第2話 空のナイト、ふたたび

「よしっ、作戦開始だ!」


 鷹司たかしくんが、路地の向こうから勢いよく手を振った。それと同時に、シロベルちゃんが、こちらへダッシュ!

 私はフユキと目を合わせる。――そして、動き出す!


「シロベルちゃんーっ、こっち!!」


 走りこんできたシロベルちゃんを、私たちのあいだに挟んで、かぶっていたフードをサッと取る。

 ぎゅっと目をつぶって、フユキの手をにぎったシロベルちゃん。

 フユキの顔は、もうまっ赤。でもね、私よりずっとこわがりなのに、空に向かって思いっきり叫んだの。


「おまえらーっ!こっち見ろーーーっ!!」


 そんな大きな声、今まで聞いたことなかった。


「カァッ! カァァッ!」


 ギラついた黒い目――屋根の上や木の枝にいたカラスたちが、いっせいにシロベルちゃんに、ねらいを定めた。

 やっぱりだ! その声はまるで、「見つけたぞ!」って言ってるみたい。


 こわい! 黒いつばさを広げた影が襲いかかってくる! でも、逃げちゃダメ。


「フユキ! 来るよ! 傘、シロベルちゃんの上に広げて!!」

「まかせて!!」


 フユキがバッと傘を広げると、カラスたちは驚いたように空中で方向を変えて、高く舞い上がった。――そう、羽が傷つくのをカラスは嫌がる。


 今だ――!


 私は強く、全身の力をこめて呼子よびこを吹いた。


 ピィーーーーッ!!


 高く、澄んだ音が空にひびき渡る。風が、いっしゅん止まり、あたりがしーんと静かになった。


 そのとき――


 空の向こうから、一羽の鷹が、笛の音にみちびかれるようにスーッと飛んできたの。


「”空のナイト”だ!!」


 いつの間にか、私たちの間では、それが”あの鷹”の呼び名になっていた。


 フユキがリュックからバスタオルを広げ、傘の下から素早く飛び出す。


――お願い、どうかカラスに気づかれないで!


「空のナイトさんっ、カラスの巣から、クリスタルを取って!!」


「ピュイイーーッ!」


「そしたら、こっちに落として! フユキがキャッチするから!」


 鷹は旋回しながら巣へ近づき、キラリと光る玉をつかんだ。そして「キュイッ!」と鳴き、巣からそれを下に落とした!


 クリスタルがキラキラと輝きながら落ちてくる。フユキがキャッチ!


 ――そのときだった。


 「カァァッ!」

 カラスの一羽が気づいた! そして、シロベルちゃんが驚いて傘を取り落としてしまった!

 黒い影が私たちの上に降りてきた。

 カラスのくちばしが、カッとシロベルちゃんに向けられる!


「あぶない!」


 私は迷わず、もう一度、呼子を全力で吹いた。


 ピィーーッ!


「キィィーーッ!」


 空のナイトが叫ぶように鳴き、私のほうへ一直線に飛んでくる!


「ナツキ、を付けてるほうの手を出して!」

 フユキの声がひびく。


 私は腕をまっすぐ突き出した。

 その手に、鷹がふわりと舞い降りる。――ズシリ。重いけど、すごくたのもしい。

 すると私の顔を見上げて、”空のナイト”が、


「クルルッ……」

 って、すごく優しい声で鳴いたの。


 でも、次のしゅんかん―― 鋭い目つきでカラスたちをにらみつけ、高い声をあげた。


「キィィーーーッ!!」


 カラスたちはいっせいに退しりぞいた。空の高くへ、あわてて逃げていく。


「今だ! 逃げよう!」

 フユキがシロベルちゃんの手を取り、傘をたたんで走り出す。


「だいじょうぶ! クリスタルは、しっかりリュックの中にしまったから」


 そう言った、フユキの瞳はキラキラ輝いてた。


「ナツキも早く! カラスが戻ってくる前に!」


 私の腕から鷹が舞い上がる。


「あっ、待って!」


 思わず、そう言ってしまった。けれども、空のナイトは―― カラスの群れを追い払うように、空を切って羽ばたいていく。


 そのうしろ姿を見上げながら、みんなで走った。


 あのつややかな羽、澄んだ鋭い瞳 ―― まるでアニメのヒーローみたいに、かっこよかった!

 

――もう少しだけ、この手にとまっててほしかったな……


 風がすうっと吹いて、私の頬をなでた。

 その風の向こうから、「キュイッ」と小さく響く声が聞こえた――


――ありがとう、“空のナイト”。……またね


 あの鷹の声も、なんだか『ありがとう』って言ってたみたい。


 ねえ、そう聞こえなかった?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る