文化祭とやさしい魔法

第5章「文化祭とやさしい魔法」

 文化祭当日、学校は異様な空気に包まれていた。

 校門から入ったその時点で分かる、ぴりついた空気。

 二年以上この学校に通い続けて初めて感じる空気感に俺はにやりと笑った。

 きっと真剣になって初めてこの空気を感じることができたのだろう。


 俺は調理実習室の扉を開けた。

 そこにはモカ、レタ、レイキの三人の部員が準備を済ませ、俺を待ち構えていた。


「シャッキン先輩! 待ってましたよ!」

「お、おう……」


 制服の上にエプロンをかけたモカと目が合い、ニコニコと相変わらずの笑顔で挨拶をされ、昨日のことを思い出した俺はなんと言葉を返していいか戸惑った。


 興味がないのではと言われたがために、逆に興味を持ってしまったとでもいうのだろうか。

 もしかすると、これ状況自体が彼女の策略なのかもしれない。なんに対するどんな策略なのかは分からないけど。


「ナナトウ先輩、おはようございます」

「おはよう」


 レタもモカと同じく制服エプロンバンダナである。普段とは違う髪をひとまとめにした姿がちょっと珍しい。

 彼女も意気込み十分の様で、早朝だというのにテンションが高めだ。


「シャッキン、こっちの準備は万端だ」


 レイキは制服の上にジャージを羽織り、調理実習室の端でまとめてある屋台の機材、骨組みを組み立てやすいように並べている。


「一番早く来たつもりだったのに、みんな早すぎるだろ……」

「そりゃ文化祭ですから! 泊まり込みました!」

「私も全然眠れませんでした」

「いや、最後の機材が4時搬入でね」

「まじかい」


 どこから指摘すればいいのか分からないが三人ともやる気が十分なのは伝わってくる。俺もそれに応えたいと、気持ちが高まるのを感じた。

 絶対に成功させてやろうじゃないか。


「それじゃ、こっから一日気合を入れて頑張ろう」

「おー」「はい」「おう」

「纏まらないのはお約束か……」


 各々バラバラの返事に、まあいいかと肩の力が抜けていく。

 そこで初めて、自分自身に変な力が入っていたのだと気が付いた。

 考えてみれば当たり前だ。

 自分の料理が評価されるのかどうか、挑もうとしているのに体が強張らないはずはない。


 たかが文化祭と緩く参加していた去年までとは違う。

 俺は今、本当にやりたいことで、それにぶつかりにいこうとしている。

 この世界に。

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