第34話 正気の沙汰

 どうやら融合はうまくいったらしいが、あんな様子を見せられたらそう簡単にこの場を離れる気にはなれない。


 それこそ、サンゴの時はもっとてこずった分、俺はこのあっけない結末にどこか不信感でいっぱいだった。


「なぁホロ、お前本当に正気か?」

「私は正気ですが、何かご不審な点でもありましたか、ジュジュ様」


「いや、もう少してこずると思っていたから、この状況がうまくいきすぎて心配なんだ」

「あ、私ったら、再び目に光が戻ったことで少し興奮しすぎたでしょうか?」


 ホロは、そういいながら照れた様子で乱れた髪や服を直していた。


「いや、大丈夫ならならそれでいい。あとはお前がその力を磨いてこの独房から出られるといいだけだ」

「はい、必ずここから出て見せます」


「そうか、とりあえず俺にできるのはここまでだ、じゃあなホロ」

「あっ、お待ちくださいジュジュ様っ」


「なんだ?」

「私は必ずこの独房から出て、あなたに会いに行きます」


「あぁ、それを願ってる」

「はいっ、ですのでその時が来たら、ぜひとも私をあなたの従者にしていただけませんか?」


「・・・・・・従者だと?」

「はい、この体をジュジュ様に捧げることを誓わせてください」


「ふざけるな」

「え・・・・・・?」


「まずは目先の事に集中しろ。お前のその様子だと、感情に流されて足元をすくわれかねない、授けた力を無駄にするような事が無いようにするんだ」

「あ・・・・・・は、はいっ、わかりましたジュジュ様、その助言この身に強く刻んでおきます」


「四日後に会おう」

「はい、必ず、必ず会いに行きますジュジュ様っ」


 俺はホロに別れを告げて独房を後にすると、そこでは番人を睨みつけるアオが待ち構えていた。


「アオ、待ってたのか」

「あっ、ジュジュさん戻ってこられたのですね」


「あぁ」

「それで、どうなったのですか?」


「どうもこうもない、うまくいったよ」

「うまくいったという事は、つまりどういうことですか?」


「ホロの体にあの魂を融合させた。あとはあいつがどれだけあの力を使いこなせるかだ」

「肉体と魂の融合?それをジュジュさんが行ったのですか?」


「そうだ」

「い、いえ、しかし融合というのは具体的にどのように」


「対象の体に魂を入れる、適合するかどうかは本人次第だ」

「そんな簡単な説明では納得できませんよジュジュさん」


「ひとまず、この独房にいるそいつは四日後に刑の執行を迎える、その時に納得できるはずだ」

「そうですか、で、ここに入れられているのは一体どなたなのですか?」


「ホロという邪眼の一族の女だ」

「あぁ、賢者によって両目を潰されたという、あのホロ・グラムベリー」


「知ってるのか?」

「当然です、彼女の一族の評判はあまりよくありませんからね、大学内でもかなり疎まれている話は聞いています」


「そんな話があったのか」

「えぇ、私は彼女の邪眼に興味があったのですが、それが失われたというのは残念だと思っていましたよ」


「それなら四日後を楽しみにしておくんだな」

「と、いうと?」


「ホロには失った目を与えた、その力をどう使うかはあいつ次第だ」

「目を与えたという事は、つまり、融合した魂が目になったとでもいうのですか?」


「そういう事だ」

「・・・・・・四日後が楽しみになってきましたよ、ジュジュさん」


「そうだな、だが、その前にちゃんと確認しなければならないことがある」

「なんですか?」


「ホロの刑が執行されて魔物が討伐できた際、本当にあいつの罪が許されるのかどうかだ。ダリア先生に問い合わせてみる」

「ダリアというと、副学長先生の事ですか?」


「そうだ、ここに入学してからいろいろと世話になっている」

「それはまた、随分とお偉い方とお知り合いなのですね」


「あぁ、ここに案内されたのはあの人の差し金だ、いい人材がいるってな」

「そうですか、では副学長室に向かってみますか」


「アオもついてくるのか?」

「おや、お邪魔でしたか?」


「いや、いいんだが」

「ではついていきます、今度は番人もいないでしょうからね」


 そうして、すっかり俺に付きまとうようになったアオと共に副学長室へと向かった。

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