第二章 『鳥屋敷』の謎

第1話 六年生の教室

「あれっ、森山もりやまさん、どうしたの? フユキくんなら今はいないけど」


 五年二組の教室をそっとのぞくと、クラスの女の子たちが、少しふしぎそうな顔をした。フユキが私の教室に来ることはよくあるけど、私が二組に来るなんて、ほんとうに珍しいからだ。


「フユキ、どこに行ったか知ってる?」


 そう聞くと、別の子が答えてくれた。


「さっき、白鐘しろがねさんと一緒に教室を出て行くのを見たよ」


 ――フユキと、シロベルちゃんが一緒に?

 心の中に、ざわっと波が立った。どちらから誘ったの? シロベルちゃんは昨日、あんなに人見知りしていたのに……。


 もしかしたら、フユキも私と同じで、シロベルちゃんに、あのガラス玉のことを聞こうとしたのかもしれない。


 どうしよう。このまま探していたら、お昼休みが終わっちゃう。でも――


 『本人に直接聞くのが一番早い』


 うさぎさんの言葉が、頭の中をよぎった。もう迷ってる時間はない。

 もしシロベルちゃんがいないなら、親戚しんせきだって言ってた神城かみしろくんに聞くしかない。


 思い切って、六年生の教室がある四階へと階段を上った。

 校舎は四階建てで、五年生は三階。六年生の教室はその上だ。たった一階なのに、そこに行くのにはすごく勇気がいる。廊下を歩くのは知らない六年生ばかりで、何だかプレッシャーがすごい。


「えっと、二組の教室は……あった、あそこだ」


 おそるおそる教室をのぞくと、中の子たちがこちらをじろっと見た。


「あの……神城かみしろ鷹司たかしくん、いますか?」


 メガネをかけた女の子が、キッっとこちらをにらんだ。


「鷹司? さっきまでいたけど。何か用?」


「いえ、ちょっとお話があって……」


 そう言うと、別の女の子が口をはさんできた。


「もしかして、神城くんのファン? あんた、五年生でしょ? 教室まで来るのはやめたほうがいいよ。彼、迷惑がってるから」


 びっくりした。そんな子、他にもいるんだ。まさか、し活ってやつ?

 そうか……神城くんって、やっぱりすごくかっこいいから。

 六年二組の女の子たちの視線が、「彼は私たちのものよ」って言ってるみたいで、ちょっといやな感じだった。


そのとき――


「あれ? 昨日の子? たしか五年一組の……森山もりやま夏樹なつきさん?」


 背後から聞こえた声に振り向くと、神城くんが立っていた。


「私の名前、知ってたんですか?」


「白鐘から聞いたんだ。あの子と同じクラスの、森山もりやま冬樹ふゆきくんのふたごのお姉さんって。昨日はありがとうな」


 六年二組の女の子たちの視線がまた私に集まる。ちょっとこわい。


 神城くんが言った。


「で、俺に用って、白鐘のこと?」


 その涼しげな瞳で見つめられて、ちょっとドキッとした。


「シロベルちゃんが持ってるガラス玉のことが聞きたくて。今、教室にいなかったから、神城くんなら何か知ってるかと思って……」


「お前ら、もうシロベルって呼び名も知ってんだな……」


 神城くんは少し口ごもった。やっぱり、何か知ってるんだ。


「昼休み、もうすぐ終わるし……今ここじゃ話せない。でも、誰にも言わないって約束できるなら、話すよ」


「絶対に秘密にします!」


 ちょっと考えるような表情のあとで、神城くんは私の耳元でこっそりと言った。


「放課後、記念碑のそばの木の下にあるベンチで待ってて」


 あそこは、タイムカプセルを掘り出した場所だ。


「はい、必ず行きます」


 そう返事はしたものの、背中に六年二組の女の子たちの視線が突き刺さるようで、少しこわくなった。これが――しっとのまなざしってやつ?


 ちょっとだけ、いい気分にもなったけど、本当はそんな浮かれてる場合じゃないんだよね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る