第6話 革製のブレスレット

 鷹司くんと私が校庭へかけつけたとき、


「カアーッ! カアカア!!」

 

 たくさんのカラスが、空から校庭へ舞い降りてきていた。

 バサバサッという羽音とともに、黒い影がシロベルちゃんめがけて迫ってゆく。


「キャー! こわいよぉ!!」

「シロベルちゃん、こっちに来て!!」


 フユキが、シロベルちゃんの前に飛び出した。けれど――

 シロベルちゃんは、ほんの少しだけフユキから後ろに下がった。


 ――どうして……? フユキが助けようとしてるのに……


 フユキは、チクッととげが刺さったような顔をしてる。


 そのとき、なわ跳びの練習をしていたハジメとうさぎさんが、走って来た。カラスがおそっているのを、きっと遠くから見ていたんだ。


「フユキっ、何なんだよっ、このカラスたちは!」

「シロベルちゃんをねらってるんだ!」

「その子が、シロベルか!?」

「ハジメっ、呼び捨てはダメだって言ってるでしょ!」


 うさぎさんが注意したけど、ハジメは、


「そんなこと言ってる場合か!」


 なわとびの縄をぶんぶん振り回しながら、カラスに向かっていった。


「うせろーっ!!」

「ダメだよ、ハジメっ! ケガするかもしれない。それに、カラスはすぐ戻ってくる!」


 うさぎさんは、シロベルちゃんのそばに立ち、焦った顔をしている。

 周りの子たちは、こわがって校舎に逃げていった。

 まさに大ピンチ! ――どうにかしなくっちゃ!


――そうだ! カラスは、羽にモノが当たるのをいやがるって、ネットで見た!


「うさぎさん、傘を広げて!!」


 私が叫ぶと、うさぎさんは「はっ」としたようにランドセルから傘を取り出して、バッと開いた。

 その音におどろいたカラスたちは、いっせいに空へ舞い上がる。


「うさぎさん、ナイス!」


 だけど、私の横で鷹司たかしくんはじっとしたままだった。


――どうして? こわいの? まさか鷹司くんが……そんなわけない!


 私は迷わず鷹司くんの手を取り、思いきり引っぱった。


「早くっ! シロベルちゃんを助けなきゃ!」


 でも、まだ動かない。


「鷹司くんっ!!」


 そのとき、鷹司くんの目がキッと前を見すえた。

 そして――


 ――バッ!と走り出す!


「羽を狙え! あいつらは羽が弱いんだ!!」


 その声に、ハジメのなわ跳びの動きが変わった。

 バシッ!と音がして、カラスの羽になわが当たるのが見えた。


 鷹司くんはうさぎさんのそばに走り寄り、「それ、貸して!」と言って傘を受け取った。

 そして背の高さを活かして、大きく振りかざす。


「お前ら、さっさと、どこかへ行けっ!」


 ギラリと光るような目で、カラスたちをにらみつける。

 すると、カラスたちは「カアッ、アアッ」とおびえたように鳴きながら、空高く舞い上がっていった。


「シロベルちゃんっ、だいじょうぶ!?」


 私たちが駆け寄ると、シロベルちゃんはポロポロと涙をこぼしていた。

 よっぽど、こわかったんだね。

 シロベルちゃんは、鷹司くんのところへ走ってゆくと、その腕にぎゅっとしがみついた。


 フユキ、ハジメ、うさぎさんも心配そうな顔をしてる。

 そのとき、私は、フユキがちょっとふくれっ面になっているのに気づいた。


 ――そうだよね……一番先に守ろうとしたのは、フユキだったのに


「大丈夫か、シロベル。けがはないか?」


 そのときだった。ハジメが、ふと鷹司くんの手元を見て、「あれっ?」って小さくつぶやいた。

 私も気になって目を向けると――鷹司くんの手首には、茶色いかわのブレスレットが巻かれていた。


「えっ、ブレスレット……?」


 ただのアクセサリーには見えなかった。そこにか何かの数字と文字が刻まれているように見える。


――あれ、なんだろう……?


 ハジメは、その数字と文字をじっと見つめてから、ポケットからおなじみのメモ帳を取り出し、それをすばやく書きとめていた。


◆  ◆


 一羽、また一羽と、カラスたちが空に帰っていく。

 でも、もう襲ってくるようすはない。

 高い空の上から、ぐるぐるまわりながら、私たちのことを見下ろしているだけ。


 だけど、なんとなくわかる。

 私が聞いた話だけじゃなくて、鷹司くんやシロベルちゃんにも、まだ何か――ひみつがある。


――それって、何なの?


 きっとそれは、もっともっと、びっくりするようなことなのかもしれない――。

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