第13話
授業をサボる。
それには大きな背徳感と同等の罪悪感、そして達成感が生じ、心を動かす。
普段やらないことだからこそ、特別なことをしたという気持ちになるのだろう。
フェンスの外側から……つまるところ校庭からは体育の授業をしている声が聞こえる。ラジオ体操をしているのだろう。「一、二、三、四」というかけ声が響く。
それを聞きながら、より一層、サボっているんだ。授業をサボっているんだという実感が大きくなる。
「うへ、うへへ……」
自分でも驚くような気持ち悪い笑い声が出てきた。
気分が高揚しているらしい。
好きな人ができて、恋を知って、その感情にビビって、授業をサボることには悪いことしてるって嬉しくなって。
私はどこまでダメ人間なのだろうかと一周まわって笑ってしまう。
皮肉めくほどに空は青い。青くて青くて青い。
時間だけがただ淡々と流れていく。意味もなく、無駄に消費しているなという実感はある。だけれど、だからどうしようという気はない。
憎いくらい青い空を見上げるだけ。フェンスに寄りかかるのはもうやめた。ちょっと汚いかなと思いつつ、まあいいかってごろんと仰向けになる。ぼーっとしているだけで青い空が目に入る。太陽の日差しが若干眩しい。響くのは体育で使用しているホイッスル。サッカーでもしているのかな。
そして私の視界を遮るのは鈴木の顔。こうやって見てみるとかなり顔立ちがいい。鼻の筋は通っていて、だらんと垂れる髪の毛は艶やか。太陽の光が反射して、一つ一つが高級品の絹のよう。肌は白く、なによりももちもちしている。まるでお餅のよう。触りたくなる。まつ毛は長いし。クラスカーストの上位に君臨するべくしてした人物なんだろうな、なんて思う。
「…………?」
鈴木の顔が見える?
そんな馬鹿な話があるか。
私は今、授業をサボって屋上にいるのだ。
なにがどういう巡り合わせがあったら鈴木がここにくるという結果になるのか。謎だ。謎すぎる。
そんなのは基本的にありえないわけであって。
つまるところ、私は今きっと幻影を見ているのだ。鈴木の幻影を見てしまっているのだ。
そういや恋煩いという単語を耳にしたことがあった。
好きな人がいると、恋をすると、陥る病みたいなものらしい。その一種にもしかしたら好きな人の幻影を見る。そういうのがあるのかも。
目を擦る。ぱちくりと瞬きをする。なにをしようとも目の前に見えるものは変わらない。いるのは鈴木。鈴木が目の前にいる。
「見つけた。山本ッ」
えへへ、と鈴木は笑う。
それからなにもなかったかのように。ここにいるのがまるで当たり前かのように堂々と私の隣に座る。状況を整理しきれていない私であったが、とりあえずここに寝そべりっぱなしというのは間違いなく正しくないと思って、上体を起こす。
「鈴木? 鈴木さん? 本物?」
またまた目を擦る。
隣に座る鈴木を見つめ、声をかける。
「本物じゃなかったらなに?」
鈴木は苦笑しながら答える。
幻影……って言ったらヤバい子扱いされそうなのでやめておく。少し前の私ならばきっと躊躇することなく言っていたのだろうが。今は言えない。好きな人にヤバい子だと思われるのはあまりにも嫌すぎるから。
「まあいいや。触ってみる?」
「さ、触る?」
きょどる。
声は裏返り、瞳は泳ぐ。目をぐるぐると回し、ボッと体温が上昇する。
「偽物だって思うなら触って確かめればいいでしょ?」
鈴木は私の手首を掴み、頬をぺたぺたと触ってくる。
温もりと柔らかな感触が手のひらに広がる。
昇天しそうだった。
◆◇◆◇◆◇あとがき◆◇◆◇◆◇
遅くなりました。
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