第4話
電車に揺られること三十分。ビルが並ぶような街並みから一転して、一軒家と山が見えるような田舎へ帰ってきた。田舎ってよりも郊外なのかな。電車の本数が極端に少ないわけじゃないし、駅周辺が全く栄えていないというわけでもない。
ぶらぶらと歩く。夕日に晒され、眉間に皺を寄せながら。
家に着いて、荷物を投げるようにソファへ置いて、洗面所に向かって手を洗う。蛇口を捻って、私は固まった。
手を見て、そういえば鈴木と手を繋いだなとそんなことをふと思い出したのだ。
じゃーっと水が勢いよく流れる。その音を耳にしながら、手を洗うことを躊躇う。
「……ははっ。何考えてんだ、私」
嘲笑した。鏡に映る私の顔はそれはもう酷いものだった。
流れている水に手を出し、洗う。
親以外と手を繋ぐことが初めてだったので、どこか浮き足立っていたのかもしれない。
手を洗い終えてから、濡れた手をそのまま頬に持ってきて、むにむに揉む。
「手繋いだくらいではしゃぐな私。別に好きな人と繋いだわけでもないのに」
頬を揉んで、ぱしんと叩いて、気合を入れなおす。
家に帰ってもなお翻弄され続けるとは、鈴木も結構やり手だ。
◆◇◆◇◆◇
私は山本と付き合うことになった。と言ってもガチのお付き合いではない。のだが、あっちはガチで付き合っていると思っている。そういうあまりにも歪な関係。
こうなった原因は嘘告白だ。私が罰ゲームでクラスでもっとも地味で冴えない女子山本うららに嘘告白をした。そしたらなぜか受け入れられた、しかも結構重めに。今更嘘ですとは言える雰囲気じゃなくて、ずるずると嘘をつき続けている。あまりにも歪で、なによりも嘘をつき続けているという罪悪感で苦しい。
もしも嘘告白だと言ったら、山本はきっと泣き出してしまう。泣くだけだったらいい。自暴自棄になって死ぬかもしれない。そのレベルでどうやら私のことが好きだったらしい。
「……私のせいなのはわかってんだけど。わかってんだけどねえ」
自分の部屋でベッドに突っ伏せもやもやする。
枕元に置いたスマホが震えた。ちらりと確認する。グループラインの通話が開始された音だった。そういえばこの時間に通話しようって話してたっけ。すっかり忘れてた。
よいしょと姿勢を直して、ベットであぐらをかく。そのままスマホを触って、通話に参加する。
「もしもし」
『桜やっときた。遅い』
「ごめんごめん。ぼーっとしてた」
そう言うと通話口からはくすくすと複数の笑い声が聞こえてくる。
特にこれと言って盛り上がるわけでもない会話を繰り広げる。正直あくびが出るような。そんな会話だった。とりあえず適当に笑っておくが、面白くはない。でもみんな笑っているから笑っておく。学校生活を送る上で、それとなく周りに合わせるというのは必要不可欠なスキルなのだ。
『そういえばさ、桜』
私に話を振ってきた。油断していたので「ふへ?」という間抜けな声が出る。
『山本とはどうするつもりなの?』
『あーそれあーしも気になんだけど』
『このまま嘘つき続けるわけにもいかないでしょ』
『前も言ったけどまじ早めに本当のこと言った方がいいよ。取り返しつかなくなるから』
ピーチクパーチク好き放題言ってくる。そんなこと言われなくてもわかってんだよ、という感情と言葉が喉元まで上がってきたが、ぐっと堪える。
「さっさと解決した方がいいのはわかってるけど」
『けど?』
「まだ時期早々かなって」
『逆にタイミングってあるの? 早めの方がいいと思うんだけど』
「それはそうだと思うけど。でも、嘘告白したってバレるのは……色々と後処理が面倒だし。適当に付き合って、適当に別れる。それで行こうと思う」
『適当って……どのくらいのつもりなの?』
「うーん、一ヶ月とか?」
唇に指を当てながら答える。
一ヶ月くらいそれとなく付き合って、好きな人が出来たとか適当な理由をつけて別れればいいかなって。大事なのはどうやったら嘘告白のことがバレないか。それだけだ。
「それに恥ずかしいから付き合ってるのは秘密にしてって言ってあるから。付き合ってること周りにバレる心配もない。あとは時間が勝手に解決してくれるよ」
ほんのりと感触の残る手のひらをぼんやり眺め、手相を撫でながら言い聞かせるように話した。
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