浦島太郎~乙姫様の恋~

山下ともこ

第一章:~竜宮城の掟~

私は竜宮城に仕える亀。


海の神がこの城を築いて以来、長きにわたりここで務めている。


広大な海を統べる神は日々忙しく、

竜宮城の管理はその一人娘、乙姫様に委ねられている。


竜宮城は、日本の海を守るための重要な拠点だ。


乙姫様は気品に満ち、美しく、そして海の神と同じく永遠の命を持つ。


しかし、どれほど美しく、どれだけ長く生きようとも、

海の底での暮らしは時に退屈なものだった。




「亀、また人間を連れてきてちょうだいな」

乙姫様は楽しげに微笑みながら言う。


私は甲羅をすくめ、「またですか……」とため息をつく。


すると乙姫様は、まるで子供のように、いたずらっぽく笑いながら答える。

「だって、人間が来ると宴が開けるじゃない」





確かに、竜宮城で人間をもてなす宴は華やかで楽しいものだった。


しかし、人間を招くには厳格な掟がある。


竜宮城と人間界では、時間の流れが異なる。

海の神は、乙姫様にも私にも厳しく言い聞かせていた。


「人間を竜宮城へ招くのは構わぬが、

 必ず数時間以内、長くても二日以内に帰さねばならぬ。

 そして帰す際には、必ず玉手箱を持たせよ。

 人間界で玉手箱を開けることで、

 竜宮城で過ごした時間が人間界の時間軸に修正される。

 そして、竜宮城での記憶をなくすのだ。

 必ず、人間が帰るなり、すぐに開けるよう伝えよ」



当初、乙姫様は不満げに

「そんなのつまらないわ。もっと長くいられないの?」

と尋ねていた。


しかし、海の神は静かに諭した。


「人間の命は、我々とは違い、限られた時間の中にある。

 その貴重な時間を竜宮城が奪ってはならぬのだ」


その言葉に、乙姫様はしばし沈黙し、やがて静かにうなずいた。



それ以来、乙姫様は掟を守りつつも、時折私に

「また人間を連れてきて」

と無邪気にねだるのだった。


しかし、この掟が、やがて乙姫様の心を大きく揺さぶることになろうとは・・・


その時、私は思いもしなかったのだ。



続く~第二章へ~



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