(7)
あこがれのレジェンド芸人さんに御目通り叶った後のいい気分で、仕事場に帰ってみると……。
「先生、一体全体、何がどうなってるんですか?」
アシスタントが急に泣き付いてきた。
クソ、気が効かねえ雄畜生だ。いい気分が一気に台無しだ。
「はあ?」
そもそも一体、この畜生どもは、何をメスガキみて〜にピーピー鳴き喚いてんだ?
「ああ、例の女のアシスタントさんですが、フェミ婆ァに監禁されてたんで、奪還しときました」
慌てふためいているアシスタント達の背後で、諂曲さんが冷静にそう言っている。
「あ……どうも……」
「いや、それが……その……水原さんが……」
「だから、水原を取り戻してもらったんだよ」
「誰からですかッ?」
「だから……その……判るだろ?」
「判りませんッ‼」
「はあっ?」
「『はあっ?』って何が『はあっ?』なんですかッ?」
「お前らが訳判んね〜事言ってるからだよッ‼」
「訳が判んないのは、この状況ですッ‼」
「まぁ、いい……お前の仕事、どんだけ終ってんだ?」
「先生、そんな事言ってる場合じゃ……」
「うるせえ……見せろ……おい、ノルマの三分の一も終ってねえだろ、これ」
「いや、ですから……4人居たアシスタントが急に2人に減って……」
「水原は戻って来ただろ」
「ですが……」
「戻って来たのは事実だろ?」
「ええ、戻って決ましたが……」
「4人居たアシスタントが2人減って、1人戻って来て、今3人居る。どんだけ情状酌量しても、4人居た時の四分の三は出来てねえと、おかしいよなぁ?」
「いや……あの……」
「おい」
「は……はい……」
「俺の言ってる事、何かおかしいか?」
「え……えっと……」
「おかしいと思うなら……どこが、おかしいか、はっきり言ってみろ」
「え……えっと……その……」
「ふ〜ん、何がおかしいか指摘出来ねえのか?なら、何もおかしくないのに、お前らが一方的に、俺を@#$%扱いして、話を逸らしてる訳か?」
「あ……あの……」
もう1人のアシスタントが……おずおずと言った感じで手を上げる。
「何から何まで、おかしいです。先生の言ってる事。水原さんも普通の状態じゃないです」
「何から何までか……じゃあ、一から説明しろ」
「え……えっと……その……何から……」
「は?お前も、嘘吐きか?何もおかしい事が無いのに、おかしいと嘘を吐いて話を逸らしてるのか?おい、嘘を吐くなら、もっと上手く吐けよ」
「あ……あの……」
ゴクリ……。
このダブスタ糞アシスタントが唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
「もう、辞めさせて下さい、こんな職場。未払の給料なんて要りませんから、今日、この場で辞めさせて下さい」
「ふ〜ん、お前もか?お前も、こいつと同じお気持ちか?」
俺は、もう1匹の畜生に、そう訊いた。
「あ……あ……」
「おい、男なら、はっきり答えろ」
「は……はい……僕も……やめさせて……」
「良く言った。だが、
「へっ?」
「お前ら、俺が言った仕事、こなせてないじゃねえか。なのに、何で、給料払う必要が有るんだ?『やめさせて下さい』だぁ?ああ、いいぞ、とっとと出てけ」
「先生、何言ってんですか?」
阿呆でも自分が「わからせ完了」まで、もうすぐだ、って事だけは察したようだ。
何言ってるかもクソも……決ってるだろ。お前らへの死刑宣告だよ。
「けどな、覚えとけ。お前らみたいなヘボをアシとして雇ってるお優しい漫画家は俺ぐらいだぞ。そして、お前らみて〜なのは、他の仕事なんか……それこそ、土方やコンビニのバイトだってマトモに出来る筈が
アシスタント……いや、もう「元アシスタント」か……。
2人は顔を見合せ……呆然としている。
パチパチパチパチパチ……ただ、諂曲さんが拍手する音だけが響いていた。
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