第3話 鳥屋敷の住民

 神城かみしろくんが私の隣に座った。

 胸のドキドキが大きくなって、めちゃめちゃにあせる。―― 落ち着けナツキ!


 私が黙ったままでいると、神城くんが言った。


「……で、シロベルが持ってるガラス玉のことが知りたいんだよな。でもさ、どうしてそんなに気になるわけ?」


 ――えっ……なんか、うたがわれてる気がする。もしかして、私のこと調べたくて呼んだの……?


「創立記念日のとき、タイムカプセルからシロベルちゃんが、ガラス玉を持っていっちゃって、それを私とフユキが見たんです」

「……それで、先生にチクろうとしてるってわけ?」


 あわてて、私は首を振った。


「違いますっ! ただ……そのあと、あの玉の中にメジロが逃げこんでいったの」

「メジロが……?」

「それに、”鳥屋敷”にいるカラスたちも、あの玉と関係があるんじゃないかって思って……」


 神城くんは少しうつむいて、考えこんでた。


「鷹司くん……じゃなかった、神城くんって、シロベルちゃんの親戚しんせきなんですよね? 何か知ってるんじゃありませんか」

 

 けれど、私がそう言うと顔を上げて、


「神城くんじゃなくて、鷹司たかしでいいよ。みんなそう呼んでるし。敬語けいごとかもつかわなくていいから」


 ちょっと戸惑ったけど、私はこくんとうなずいた。


「……うん。じゃあ、鷹司くん。私のこともナツキって呼んで」

「わかった。でさ、ナツキはどうして”鳥屋敷”のことまで気にしてるんだ?」

「だって、私……鳥が大好きで、あそこで鳥の姿を見たり、声を聞いたりするのが、すごく楽しみだったの!」


 鷹司くんはそれを聞いて、ふっと笑った。


「それが、カラスにおそわれて……鳥たちはどこに行ったのかと思うと、心配でたまらないの」


 すると、鷹司くんはゆっくりと話し始めた。


「あの家――”鳥屋敷”は、もともとは俺のじいちゃんの家だったんだ。でも、ちょっと前に亡くなってしまってさ。そのあと、になっているんだ」


「えっ!」


 まさかのまさかだ! でも、それなら、あのおうちがカラスの巣になっていたことや、鷹司くんとシロベルちゃんが”鳥屋敷”にいたわけも、わかるような気がする。


「じいちゃんは鳥が大好きでさ。庭に来る小鳥たちをすごく大切にしてたんだ」


 鷹司くんは、そう言うと、しばらく空を見上げた。風が吹いて、その一すじだけ白い前がみが、ふわりとゆれた。


「……俺もあの家には大切な思い出がある。もう、じいちゃんはいないけど、鳥たちとあそんでた声が、今も聞こえる気がする」


 鷹司くんは続けて言う。


「でも、じいちゃんは、それだけじゃなくて、カラスみたいに町に迷惑をかける鳥を追っ払う仕事もしてたんだよ」


 私はそれを聞いて少し驚いた。


「鳥を追っ払う仕事……って?」


すると、鷹司くんは、


「”鷹匠たかじょう”っていうの、ナツキは聞いたことある?」


鷹匠たかじょう? ううん、知らない」


鷹匠たかじょうっていうのは、鷹を訓練して一緒に働く人のことだ。昔は鷹を狩りに使ってたけど、今はイベントや、カラスのほかにも、飛行機にぶつかる鳥を防ぐこともある」


 そのとき、ふと、カラスを追い払ってくれた、あのかっこいい”空のナイト”——鷹の姿が頭に浮かんだ。

 もしかしたら、あれは鷹司くんのおじいさんが飼っていた鷹?


――あ、そういえば、神城くんの名前にも『鷹』の字が入ってる。



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