第8話 第二試合 不動仁王VS 熊拳グリズリー=ベック!
歓喜する観客やスター流の面々をフードの奥から目を光らせて一瞥した神拳団の男は言葉を発した。
「ピギーは敗れたか。途中までは圧倒していたが足元をすくわれたな」
「だが、聞くのと見るのではやはり違う。軟弱に見えても底力がある。よほどあのスターという指導者が優秀なのだろうな」
「うむ。油断はできぬな……」
第二試合、リングに上がったのは不動仁王だった。身長198㎝の筋肉質の巨体。
背中まで伸ばした茶髪。猛禽類のように鋭い眼力。スター流のメンバーの中でも特に威圧的な外見を持つ不動の登場に会場は更に沸き立つ。不動は最も前線に立ち戦闘経験が豊富であり、皆から期待されている。
誰が相手もいつも通り往生させると信じている。
不敵な笑みを浮かべた不動の前にフードを被った巨躯が前に出た。バッとフードを外すと不動よりも二回りは巨大な熊の怪人が現れた。
胸も腹も腕も不動の数倍の太さだ。
太く鋭い爪が生えている。
「俺は神拳団の熊拳使い、グリズリー=ベック!」
「俺は怒りをもって人を救いに導く不動仁王(ふどうにおう)だ」
「フン。貴様の名は知っている。フライマンを倒したようだな」
「ハエのガキは俺が往生させた」
「奴は我らの中で最弱だった。同じ相手だと思うな」
「ガキ、俺はお前が往生させてやる!」
どれほどの巨躯が相手でも不動は自分の流儀を崩さない。
背を向けると彼の背筋が躍動した。大きくて頼もしい背中だった。
試合開始から重々しい空気が漂っていた。
両者ゆっくりと歩を進め、王道の力比べ。
両者の腕力が衝突する。
最初は拮抗しているかに見えた腕力勝負だが、徐々に不動が押され出す。
腕を逆に極められ苦悶の表情を見せる不動にグリズリーは鼻を鳴らした。
「多少はできそうだが、この程度か」
「俺を舐めるな。熊のガキ」
どうにか盛り返してきたが、その展開にスターの顔に僅かに苦笑し。
「まさか不動君より力で上の子がいるなんてねぇ」
「予想外ですな」
「ジャドウ、スター。俺がこのガキより劣っているというのかッ」
「残念ながら」
ごくあっさりと決めつけるジャドウに不動は力比べを解いて軽々とグリズリーの巨体を持ち上げマットに叩きつけた。
「これでも俺が負けているというのか!」
更に持ち上げ、コーナーへ放るとグシャリと音がした。巨体の衝突でコーナーの鉄柱が折れ曲がってしまったのだ。
過去、そのような事例はスター流の歴史にはなかった。
グリズリーは難なく立ち上がり両手を広げる。仁王立ちした姿はまさに熊そのものだ。
「来い」
「貴様、俺を挑発するつもりか」
「お前の打撃など何発食らっても効果はない」
「面白いッ」
不動は巨体に似合わぬ俊敏さで間合いを詰めると怒涛のラッシュを開始。
岩のような拳で太鼓のようにグリズリーを殴りまくるが彼は微動だにしない。
完全ノーガードにも関わらず流血ひとつしない現実にさすがの不動も目を見開いた。
「どうやらハエのガキよりはできそうだな」
「我ら神拳団最高幹部を甘くみるな~ッ」
先ほどとは逆にグリズリーが不動を持ち上げマットに叩きつけ、思い切りコーナーへ放ったが、激突寸前に不動は身を翻してコーナーバックルを蹴って反動をつけ、ロケットのように突撃していく。加速のついた頭突きを腹に受けたグリズリーだったが、ニヤニヤと笑うだけだ。
「弱い。弱すぎるなあ!」
下から上へと振るわれた爪による一撃でついに不動は流血。
鋼の肉体さえも物ともしない黄金の爪だ。
パッと血が噴き出し不動の胸や腹が血に染まるが、口の端は笑っていた。
「何がおかしい」
「貴様はどうやら試金石になれるやもしれん。俺がスターを超えるための」
「随分と上からの物言いだが、いつまで持つかな」
「やっと俺も本腰を入れて戦う必要がありそうだ」
不動は熊爪の一撃で目が覚めたと言わんばかりに闘気を放出し、グリズリーの頬を殴る。
先ほどとは比較にならぬ一撃に熊拳使いがよろめいた。
「もう一度言う。熊のガキ、貴様は俺が往生させてやる!」
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