第51話 恨み

 サンゴはまるで、この時を待っていたかのようにそんなセリフを吐いた。

 

 そして、何よりも彼女がホロを守るかのように発動したその力は、賢者すらも驚かせるほどの者であり、サンゴもどこか自身に満ち溢れた様子を見せていた。


 この様子なら賢者相手にも多少はやっていけるかもしれない、そう思っていた矢先、ホロがフラフラとおぼつかない足取りでサンゴの方へと向かっていくと、彼女はサンゴに掴みかかりながらサンゴを怒鳴りつけた。


「邪魔をしないでっ!!」


 その表情は実に鬼気迫るものであり、彼女の額の目は大きく見開かれていた。


 三つ目となった彼女は、これまでとは違うすさまじい迫力を放っており、その様子にサンゴもおびえた様子を見せた。


「で、でも危なかったから・・・・・・つい」

「あいつは私の敵なの、私が倒すべき相手なのだから邪魔をしないで」

「わ、わかった」


 サンゴは、あっさりとその身を引いた。だが、その様子に不満げな様子を見せたのはサッサ・ロンドだった。


「なんだ、二人がかりで来ないのか?」

「お前の相手は私一人でいい」


 ホロは、すっかりやさぐれた様子でそういうとサッサ・ロンドはため息を吐いた。


「お前は良くてもこっちはつまらん、同じ過ちを繰り返すだけだぞ邪眼の血族」

「黙れ、お前だけは絶対に許さないっ」

「・・・・・・・許すも許さぬもないだろう」


 収支呆れた様子のサッサロンドに対して、ホロはまるで獣の様に唸り声をあげ始めると、彼女の額が強く赤く輝き始めた。


 それは、誰もがわかる規格外の力であり、周囲を巻き込むほどの引力を見せた。


「これでお前をしとめる、覚悟しろサッサ・ロンドッ!!」

「・・・・・・おう、その溜めに溜めたお前の全力を俺にぶちこんでみろ」


 その瞬間、ホロの額から放たれた全力とも思える太く速い赤い閃光が解き放たれた。


 だが、サッサロンドはその場から動くことなく手に持っている忍者刀とスッと前に突き出すと、ホロの赤い閃光はまるで煙の様にモクモクと形を変え始めた。


「あぁ、煙いけむい。悪いがこれ以上屋敷を壊されるのは勘弁なんでなぁ」


 そして、あれだけの力を前にしても平然とした様子のサッサ・ロンドを前にホロは更にいきりたちながら再び赤い閃光を放った。


「このぉ、くたばれぇーっ!!」


 言葉遣いがすっかり変わった様子のホロはまるで二重人格の様な変貌ぶりを見せていたが、それ以上にホロの赤い閃光を簡単に煙に変えてしまうサッサロンドは、もはやホロの事をまるで子どもをあやすかのようにケラケラと楽しそうに笑っていた。


 こっちとしては良くない状況であり、正気を失いかけているホロの様子も気になり所だ。あれだけ品のある様子だった彼女がこうも変貌してしまうとは。


 恨みがあるにせよ、これほどまでの感情変化を目の当たりにしていると、どこか嫌な予感がする。


 そう思っていると、その予感が的中するかのようにホロがその場で膝をついた。


「う、うぐぁぁぁっ!!」


 叫び声をあげながら苦しみ始めるホロは畳の上でじたばたと暴れ始めた。そして、サッサ・ロンドは静かにホロの元へと歩み寄ると、彼女はわずかに眉をひそめながら口を開いた。


「同じ過ちだ邪眼の一族、力に頼り鍛錬を怠る愚か者を人は悪魔と呼ぶ。お前はまさしく悪魔そのものだ」


 ホロがもだえ苦しむその体には、あちこちに赤い目が出現しており、その姿は人とというよりも目と呼ぶ方が正しく思えるほどに変貌していた。

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