主人公補正もないし異世界転生もしてないけど俺を中心に進む物語
みみみやび
第1話 旅立ち
「着替え持った?お弁当持った?恰好だけ一丁前になって、肝心なもん忘れたら-」
「あぁ、持ったよ!俺だって今日で17だぜ?いつまでもガキじゃあるまいし…」
そう、俺は今日17歳の誕生日を迎え、今日この生まれ育った村を出る。ようやく憧れの王都へ向かう金が貯まったから、誕生日を機に新生活を始めようって話だ。
未だに俺を子ども扱いする母さんをあしらいながら荷物の最終確認を済ませると、ちょうど王都行の馬車が向こうからやってくるのが見えた。もちろん、故郷から離れるのは寂しさも感じるけど、世話になった村の人への別れの挨拶は済ませた。次に顔を出すのは、一人前の冒険者になってからだ。
「じゃあ、気を付けて行ってくるんだよ。嫌になったらいつでも帰ってきなさい。いつだって、ここがココロの家なんだから。冒険者なんて危ない職業、ほんとうは-」
「母さん、ありがとう。」
母さんは、俺が冒険者になることに心の底では不安を抱えている。当然だ。時に危険な魔物との戦闘もあるだろうし、未知のダンジョンへ足を踏み入れることもあるだろう。自分の息子がそんな死と隣り合わせにいる職業に就きたいと望むのだから。
そこまでわかっている上で最後の言葉を耳に入れてしまったら、さすがに12年憧れた冒険者への夢も揺らいでしまうだろう。だから俺は、別れの言葉の代わりに17年分の感謝と愛をこめて母さんを抱きしめた。
服を母さんの涙と鼻水で濡らしながら馬車へと乗り込む。段々と村は小さくなり、やがて丘を越え完全に見えなくなった。
馬車の中には、俺のほかにすでに3人の男女が乗っていた。一人は剣を携え軽鎧を纏う30代ほどの男。恐らく、この馬車の護衛で雇われた冒険者だろう。一人は麻袋に野菜を詰めて抱えた初老の男。最後の一人は黒いローブを纏いワンドを持った俺と同年代に見える女。魔法使い、実際に見るのは初めてだが一目で彼女はそうなのだろうとわかった。
そうしていると、魔法使いの女が俺に話しかけてきた。
「あなた、さっきママと涙のお別れをしてたわよね。腰に付けたダガーを見るに、もしかして王都で冒険者になろうとしてるわけ?」
「ああ、そうだけど…。もしかして、キミも冒険者ギルドへ?」
「そうよ、私は家を捨てて冒険者になるって決めたの。あんまり人に首ツッコむもんじゃないけど、心のどこかで家族が足を引っ張るなら冒険者になるのはやめたほうがいいと思うわ」
「-ッ。失礼なやつだな、俺は子どもの頃からずっと冒険者になって誰かを守れる男になるって決めてるんだよ」
いきなり話しかけてきてそれはないだろう。少し感情的になり次の言葉へつなげようとしたとき、
「おい、それ以上はやめておきな。」
そう言ったのは、傭兵の男だった。たった一言だったが、はっきりと芯の通った声のおかげで、互いに不満こそあれど口論に発展することなく、馬車内は沈黙に包まれた。女は魔法書であろう本を開き、そこから口を開くことはなかった。
王都までは俺の村から馬車で半日ほどの距離がある。日が暮れたところで母さんの用意してくれたお弁当を食べ、眠りにつく。食事中、「ママのお弁当、ね。」と聞こえたが知らないふりをした。
次の日も朝から馬車は出発し、途中の村で初老の男性を降ろしそこからは何事もなく、じきに王都を囲う壁が見えてきた。ここから、俺の冒険者としての人生が始まるんだ。
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