第5話 どこかで聞いたようなフラグとツンデレ発言

(まさか学校に現れるなんて……)

 いつもなら友人と他愛もない話をする帰り道。育代は自宅へ向かい、一人で悶々としながら歩いていた。不審者が現れた――という情報から逃げるためでもある。だが

幸い、そのような話は特に耳に入る事はなかった。


◇◆◇◆◇◆


その日の夕食時――

「育代。あのピコなんとか言う奴は現れてないか?」

「え? う、うん」

 あれから2日が経過したが、吉原家では特に話題に挙がる事はなく……というか、何か異変があればすぐに通報するという流れで、警察の介入がある案件であった事、ただの酔っ払いや変質者という事で笑い話に近い扱いであった。その為、念の為という形で父親が確認をしたが、育代は何故か本当の事を話さないでいた。

「そうか。何かあればすぐに言わなきゃ駄目だぞ」

「うん。わかった――あ、そう言えば、私が小さい頃エイリアンに会いたいって言ってた話だけど……」

「あ〜その話か。懐かしいな。お母さん?」

「そうね。一週間くらいは騒いでいたかしら」

「どんな感じだったの?」

「そのまんまだよ。エイリアンはどこにいるの? とか、エイリアン呼びたいとか会いたいとか……フッ、思い出すと笑えるな」

「そうね。でも育代は覚えていないのでしょ?」

「え? あ、うん。全然思い出せないよ……」

「これ渡したいとか言って、自画像みたいな絵をクレヨンで書いてたな。自己紹介的な字も一緒に」

「え?」

 育代は思い出した。

 初めて会った日にピコリンが言っていた言葉――


「こちらには証拠がある」


(ちょっと待って? まさかこれフラグだったりしないよね? そんな出来過ぎた話しないよね? たまたま偶然思い出しただけだよね。アハハ……)

 育代は心の中で力なく笑った。

 その後、すぐに入浴からの宿題コンボを即効で済ませた育代は、推しのVチューバーの誕生日配信を見るのも忘れ、就寝態勢を整えた。そして、ベッドで鼻まで布団を被り天井を見て考察を試みた。

(とりあえず、思い出してみなきゃ)

 無謀な挑戦ではあるが、不要な年代を升目で一つづつ埋める様に時間を遡る。しかし当然不毛。

(駄目だ……全く記憶にないよ……)

(でも、あれだけしつこく呼ばれたって言ってるんだから、呼んだのは私なんだよね?)

(それに私の名前を知ってるし)

 わずか二日、直接対面は3回目だが、もうすでに育代にはピコリンがエイリアン――異星人である事に異論はなかった。むしろ、ピコリンがエイリアンである事を前提に辻褄合わせをしていた。

(私が描いた自己紹介的な紙がピコリンに届いたから名前を知っていた。もし、住所とかも書いてれば……そしてそれをピコリンが持ってたら……)

(それに折り畳み宇宙船なんてものがある世界だから、科学みたいなのは相当すごいよね……)

(あ、明日はどんな格好で来るんだろう……フフ……ち、違う! 違う! べ、別に楽しみにしてるわけじゃないんだから!)

 育代は恥ずかしさに身を隠すように、すっぽりと布団を頭まで被り入眠した。










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