第9話 革命的な会議
あれから一ヶ月。ドナルド・レーガン男爵領では、鈴木太郎による改革の嵐が吹き荒れていた。納税を拒否した『発明者』たちは、太郎の『空間収納』による問答無用の没収と、それに続く禁固刑によって、見せしめとして牢屋にぶち込まれた。彼らの財産は全て領地に還元され、反抗的な態度を取らなかった者たちも、しぶしぶと追徴課税を支払うことで、領地は一時的ではあるが潤いを取り戻しつつあった。
しかし、太郎の目は、インダス川の橋の工事費不正に注がれていた。本日、再び会議が招集されたのは、その調査結果を報告するためだった。
太郎が高座に座ると、セバスチャンが一歩前に出た。その表情は、普段の冷静さに加え、どこか重々しいものがある。
「ドナルド様、インダス川の橋の工事に関する調査結果をご報告いたします」
セバスチャンの報告は、太郎の予感を裏付けるものだった。
「文官どもと、増員した書記官たちが総力を挙げて帳簿を精査した結果、工事を請け負っていた業者の半数以上において、深刻な不正が発覚いたしました」
会議室に、ざわめきが広がる。騎士長のエンリーが腕を組み、不機嫌そうに鼻を鳴らした。副騎士のアンダースも顔をしかめ、従士長のカトスは明らかに怒りの表情を見せた。彼らにとって、領地の財を食い物にする不正は、断じて許されるものではなかった。
「具体的には、どういうことだ?」
太郎が冷静に問いかけると、セバスチャンは資料に目を落とし、さらに続けた。その横で、文官のキャピタルゲインとインカムゲインは、自分たちが洗い出した不正のあまりの悪質さに、疲弊した表情で顔を見合わせていた。彼らが精査した帳簿は、ただの数字の羅列ではなかった。そこには、領地の財政を食い物にしてきた、悪意の証拠がびっしりと書き込まれていたのだ。
「はい。まず、金額の不一致、および悪質な水増し請求が多数見つかりました。資材の購入額や人件費が、実際の市場価格を大幅に上回って計上されておりました。さらに、架空の資材購入や、存在しない人件費の計上といった、法的に問題のある詐欺行為を示す帳簿も複数発見されております」
「まさか……そこまでとは……」
キャピタルゲインが、青ざめた顔で絞り出すようにそうつぶやいた。彼らがどれだけ詳細に調べても、次から次へと出てくる不正の証拠に、精神的に参っていたのだ。インカムゲインも、その顔に疲労の色を浮かべながらも、発見した不正の数々を思い返し、怒りを押し殺すように書類を握りしめていた。
「しかし、不正の事実を確固たるものとしたのは、それだけではございません」
セバスチャンは言葉を続けた。
「調査を進める中で、業者間での談合、いわゆるカルテルやトラストを形成し、工事費用を吊り上げていたことも判明いたしました。これは、この領地で公正な競争が行われないよう、結託していたことを意味します」
まさしく、地球の独占禁止法で禁じられているような行為だ。異世界にはそんな法律はないだろうが、太郎の頭の中では、不正の構図が鮮明に浮かび上がった。
「その談合は、どのようにして発覚したのだ?」
太郎が問うと、セバスチャンはわずかに口元を緩めた。
「は。実は、とある善良な業者が、この不正について密告してまいりました。彼らは、談合に参加するよう脅迫されていたものの、良心に苛まれ、我々に真実を伝えてくれたのです。その証言と、押収した帳簿を照合した結果、全ての事実が明らかになりました」
密告者か。太郎は感心した。やはり、どの世界にも、不正に立ち向かう良心的な人間は存在するのだ。
「状況は理解した。つまり、この領地は、工事費用を不当に搾取され、財政を圧迫されていた、ということだな」
太郎の言葉に、セバスチャンは深く頷いた。
「は、まさにその通りでございます。このまま工事を進めれば、さらなる不正が横行し、領地の財政は破綻しかねません」
会議室は再び重い空気に包まれた。この不正をどう裁き、どう対処するのか。そして、停滞している橋の工事をどう進めるのか。
「では、ここからが本題だ」
太郎は、静かに、しかし力強く宣言した。
「不正を働いた業者への対処、そして橋の工事を滞りなく進めるための新たな方策について、今からブレインストーミングを行う」
彼は、地球で学んだ集団でのアイデア発想術を、この異世界で導入することを決めた。
「ブレインストーミングとは、集団でアイデアを出し合うことで、新たな発想を生むための手法だ。ルールは簡単だ。まず、どんな突飛なアイデアでも、批判せず、自由に発言すること。 他の者の意見を聞いて、そこからアイデアを膨らませても構わない。そして、質より量を重視しろ。 とにかく多くのアイデアを出すことが重要だ。出たアイデアは、書き出し、後で整理する」
太郎は、従士のベンリー・ショーイに指示し、部屋の壁に大きな板と筆記用具を用意させた。
「この不正をどう裁くか、そして橋の工事をどう再開し、完成させるか。あらゆる角度から、斬新なアイデアを求む。遠慮はいらない。さあ、始めよう!」
太郎の言葉に、会議室の面々は戸惑いの表情を浮かべた。自由に発言し、批判しない?これまで領主の前では、常に言葉を選び、当たり障りのない意見しか述べることが許されなかった彼らにとって、それはまさに革命的な会議の進め方だった。しかし、太郎の真剣な眼差しに、彼らは次第に真剣な面持ちになっていく。新たな領主が提示する、新たな思考法。それは、この領地の未来を大きく変える可能性を秘めていた。
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