『灰色の目次と、透明な僕』
@aoi4160
第一部:孤独な世界
世界は、まるで擦りガラスの向こう側にある風景のようだった。輪郭はぼやけ、色彩は滲み、そこに確かな実体として存在するはずの熱や手触りが、僕にだけは届かない。物心ついた頃から、僕の目に映る文字たちは、まるで意思を持った生き物のように、踊り、重なり、時にその意味を隠した。教科書の上の黒い染みは、ある時は嘲笑うように歪み、ある時は無関心にただそこにあるだけの記号の羅列と化した。
「普通」という名の透明な壁が、僕と世界の間に横たわっていた。友達が当たり前のようにページをめくり、物語の海を泳ぐ隣で、僕は一人、岸辺に取り残される。彼らの目が捉える文字の連なりが、僕にとっては解読不能な暗号に等しいのだと、誰に訴えれば理解されるのだろう。声に出せば「怠けている」「ふざけている」というレッテルが、見えないインクで額に貼り付けられるだけだった。
教室の隅、窓の外を眺める時間は、僕にとって唯一の安息だった。そこでは、文字の呪縛から逃れられた。空を流れる雲、風に揺れる木の葉、遠くで響くサイレンの音――それらは、僕を裏切らない。ありのままの姿で、僕の世界に飛び込んできてくれる。
しかし、安息は束の間だ。チャイムの音は、容赦なく僕を現実へと引き戻す。再び、あの黒い染みたちとの戦いが始まる。読めないこと、書けないこと。それは、まるで自分という存在に欠陥があると突きつけられているような感覚だった。指先が冷え、胸の奥が息苦しさで軋む。周りの賑やかな声が、次第に遠のいていく。僕は、まるで分厚いガラスケースの中に閉じ込められた、声を持たない異物。世界はすぐそこにあるのに、どうしても触れることができない。
この息苦しさから、この理解されない孤独から、いつか解放される日が来るのだろうか。
そんな問いは、いつも答えのないまま、僕の心の中で空虚に響くだけだった。
灰色の文字が支配する世界で、僕はただ、透明な存在として息を潜めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます