あのとき俺を裏切った双子姉妹の姉に、なぜか懐かれています

棺 藍子

あのとき俺を裏切った双子姉妹の姉に、なぜか懐かれています

一年生

1 二度目の浮気とトラウマ

 なぜ、俺の人生はクソみたいなことばかりなのか、いまだによく分からない。

 神様、俺のどこがそんなに気に入らなかったんですか? どうして俺にだけ。

 ちゃんと幸せになれると思っていた。可愛い彼女と付き合って、これから幸せになることだけを考えていたのに、それだけを考えようとしていたのに、どうしてだ。


 どうして———また。


 俺の名前は黒瀬夕日くろせゆうひ、高校一年生。

 ちょうどイブに冬休みが始まったから、今年のクリスマスは彼女の椎名葵しいなあおいと楽しい思い出を作ろうとしていた。そのためにケーキを買って、クリスマスのプレゼントも用意して、当日にサプライズをしようとしていたのに。そのすべてが水の泡になってしまった。


 十二月二十四日。

 カップルたちの笑い声が聞こえる繁華街の真ん中で、俺だけ白い息を吐いている。


「…………」


 今度は上手くいけると思っていた。

 一度浮気されたことあるから、今度は何があってもちゃんと彼女のことを優先していたのに、何が問題だったんだろう。


 見てしまったんだよ、目の前で知らない男と抱き合っている二人の姿を。

 そして葵がつま先立ちをして男の方にキスをするのも———。


 神様、いっそ俺のことを殺してくれませんか?

 よくあるじゃないですか。トラックに轢かれて異世界に転生し、幸せな人生を送る内容の小説が。そっちの方がいいかもしれない。こんな人生……、生きていく意味はあるのか? いや、死んだ方がいいかもしれない。マジで。


 そんなふざけたことを考えている時、葵からラインがきた。


(葵) 夕! 今日は友達と約束があるから返信が遅くなるかもしれない!


 見ているよ、二人には俺が見えないのか?

 ホテルの前で抱き合って、キスをして。入る前に優しく俺にラインを送ってくれるのか? その親切さにどうすればいいのか分からなかった。優しすぎる。本当に優しすぎる。いろんな意味で最高だった。


「…………」


 今日大雪が降っているからか、文字を打っている俺の指がすごく震えていた。

 そして涙も出そう……。その場で打っては消してを何回繰り返したのか分からないけど、一応「分かった。友達と楽しんで」と送るしかなかった。


 その後、じっと目を閉じる。

 すると、画面に涙が落ちた。

 あの時と同じ衝撃を受けて、しばらく思考が停止したのを感じる。

 俺には一体何が足りなかったんだろう。


 今すぐあのホテルに行って葵に「何をしているんだ」と聞くのもできるけど、俺はそうしなかった。意味がないから。もうこんなことに慣れていると思っていたのに、慣れるわけないよな。好きな人に裏切られるのは一回で十分なのに……、まさかもう一度裏切られるようになるとは思わなかった。


 これからどうすればいいんだろう。

 それも心配になるけど、今日丸一日葵のプレゼントで悩んでいたからご飯を全然食べていない。腹が減った……。


 今日はずっとドキドキしていたからうっかりしていたかも。


 仕方がなく、家から近いところにあるコンビニで適当に弁当を買うことにした。

 何も考えたくないな。今は……。

 そしてお会計をしようとした時、電話をしていた外国人が前にいる女性のバッグを盗むとんでもないシチュエーションが起こってしまった。近いところに有名な観光地があるからか? 躊躇せず、すぐあの外国人を追いかけた。


 びっくりして何もできないように見えたから、俺がなんとかしないと……。

 すごく面倒臭いけど、仕方がなかった。


「おい! どこ行くんだよ! 止まれ!」

「あああ!」


 こいつ、走るのクソ遅いのになんであんなことをしたんだろう。


「捕まえた! くっそが」

「うわぁ……!」


 大声を出す外国人は持っていたバッグを俺の顔に投げた後、そのままどっかに消えてしまった。ついてないな、今日は……。


「くっそ」

「あ、あの……! すみません」


 すると、コンビニにいた女性が俺のところまで走ってきた。


「ああ、犯人は見失ってしまいましたけど、バッグは無事です」

「あ、ありがとうございます!」

「いいえ」


 周りに街灯がないから顔がよく見えなかったけど、この声を俺はどっかで聞いたことありそうな気がする。気のせいだろう、知り合いだったらすぐ俺に声をかけたはずだから、気にせずコンビニで弁当を買うことにした。


 そして早く家に帰りたい。


「すぐ通報しました。ありがとうございます」

「いいえ。えっと……」

「あっ、870円です」

「はい」


 すると、コンビニに戻ってきたあの女性が俺に千円札を渡した。


「さっきのお礼です」

「あっ、いいえ! 大丈夫で……す。あれ? 葵?」


 あれ? なんで知らない男とホテルに入ったはずの葵が今目の前にいるんだろう。

 しかも、さっき友達と遊ぶってラインまで送っただろ? 嘘だったけど。

 どういうことだ? その顔はどう見ても葵だったから、その場で体が固まってしまう。そしてふと思い出したこと、葵は双子だったってこと……。


「お、お客様? 大丈夫ですか?」

「ああ! す、すみません。千円でお願いします」


 あの女性にもらった千円を返した後、自分の財布から千円を出した。

 すごく慌てている、俺。

 てか、目の前にいる人がもしあの椎名澪しいなみおなら俺は……本当に神様を恨むかもしれない。彼女に裏切られたばかりなのに、どうして目の前に澪がいるんだろう。これはきっと見間違いだ。そう思うことにした。


 意味ない、それ以上考えても意味なんてない。


「ありがとうございます」


 そう言った後、逃げるようにコンビニを飛び出した。

 あの姉妹はどっちもクズだからさ。

 さっきの声どっかで聞いたことありそうと思ったら澪だった。じゃあ、俺は澪を助けてあげたのか?

 

「なんでそんなに急ぐの? 私に言いたいことないの? 夕日くん」


 コンビニの前で俺を呼び止める澪、どいつもこいつも何もかも全部ムカつく。

 やっと忘れられると思ったら、このタイミングで俺の前に現れるのか? 澪。


「はあ? 俺が? 椎名さんに?」


 そして俺の前に立つ澪と目を合わせた。何をするつもりだろう。

 てか、近いところで見ると確かに澪だな。目尻のところにほくろがある。

 二人は一卵性双生児だから、俺は幼い頃からずっと目尻のほくろで澪と葵を見分けていた。相変わらず、可愛くて葵とそっくりだな。当たり前のことだけど。でも、どうしてここにいるんだろう。


 中学生の頃に引っ越したんじゃなかったのか? 俺を裏切って……。


「…………」


 すらりとした体型と俺がずっと好きだった黒髪ロング。葵とは全然違う。

 相変わらず、その大きい瞳は俺を見ていた。

 でも、その悲しそうな表情はなんだ。よく分からない。


 そして少し赤くなっているその頬は天気のせいかな……、白い息を吐いている澪は寒そうに見えた。大雪が降っている日にスカートだなんて、女の子はマジで理解できないな。とはいえ、葵も短いのを履いていたような気がする。


 馬鹿馬鹿しい。


 仕方がなく、俺のマフラーを巻いてあげた。

 小学生の頃からずっと一緒だったからか、すぐ無視するのはできなかった。

 幼馴染だったからさ。


「夕日……くん」

「そのマフラーもういらないんで返さなくてもいいです。そして風邪ひくかもしれません、早く帰ってください。椎名さん」

「なんでそんなに冷たいの? なんで……、いつも私にだけそんなに冷たいの?」


 いきなり泣き出す澪に俺はびっくりした。


「何を……、言ってるんですか。帰ってください、椎名さん。俺はもう椎名さんと会いたくないんです。帰ってください」

「椎名じゃない。私は宇垣澪うがきみおだよ」

「そうですか、宇垣さん。はい……。では、先に失礼します」


 マフラーを巻いてあげること、俺にできるのはそれだけだった。

 俺の前にいる澪は浮気をした葵と同じクズだから、それ以上関わりたくなかった。

 なぜ、悪いことが連続で起こるんだろう。ついていないな。


「待って……! 夕日くん。私、ずっと夕日くんに話したいことがあったから待っていたよ。ずっと我慢していたよ」


 そう言いながら俺の手首を掴む澪に吐き気がした。気持ち悪い。


「お前も……、葵と同じクズだろ? 今更、何を話しに来たんだ? 『あの時のことは誤解だった』みたいなことでも言うつもりか? 言っておくけど、俺は……俺にはもう何も残ってないから帰れ。帰ってくれ、その顔を見ると吐き気がする」

「やっぱり、浮気されたんだ……」


 はあ? それを澪が言うのか? 思わず拳を握ってしまった。

 でも、どうしてそれを……。

 いや、今更そんなことを考えても意味はない。


「…………」


 俺の初恋は澪で……浮気された澪と別れた後、葵と付き合った。

 そしてまた浮気された。

 その事実は絶対変わらない。


「夕日くん」


 あの時のことを思い出して、すごく気持ち悪い。


「話したいことがあるから、うちに行こう。ここから遠くないから……」

「嫌って言ったら?」

「話を聞いてほしい。これは重要な話だから……」

「…………」


 彼女に浮気された日、俺は俺を裏切った初恋の人と出会った。

 偶然、コンビニで。

 偶然、バッグを盗まれて。

 偶然、澪の家に行くことになった。


 でも、あの時みたいに澪の涙を拭いてあげるのはできなかった。

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