不死身の探索者、チートアイテムばかり集めて現代ダンジョンの攻略王に

船堀ぼんぼん

学園追放→中学生最後の二週間編

第1話 外れユニークスキル『矢印』

 俺の名前は青井春男あおいはるお、卒業間近の中学三年生。


 友達からはハルトマンなんてあだ名で呼ばれている。


 「春」と男から連想したジェントルマンの「マン」を取って組み合わせ、春とマン。

 最後にカタカナで揃えてハルトマン、なんてこじ付けが出来ているのだ。


 ハルトマンの意味はドイツ語で『不屈の男』だけど、俺は「そんなかっこいいものじゃない」といつも冗談を濁していた。


 そんな俺がいるのは、世間で言うところのダンジョン学園。


 日本各地にあるダンジョン攻略を目的とした攻略者育成機関の中でも、過去に高難易度ダンジョンの攻略実績がある名門校、浅見あさみ学園だ。


 この中高一貫の学園にいる俺は、今日とても大事な日を迎える。



「今日、次の時間でようやっとダンジョンスキルの判定だぜ」


「超楽しみだわ、俺はめっちゃ強い戦闘タイプがいいな! モンスター倒して無双するわ!」


「いいね、俺は魔法とか希望だなー。空とか飛べるやつ使ってみたい」


 二週間後の中学卒業式を前に、内部進学のクラスメイトは昼休みの教室で盛り上がっていた。


 それも当然だろう。


 今日は実際にダンジョンの第一階層にある『始まりの泉』で、学生達がスキルをランダムに与えられる日なのだ。


「ねえ、春男くん。春男くんはどんなスキルだったら嬉しいかな?」


 隣の席の幼馴染、白上黒美しらかみくろみは聞いた。


「俺か? 俺は透視とうし能力かな〜。罠とか危険を見抜いたり、隠し部屋とか見つけて楽にお宝をゲットする感じ」


「春男くんが探索スキル志望なんて意外だね! 春男くんならもっとバトルバトルって感じで、戦闘スキル志望だと思ってた」


「はははっ! 分かってないな! 透視スキルならついでに女子の裸が見放題っていうご褒美もついててお得だろ?」


「もう、馬鹿なんだから」


「でも、もし本当にそんなスキルが手に入ったら、初めて見る子は黒美にするから安心しろ」


「そ、そんな初めてはいらない!」



 あっという間に昼休みが終わり、俺達は学園からバスに乗ってダンジョンへ向かった。


 クラスメイト達はすっかり期待感で沸き立っている。


 修学旅行の行きのバスよりもテンションが高そうな人物も何名かいた。


 もちろん、緊張している生徒もかなりいたけれど。


 今日のスキル判定が起点として、高校進学後の学園生活が全部決まると言ってもいい。


 言ってしまえば、人生を賭けたガチャだ。


 ダンジョンの第一階層はもう一般開放されていて、誰でも自由に入れる。飲食店やアパレルショップがあったり、ダンジョングッズの販売をしていたりと、観光地のように馴染なじみやすい場所だ。


 ここからずっと下には、今でも手付かずのお宝が眠っているというのに。


 天井は吹き抜けになっていて青空が見える。公園のような広場に巨大な噴水があり、その真ん中に女神像が立っていた。


「きたきた、ダンジョンの女神像〜!」


「あいつがスキルくれるらしいぜ」


 みんながバスから降りて広場に集合する中、喉が乾いている俺は急いで自販機のある所まで向かう。


「あ、財布を教室に置いてきたな。せめて小銭だけでもあればなー」


 仕方ないので飲み物は一度諦めることにした。


 その後クラスメイトはみんな整列し、神像の前で待機した。


「いいですか皆さん。これから令和22年度スキル判定式を始めます。今回は特殊スキルを持つ先輩が来てくれています!」


 引率いんそつの教師がそう言うと、高等部の制服を着た人物が前に出た。


「次期高等部二年生徒会長の雲形くもがたです。皆さん本日はよろしくお願いします。私の最初の仕事として、次期一年生の皆さんが得るスキルを判定させてもらいます」

 

 雲形先輩は糸目で白髪な女性だ。

 ずっと余裕のある笑みをしていて、背筋が全く乱れることなく真っ直ぐで、細かい仕草からどことなく育ちの良さを感じさせる人だった。


「これから判定するスキルは、ダンジョンからの攻略を楽にしてくれる贈りプレゼントです。召喚や超能力という二つの要素ようそが基本で、そこから四つの分類に分かれるけど、君達はどうなるかな?」


 戦闘バトルスキル、戦闘面の担当をする。およそ五割がここである。


 魔法マジックスキル、専用のギミックを解決したり、仲間の支援を担当することが多い。三割程度である。


 探索サーチスキル、道案内や宝物の発見にトラップ関連の安全管理、などなど探知探索を担当する。二割程度である。


 特殊ユニークスキル、上記の三つとは全く違う性質を持つ。

 雲形先輩の『他人のスキルを判定』というものはここに含まれる。特殊スキルを持つ人間は、一つの世代に数人くらいしか出現しない。



「まずは君だね。さあ前に出て」


 一人のクラスメイトが神像の前に立つと、光の粒の雨がすぐにその全身に降りかかった。


「おお! なんか急に体に力が湧いてきた!」


「スキル判定結果、君は戦闘スキルの怪力剣士だね。評価は十段階中の四というところかな。武器召喚ができるはずだよ」


「あ、ちょっと試しますね。出ろ〜俺の剣!」


 クラスメイトがそうとなえると、何もないところから一本の剣が現れた。


「おお、スッゲ〜! マジで出るじゃん!」


「こらこら、このエリアでは武器を召喚するな! 銃刀法に触れるぞ!」


「すいませーん」


 注意をする教師の言葉で彼は剣を消滅させた。



「スキル判定結果、君は魔法スキルの炎使いだ。評価は六だね。炎系のギミックは君が担当になるだろう」


「やったー!」


 次のクラスメイトは魔法の杖を召喚して、松明のように炎を浮かべた。


「あれっ! というか私の髪の色とか変わってる!?」


 そのクラスメイトは神像から力を授かった際、髪の色が炎のように赤く染まり、目の色まで橙色に変わったのだ。


「うん。スキルを得ると容姿が変わることがあるんだ。珍しいことじゃないよ。さあ次!」


 次は黒美が前に出て、みんなと同様に光の粒の雨を浴びる。


「スキル判定結果、君のは魔法スキル。でもかなり珍しい変身魔法だ。評価は八、いや九だ」


「変身?」

 

 彼女が疑問を浮かべた次の瞬間、ぽふんっと煙に包まれた。


「お、おい! あれを見ろよ!」


「す、スゲー!」


「おおおお!」


「猫耳だあああああああ!」


 男子一同の歓声かんせいが広場中に鳴り響き、通行人達の視線まで集めた。


「私が、猫〜?!」


 そう、彼女は猫に変身したのだ。


 黒髪の上に愛らしい猫耳が生え揃い、両手足は猫のものに変わって、お尻からは立派な尻尾が生えたのだ。


「ど、どうかな春男くん。私、変じゃないよね?」


 彼女は少しじらいながら、腰を軽く曲げて可愛らしいポーズをして見せた。


「ああ、可愛いぞ黒美。もとから可愛いけど」


「春男くん……それは恥ずかしいよ」


 猫に変身したまま真っ赤な照れ顔になる彼女は、とても目の保養ほように良かった。


「次はそこの彼!」


 雲形先輩が俺に手招きをする、ついに出番が回ってきたのだ。

 俺の一生を決めかねないガチャが今始まる。


「おやおや、君は中等部の生徒会長してた子だよね〜。成績も大変優秀だって聞いてるから期待してるよ~?」


「おお、次は青井だぜ」


「春男はやっぱ戦闘スキルなんじゃね?」


「ハルちゃんは魔法使いのがイメージ合うよ」


「よっしゃー、ハルトマン!」


「ハルトくんー頑張って!」


 クラスメイトからの期待が高い、そう俺は優等生だからな。


「はははっ、あだ名を統一しろっつーの!」


 俺は神像の前におどり出て、他のみんなと同様に光の粒を浴びた。


 体感では光に照らされただけ、でも腹の底から何かが変わったような後味だけは感じる。


「スキル判定結果……驚いたなあ、君のは特殊スキルだよ」


「特殊スキル? 一体どんな能力ですか?」


「一言で言うなら矢印やじるしだね……評価は、私にはちょっとつけられないな」


「矢印?」


 周囲には困惑が広がる。

 俺も理解が追いつかない、何が起きているんだ。


 何かヒントが欲しくてひとまず自分の体を見た。

 最初に手のひらを見たが、そこには矢印の形をした光が浮かんでいた。



→500円


 緑色をしたドットゴシックのような文字で、ただそう書かれていた。


 そのうち右手が勝手に、自分の意思とは関係なく、何か大きな力で引っ張られるように動いた。


「うわっ、なんだこれ!」


 次の瞬間には、神像の泉に飛び込んで、派手に水飛沫を撒き散らした。


ってて………びしょれだ」


 俺はびしょ濡れのまま、その右手で五百円玉を握りしめていた。


「五百円?」


 そのうち右手にあった矢印は消えてしまい、そこにはただの五百円玉だけが取り残された。


「ハルトくんの能力って、たったそれだけ?」


「もしかしてあれ、外れ特殊スキルじゃない?」


「聞いた話だと数年に一人は出るらしいぞ。確か前の人はそれで進学取消しになったって」


「おいまじかよ、あの春男が?」


「いやいや、流石に退学はないでしょ」


 クラスメイト達が困惑する中、雲形先輩は二回ほど手を叩いて大きな音を出した。


「はーい。仕切り直して、次の人行こうか」



 全員のスキル判定が終わった帰りのバス、俺は周りの声がよく聞こえなかった。心配する声やなぐさめてくれる声、何か噂をする声で半々だったのは覚えている。


 濡れた制服のせいもあるが、とにかく俺は寒気を感じでいた。

 学園に戻った後は、担任から校長室に来るように声がかかったので、ジャージに着替えてから向かった。


「お前、青井春男だろ!」


 校長室の前に着いた時、先に他のやつが中から出てきた。


「あー、確かお前は隣のクラスの木下きのしただっけ」


「そうだよ、はんッ! お前も呼び出されたんだな、聞いたぜ外れ特殊スキルを引いたんだって? お前も運が悪いよなァ、せっかく優等生だったってのに」


「そういうお前こそ、校長室から出てきてどうしたんだ?」


「俺はスキルが何も貰えなかった。だから高等部への進学が取消しになったんだ。二週間後の卒業式で、俺はもうこことは関係ない人間になるんだってさ、笑えるだろ? はははははは!」


 木下は顔を真っ赤にしていて、その目元には涙がにじんでいた。


「そんな、スキルがないからって進学が出来ないなんて」


「あるんだよッ! 今からお前もそうなるさ、ここに呼び出されたんだからな! まあいっそ清々するぜ、お前みたいな優等生でもハズレを引いたら、人生おしまいだって思えるんだからな!」


 木下は自暴自棄になっているのか、俺に対してとても悪態をついた。


 こういう時、俺は包み隠さずこう言う。


「うっせー、ばーか。泣いてんじゃねーよ、辛いんだなお前?」


「ちっ、くしょう! 今に見てろって!」


 木下はそう吐き捨てて、泣きじゃくりながら廊下を走り去って行った。


「あーあ、人に当たり散らかすのは良くないねホント」


 俺は一人で呟きながら校長室の扉を開けた。



「君も知っての通り、本学園の生徒は高等部に上がると、浅見グループの正規探索チームとして従事することになる。我々が君達のような若者をわざわざ使う理由は、大人はスキルを持てないから、それだけです」


 校長はその席に腰掛けたまま、ことの前置きを話す。


「まともなスキルを貰えなかった俺は、ただの一般人と変わらない。だから必要ないって言いたいんでしょう?」


「ははっ、優等生だけあって物分かりが良いですね。そう、私達は優秀なスキルを持つ人材だけを求めている。だから君はもう必要ありません」


「………………そうですか」


「悪く思わないでくださいね。これは、ビジネスなのですから」


 こうして俺は、二週間後にダンジョン学園を去ることになった。

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