変なものが外に立っています4

 




 今日も秀人は薔薇を持って行ったのだろうかな、と思いながら、秋成は、春なので、花咲き乱れる中庭を歩いていた。


 あんな葉月でもいいなんて、よっぽどだな、と明日香のことを考えていると、その明日香がちょうど回覧らしきものを手に歩いてくるところだった。


 声をかけずに眺める。


 普段は可愛いって感じの顔だけど、そうして、ちょっと憂い顔なんかしてると、綺麗だな。


 でも、恐らく、そんな風に見えるだけで、なんにも憂いてはいない気がするんだが……。


 せいぜい、今日の社食についてだろう、と失礼なことを思ったあとで、

「明日香ちゃん」

と声をかけると、


「ああ、廣田さん」

と顔を上げ、微笑みかけてくる。


 うん。

 憂い顔の方が綺麗だけど、やっぱり、明るく笑ってる方が彼女はいいな。


 ほっとする、と思いながら、

「なに考え事してたの?」

と訊いてみた。


「いえ、最近、社食にもやしのヒゲの入ったメニューがないな、と……」


 やはり、くだらないことだったか……。


「葉月は、昨日も薔薇、持ってった?」


 本人は朝から急がしそうにしていたので、確認していなかったので、今、明日香に訊いてみた。


 いえ、と言って、一瞬、止まったあと、明日香は俯きがちに、

「弟切草を持ってきました……」

と言う。


「……すごいホラーな感じがするの、俺だけ?」


「えーと。

 弟切草の花言葉ってなんだったっけ?」


「迷信、敵意、秘密、恨み、だそうです」


 葉月さん帰ったあとで、調べ直しました、と明日香は言う。


「そ、そう」


 なんてフォローしたもんかな、と思っていると、

「でも……私、葉月さんを信じてみることにします。


 葉月さんが私を恨んでいるとしても、葉月さん、そんな不気味なやり方で伝えてくるような人じゃないから。


 きっと、なにか別の理由があるんだと思います」


 そう明日香は言ってくる。


「……君とだったら、ささいな喧嘩をしながらも、一生添い遂げられるような気がするよ」


 ん? と明日香がこちらを見たので、

「あっ、葉月とだよっ」

と慌てて言うと、そうですか、と明日香が嬉しそうに笑ったので、少し胸が痛んだ。


 なんで痛むんだろうな、と自分で思いながら、

「ところで、万が一、葉月の伝えたい花言葉が恨むだったとして、なにか思い当たる節はある?」

と訊くと、明日香は、


「そ、それが、ちょっと思い当たり過ぎて……」

と誤摩化すように笑いながら言ってくる。


「そうなの……?


 あ、そういえば、昨日、噂の信太郎さんと会ったよ」

と話題を変えると、えっ? そうなんですか? と笑って訊いてくる。


 二人で歩いている静とバッタリ街で会った話をし、すごい人の良さそうな人だった、とまとめたあとで、研究棟の入り口で、じゃあね、と別れる。


 明日香は事務室に用事があるようだった。






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