第5話 戻って来たシロベルちゃん

「キュイイイイーッ!」


 ——その声で、まわりの空気がピンとはりつめた。


  あれは、鷹だ! ―空のナイト—が、みんなを呼んでる!

    

 私は人形をそっと下ろして、『くつろぎルーム』の上にひろがった青空を見上げた。


 みんなの声が、あんなに楽しそうにひびいていたんだもん。

 きっと、何かが起こる——そう思った、そのとき。


「あっ、ナツキ! あれ見てっ!」


 フユキが指さした先に——


「ピチュピチュ♪」「チュンチュン♪」「ピィピィピィ♪」


 メジロ、スズメ、ヒヨドリ……色とりどりの小鳥たちが、さえずりながら空へ舞い上がっていく!


「えっ……うそっ、クリスタルの玉から、本物の小鳥が飛び出してきたの!?」

「ナツキ! ほんものだよ、ぜんぶ!」


「わぁーっ!」

 客席から、子どもたちの歓声がわきあがる。


 これって……夢なの?


 私も、フユキも、ハジメも、うさぎさんも、ただ息をのむばかり。

 まるで時間が止まったみたいだった。


「……みんなで、“クリスタルの夢”を見たんだよ! この児童館で、同じ時間に、同じ夢を!」


——うさぎさんがそう言ったしゅんかん、みんなでさけんだ!


「やったーっ! 小鳥たち、外の世界に出られたんだ!!」


 もう、うれしくて、涙がこぼれそうになっちゃった。


◇  ◇


 照明がふっと暗くなり、ぶたい裏のクリスタルの玉だけに、スポットライトがあたっていた。


「えっ? 人形げきのぶたいに戻ってきたの?!」と私。

「……みたいだけど。これ、まだ、げきの途中とちゅうだよね」とフユキ。


 すると、ハジメがあわてて、


「うさぎさんっ、最後のナレーション!」

「わかった! しっかり、げきをしめくくらなくちゃね!」


 そして——


 うさぎさんのナレーションが、静かに客席に流れはじめた。


——こうして、みんなが見た夢は、ほんとうになりました。

  小鳥たちは自由になり、空へと飛び立っていったのです。

  あなたのやさしさも、きっとどこかで、だれかを助けているかもしれません——



 パチパチパチパチッ!!


 客席から、はくしゅが波のようにわきおこる。

 そして、私たちの人形げき『クリスタルの夢』は、最高のフィナーレを迎えた!


「ほらほら、みんな、終わりのあいさつ~! 人形を持って、ぶたいの前に並んで」


 ニコニコ笑顔の児童館の先生の声に、私はまわりを見わたした。

 でも——


鷹司たかしくんがいないよ!」


 みんな、キョロキョロとあたりを探したけれど、どこにも見つからない。


「しかたない。とりあえず、ぼくらだけであいさつだ」

 ハジメがそう言ってみんなを集めた。


「「「「ありがとうございましたっ!!」」」」


 私、フユキ、ハジメ、うさぎさん。

 それぞれの人形を手にしっかりと持ちながら、深々と頭をさげた。


 大きなはくしゅが、また広がる。


——こうして、私たちの人形げき『クリスタルの夢』は、幕をとじた。


◇  ◇


「なんか、演出えんしゅつすごかったー」

「うん、ほんとうに夢の中みたいだったー」


『くつろぎルーム』から出ていく子どもたちの声が、いつまでも耳にのこった。


「でもさ、最後のシーンって、ぼくらがやったんじゃないよね」とフユキはまだ、こうふん気味。


 私は「う~ん」と考えて、空をみあげた。すると——


「きっと、あれはクリスタルの玉のふしぎな魔法の力が、発動はつどうしたんだよ」と、うさぎさん。


「まあ、ぼくの作戦は大成功だったな!」ハジメは満足そう。


 けれど、私はまだ、ふわふわとよくわからない気もち。


「さあ、あとかたづけ、するよ~。かたづけて、帰るまでが夏のイベント!」

 うさぎさんが明るく言って、私たちは、げきのあとかたづけを始めようとした。

 そのとき——


「フユキくんっ!」


 バタンッて、扉が開く音がして——

『くつろぎルーム』に、黄緑色きみどりいろのカーディガンを着た女の子がとびこんできたの。

 そのうしろには……鷹司たかしくん!


「シロベルちゃん!!」


 そのときのフユキったら、笑ってるような、泣いてるような——まるで空に虹がかかったみたいな顔をしてた。


「もどってこれたんだ!」

「うん。フユキくんたちが、がんばってくれて、 カステラ……すっごくおいしかった」


 私はそれをきいて、びっくり。

「えっ、でも、げきの中の話なのに」


 鷹司くんのほうを見ると、彼はしずかにコクンとうなずいた。


「みんなの気持ちが、クリスタルに届いたんだよ」


 そして、いつもの涼しげな笑顔で——こう言ってくれたの。


「あの人形たちが見た夢は、ほんとうになったんだ」


「やったーーっ!!!」


 それをきいて、みんなで、大歓声をあげた。

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