第2章「カレーパンとたこ焼きと叫びの炎」
第2章「カレーパンとたこ焼きと叫びの炎」
足が震えた。自分のしでかしたことの大きさに吐きそうになった。
逃げたかったし、息が詰まって体が動かなくなった。
なんで、どうして、こんなことが。
「カレーパンが原因ってシャッキン先輩! どうするんですか!」
校庭に居る炎のドラゴン。その体内に居るレタ。
彼女がエルフであるがために感じていたプレッシャー、その反骨心。
自分であることを認めてほしい、承認欲求――その引き金を作ってしまった。
「お、俺は……」
悪くない。その言葉をギリギリのところで飲み込む。
それは言ってはいけないと、奥歯をギリギリとかみしめる。
考えなければ、考えて、それで責任を持たなければ―――。
「いや、俺が悪い」
これは、レタを知ろうと踏み込まなかった自分の失敗。
自分が突き詰めようとした技術の悪例。
「モカ……手伝ってくれるか? 手が必要だ。レタを何とかする」
「分かりました。でもどうするんですか?」
失敗を認めることで、心が決まった。
心が決まると、徐々に考えが纏まりだしてきた。
俺の料理の基本を思い返す。
食材の持つ属性を高めあう組み合わせを見つけ出し、味を纏める。
属性は五つ、火、水、木、土、金。
そして、火を落とすには水の属性の料理を作り食べさせればいい。
だが、彼女の食べたカレーパンも火を強化するために木属性の野菜類を織り交ぜた二属性連結の今の俺にできる最高料理。
並大抵の水属性では太刀打ちができない。
「たこ焼きを作る」
だから、こちらも最高の料理をぶつけるしかない。
「急いで調理実習室に行こう」
俺はモカを引き連れ、屋上を後にした。
放っておいても、先生方や、警察あたりが何とかしてくれるだろうとは思う。
でも、今回だけは俺が何とかしたかった。
自分の料理の責任は自分で解決する。ごまかしやうやむやではなく、それができなければ、もう料理に向き合えないと心が叫んでいた。
階段を駆け下り、廊下を走り、調理室の扉を開ける。
「でも先輩たこ焼きなんてそう簡単にできるんですか?」
「できる。これを使えばな! 洗ってくれ」
ガサゴソとコンロの下の戸棚から丸い窪みが24個付いた、たこやき専用鉄板を用意する。
「分かりました。ちょっと待っててください」
俺から鉄板を受け取ったモカが洗い場で鉄板を洗い始める。
その間に俺は冷蔵庫から材料を取り出す。
用意するのは強力粉、卵、タコ、ネギ、紅ショウガ、イカ入り揚げ玉、青のり、鰹節、粉末ダシ、昆布茶。
まずは昆布茶と粉末ダシを合わせて、即席の合わせ出汁を作る。
次に準備、ネギ、紅ショウガをみじん切りに、タコを小さめに切り分ける。
ボウルには小麦粉と出汁と卵を入れかき混ぜる。
「鉄板洗い終わりましたよ!」
「助かる。そうしたら火にかけ、水が飛んだら油を頼む」
「はい!」
生地と言うには少し水っぽい感じになり、強力粉の塊が無くなる程度に混ぜたら、たこ焼きの生地もできあがり。
準備は完了だ。
「ほいほい、っと 油敷きましたよ!」
モカの方の準備も出来たみたいだ。見れば、鉄板はまんべんなく熱を帯び、油がうっすらと敷けている。
丁寧な作業だ。これならどんどん次にいけそうだ。
俺はたこ焼き生地を鉄板に注ぎ込んだ。
各穴に三分の二ずつ、まずは少なめに。
「あれ、全部いれないんですか?」
「具材を入れると生地のかさが上がるからそこからもう一回調整する」
生地が固まり始める前に手早く、各穴にタコと入れていく。
次に紅ショウガ、そしてネギ、イカ入り揚げ玉を入れ、ややあふれてきたところで残りの生地と具材も注いでいく。
生地がまんべんなく鉄板を覆い、ぐつぐつ煮立ち、固まりかけてきたら、たこ焼き返しを用意する。
たこ焼き専用の鉄板には各穴の周囲にマス目上の小さなくぼみが存在する。
そこをたこ焼き返しの先でなぞり、生地を分けていく。
鉄板に触れている生地が固まり皮が出来たら、穴の周囲の生地を集め、丸めていく。
「おー、プロっぽい」
丸まったらたこ焼きを返し、焦がしすぎないように気を付けて中に熱を通していく。
「そしてこのタイミングで……」
たこ焼き返しを通し、食材の属性を高めるために魔法をかける。
タコを始めとした海産物は水属性、もちろん粉末ダシのカツオや昆布茶の昆布もそれに含まれる。
さらに水属性を補強する金属性にネギとショウガ。強化された水属性をより確実なものにしてくれるはずだ。
「先輩これ、光ってません?」
「食材が……!」
良く食材の声が聞こえるとか、そういう表現を見たことがあるが、俺とモカは今それに近い体験をしていた。
属性の力が伸びに伸びた食材が光り輝き俺の調理に、応えてくれている。
どれだけのうまさになってしまったのか、畏怖すら感じ始めてきた。
それでも手を動かすことを止めない。今、このバランスを崩すわけにはいかない!
俺にできる精一杯を出し切るまでだと、たこ焼きを回し火の通りを調整していく。
(ここからが仕上げだが……)
本来の頭の中にあった工程では追加で油を差し込み、高温で揚げ皮にパリパリ感を与えると作業を予定していたのだが、俺はそこで手を止めた。
「シャッキン先輩? どうしたんですか? もうできたんですか?」
「いや、この料理は未完成で行く」
俺は皿にたこ焼きを移した。
軽く青のりと鰹節を振りかける。
「ど、どういうことですか?」
「食べてみてくれ」
モカに一つたこ焼きを差し出す。
彼女は躊躇の一つもなく、たこ焼きを一口でほおばった。
「びゃ!?」
アツアツのたこ焼きを頬張った結果だった。
彼女は体を丸めて口の中で熱を除きながらそれでもたこ焼きを咀嚼する。
「あ、っつ、あつ、はふはふ! ぷはぁー!! わ、わわ!?」
同時に彼女の背から水のヴェールが飛び出す。
「ちょ、ちょっと、まってまって、背中はダメ、やめ――! くすぐったい!」
規則性をもって、体中を水のヴェールが這ったあと、服のような形になり彼女の周囲に留まった。
チャーハンの時に作った防護のより上位の効果が期待できるはずだ。
「は、はぁ、はぁ……って、できてるじゃないですか! 未完成だなんて驚かせないで下さいよ!」
「いや、そうなんだがな……これをこうする」
俺は取り出したたこ焼きに油をかけた。
「わーーーー!? なにしてんですか!!」
「これでいい、行ってくる」
「わ、先輩待ってください! って、思ったより重いこの服……!」
「あとで、手伝ったお礼はするから!」
モカを残し、俺は調理実習室を飛び出した。
たこ焼きは覚めると不味くなりがちだ。
味が落ちれば、もちろん内包している魔力も拡散してしまう。
しかも油をかけた。
このまま何もせず、生地にしみこみすぎてしまうと全てが台無しだ。
正直調理法としては間違っていると思う。
でも、やれるはずだ。
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