第2話 どこかで見たり聞いたりした事がある幼少期の思い出

 育代と毒々しい服装の残念な男の、玄関における会話は続いていた。

「俺の名はピコリン。1969歳。惑星ギガメッシュ出身だ」

「……え? ピ、ピコリン? プッ」

 突っ込みどころは多数あったが、残念な服装に真顔、そして残念な名前の残念コンボに育代の笑い袋は破け散った。

「なんだ? 何がおかしい?」

「……プッ……アハハハハ!」

「……」

 お腹を抱えて笑う育代。

「……おい。早く用件を言え。俺はこの星には20分しかいられないんだぞ?」

「えっ?」

『ガチャ』

 ドアが開く。そう――育代の両親が帰宅したのだ。もちろん、見知らぬ男と玄関で鉢合わせになったという状況。

「育代。この方はどなた?」

「私が聞きたいよ……」

「両親か? すまんが娘に言ってやって欲しい。用件はなんだ? と。呼ばれたからわざわざやって来たのに、知らぬ存ぜぬと言うのだ」

 それを聞いた育代の父親が睨みつける。

「育代。どういう事だ? 父さん達の不在中に男を引っ張りこもうとしていたのか?」

「ち、違うに決まってるじゃん!」

「じゃあ説明しろ!」

 父と娘の小競り合いに男が割って入る。

「俺が代わって説明しよう。わずか十年前に俺は呼ばれた。そして高額な燃料費を使い惑星ギガメッシュからやってきた。だが、知らぬ存ぜぬという迷惑行為ばかりか挙げ句の果ては暴力行為。説明して欲しいのはこちらの方だが?」

「……」

「……」

「……」

 絶句する吉原家の住人。

「おっと。もう20分経過してしまう。だから言わんこっちゃない。とりあえずまた明日夜が明けたら来る。その時まで用件を頼むぞ」

 『ガチャ』

 そそくさと玄関を出る男。

 顔を見合わせ不思議顔の三人。

「育代……どういう事だ?」

「私が聞きたいよ! しかも全然知らない人だよ」

「名前もか?」

「え? 名前?」

「名前だが?」

「い、一応ピコリンって言ってたけどさ」

「ピコリン?」

「うん……プッ。ちょっと口に出すのやめてよ。笑っちゃうから」

「……ほんとに知り合いじゃないんだな?」

「当たり前だよっ!」

「とりあえず警察を呼ぼう」


 その後、警察官が2名来訪。簡単な事情説明を行った。夜が明けたら来るとの話から、戸締まりを厳重に行う等の対策指導を受け、地域のパトロールアプリに不審者来訪の情報をアップデートしてもらう等にとどまった。


◇◆◇◆


 謎の男ピコリンが発した宇宙関係のワード、肯定した自分がエイリアンであるという情報。それを踏まえて警察が去った後も吉原家の会話は続いていた。

「あの人、平然と自分はエイリアンだが何か? みたいな感じだったよ……」 

「そうか。それを聞いてるとなんだかお前の小さい時を思い出すな」

「そうね〜懐かしいわ」

 両親はエイリアンというワードに我が娘の無邪気な幼少期を思いだしていた。当然それに疑問を呈する育代。

「なにそれ? どういう事?」

「テレビで宇宙人の番組を見てから、しばらくはエイリアンに会いたい! とか呼んでよ! とか言ってたよなお母さん?」

「そうね〜。エイリアンにお願いしたい事があるとも言ってたわね」

「……全然覚えてないよ?」

「そうそう! 何をお願いするんだって聞いても、お前は一切話してくれなかったぞ?」

「そうね〜」

「……」

(まさか?)

 謎の男ピコリンが何度も言っていたもう一つのワード「用件を言え」。

 和やかな娘の昔話を両親が続ける中、育代は自分でもあり得ない考えが芽生える。

 もし、記憶にない幼少期のお願いを叶えるために来たのであれば、ほんの十年前というピコリンの発言は整合性がとれている――つまり辻褄が合う。そして、ピコリンがエイリアン――異星人であるという非現実的な、そして非科学的な事が真実だという事。育代はそんなわずかな可能性に武者震いをしながらその後入浴、自室で即座に入眠した。それは先ほどの出来事が夢じゃないか? という逃避の表れでもあった。

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