゃれとかには全く無関心なのだろう。


 性格は優しさに溢れており、いつも仲間を気遣ってくれる。2年半前に俺が入隊した時もすごく親切にしてくれたのを覚えている。兄弟のいない俺が姉のように慕っている人だった。


「もぉ、遥斗くん。やりすぎだよー。背骨が折れてたよー」


「すみません。有馬さん、力加減を間違えました……」


 思わぬ動きにちょっと驚いたのは事実だったので素直に謝る。持って傷つけないで勝つ方法はいくらでもあった。

 

「いや、良いんだよ! 遥斗! いつも言ってるだろ!! 勝負は本気でやらなきゃつまらねぇって!! でもな、ずりーよその力は! チートすぎだろ!! 一体どうやったら勝てるんだよ!!」


 有馬さんは起き上がると悔しそうな顔をしながらそう口にした。


「はっはっは! 諦めろ有馬! 遥斗には俺でも勝てないんだ! お前には無理だ!」


 審判をしていた隊長の鏑木源三が野太い声を発した。鏑木は190センチを超える身長とボディビルダーのようにムキムキの筋肉が特徴的だ。年齢は38歳のはずだが、正直20代に見えるほど若々しく見た目をしていた。黒髪を短く刈り上げている。


「隊長ー、そんなこと言わずアドバイスしてくださいよ。一度でいいから遥斗に勝ってみたいんすよ」


 隊長の言葉を聞いて有馬さんは不満そうな声を出した。


「残念ながらそれは無理だな。お前だから無理なんじゃない。ここにいる俺たち全員不可能だ。努力でどうこうなるレベルじゃない」


「いつも、不可能を可能にするのが人生の醍醐味だって言ってるじゃないですか! どうしてそんなに弱気なんですか? 隊長らしくない」


「こればっかりはな……。間違いなく遥斗の力は全ての能力者の中で三本の指に入るだろう……。いや、すでに最強の可能性も十分にある」


 隊長はしみじみと呟いた。


「強いとは思いますけど、それ程ですかね?

まだ15歳ですし……」


 有馬さんは頭を捻りながらに俺を見てくる。


「じゃあ聞くが、遥斗。さっきの戦い。お前の実力のどれぐらいの力を出した?」


 隊長の言葉に俺は一瞬口にするのを躊躇う。


「いいぞ。俺に気を遣わないで、正直に言えよ」


 しかし、有馬さんの言葉を受け素直に答えた。


「まあ、20分の1ぐらいですかね……。たぶん」


「くっそ! マジかよ!! お前、手を抜いてやがったな!! 本気でやれって! いつも言ってるだろうがよー」


「ばかやろう! 遥斗は特級戦力だぞ!? 本気でやったら即死させてしまうから手を抜いてるんだろうが。有馬、これに懲りたらあまり上を目指してばかりいないで地道な鍛錬を続けるんだな!」


 特級戦力というのは妖殲の中でもずば抜けた力を持つ者に与えられる呼称だ。数字で言うと600万以上のオーラを有するものを指す。日本には現在、俺も含め13人の特級戦力がいる。


特級戦力は国の宝にも等しい待遇が受けられる。一国の軍事力と同等の力を持つと政府は外国に向けて発表しているがそれは流石に大袈裟だろう。


「くっそぉー。遥斗、俺は諦めないぞ! いつか絶対に倒してやるからな!! 来週もまた勝負だ!!」


 有馬はひとしきり叫ぶと、一人で腕立て伏せを始めた。全くどこまでも熱血な人だ。


「めきめきと力をつけているな。これからも頼むぞ! 遥斗、お前がうちのエースだ!」


 隊長を筋トレを続ける有馬さんを横目で見ながら穏やかな笑みでそう口にした。


 副隊長である。橋本美奈さんのふとももの上に頭を乗せながら……。


「ありがとうございます。でも隊長、副隊長、いちゃつかないでくださいよ。一応、今は仕事中ですよ」


 副隊長の橋本さんも隊長を膝の上に乗せて嬉しそうにしている。たまに、隊長の頬を優しく撫でたりしていて見るに耐えない。


 橋本さんは31歳の女性で金髪を縦ロールにしている。トロンとしたタレ目が特徴的な見た目をしている。こう言っては失礼かもしれないが、キャバ嬢のような見た目をしていた。


 橋本さんは頭がよく作戦立案のスペシャリストなのだが、悪い意味でおおらかで、いつも隊長とイチャイチャしている。


「あら、別にいいじゃない。固いことを言わないでよ。今日は珍しく平和なんだし」


「遥斗君の言う通りですよ! 真面目に行きましょうよ真面目に!! っていうかそんなにいちゃつくなら早く結婚してくださいよ! まったく!」


 紗良さんが俺に同意してくれる。


「よし、じゃあ俺らも久しぶりに模擬戦でもやるか!」


「あら、いいわね!!」


 二人は立ち上がって訓練場の奥へ行くと闘い始めた。


 今ここにいる5人が練馬、中野、杉並で構成される妖魔区域第七区を守っている七番隊のメンバーだ。


 個性的な人達だけど、仲は悪くない。隊長と副隊長にもう少ししっかりしてほしいという不満はあるが、基本的にみんないい人たちだ。


 正直、街を守り続けることは大変だ。昼夜問わず街を守らなければならない。学校を早退しなければならないこともあるし、真夜中に起こされることも多い。


 だけど、俺はこの仕事が好きだ。とてもやりがいがあるし、何より、自分の力を周りの人間のために役立てることができるのが嬉しかった。


 だから。たとえどんなに疲れている時であろうと街のみんなのために頑張ろうと決めていた。仕事を始めてから今までの期間、引き受けられる任務は全て引き受けた。また、他の地区や、他県からの応援要請にも全て応えてきた。


 大変なのは仕方ないだろう。これは仕事なのだから。プライベートの時間を全て捧げてでも街を守るつもりだ。


 ただ、藤野さんとだけは付き合わせてほしい。あの人は俺の元気の源であり、頑張るための原動力だ。心から大好きだった。


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