第6話 おこった鷹司くん

 夏休みに、児童館のイベントに参加することがきまった。

 わたしたちの出しものは、人形げき『クリスタルの夢』。


 本番まではあと一ケ月半。

 だから、いま、そのじゅんびで大いそがしなの。


 ハジメは人形げきのお話をつくってる。

 うさぎさんは、衣しょうとぶたい担当。ぶたい作りは児童館の先生も手伝ってくれるみたい。

 わたしとフユキは、百円ショップを見たり、家の中を探したりして、材料あつめ。

 鷹司たかしくんは、それぞれの作業を手伝ってくれる。そして、みんなで人形づくり。


 人形に色をぬっているとき、ハジメがこっそり私に話しかけてきた。


「ちょっと聞いたんだけど、神城かみしろって、夏休みが終わったら転校するんだって? 引っこし先の住所とか聞いてんの?」

「ううん。はっきりしたら教えてくれるって」

「そういうのは、ちゃんとやっておかないと。ほかの“し”に取られちゃうぞ」


 ……へんなこと言うなぁ。

 『取る』とか『取られる』とか、そういうんじゃないでしょ。


 ちらっと鷹司くんを見た。

 うさぎさんと作業をしながら、にこにこしているのを見ると、なんだか胸が“きゅっ”となる。


 このきもち、やだな……。どっかにいっちゃってー!


 

◆  ◆


 放課後ほうかごやお休みの日、わたしたちは児童館でげきのれんしゅうをしてる。

 イベントの日も、もうすぐそこ。がんばらなくちゃ。


 その日、いつものように児童館の『くつろぎルーム』で、げきのれんしゅうをしてたとき――


「ねえ……鷹司、ちょっといい?」

 って、ドアの外から声がした。

 六年二組のメガネ女子だ! 鷹司くんしの。


 その子を見たとたん、フユキはハジメのうしろにシュッとかくれた。


「おい、フユキ、ちゃんとバシッと言ってやれよ!」

「やだよ、こわいもん。ハジメが言えばいいじゃん」

「シロベルがいじめられたとき、お前、「やめろーー!」って言ったんだろ!」

「そのときと、今はちがうもん~」


 私はドキドキしながら鷹司くんを見た。

 ふだんはやさしいのに、きょうの鷹司くん、なんだか目がこわい。すっごくおこってる。


「なに? 今、忙しいんだけど」


「あ、あの……五年生のあの子、学校に来てないって聞いたから……元気かなって……たしか、鷹司の親戚しんせきだったよね?」


 もしかして、いじめたこと、ちょっとは気にしてるのかな?


 そのとき、フユキが言った。

白鐘しろがねさん、転校したよ。だから学校に来てないんだ」


 ——シロベルちゃんは、クリスタルの玉の中だなんて言えないもんね。でも、メガネ女子は、


「えっ……それって、私たちのせいで……?」


 って、しょんぼり。


「ごめん。あの子が鷹司と仲よさそうだったから、ちょっとうらやましくって……」

 って、今にも泣きそうな顔になった。


 すると鷹司くんが言った。

「白鐘の転校は、前から決まってたことだから。それは気にしなくていいよ」


「ごめんなさい……なにかできることないかな……」


 でも鷹司くんはつめたい声で、

「それに、俺も夏休み中に引っこして、転校するから」

「えっ、転校しちゃうの?」

「うん。だからもう、なにもしてくれなくていいよ。でも……白鐘にしたことは、やっぱりゆるせない」


 そう言って、サッと部屋を出て行ってしまった。


 ハジメとフユキが、「あたりまえだよ。あやまってすむと思うなよ」って、なんか急に強気。


 メガネ女子は、ポロポロって泣き出しちゃった。


「鷹司くん、なんかこわかったね。でも転校するって、まだクラスの子に言ってなかったんだ。推しがいなくなるし、きらわれちゃったし、ショックだろうな」

 って、うさぎさんがポツリ。


「でも……ちょっとかわいそうだね」って私が言うと、

「だよね」ってうさぎさんが、こっそり耳うちしてきた。


 それで、わたしも六年生のメガネ女子に「ちょっと待って」って声をかけて、耳うちした。


 そしたら、

 「うん、わかった」って、その子は小さく笑った。


 あ、こんなやさしい顔もできるんだ。


 いつもは、いじわるな顔ばかりしてたのに——って、そのとき、そう思ったの。



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