第23話 英雄の安息所
地獄房を後にした俺は、魂の選別を行うために大学が保有しているという英雄の安息所に立ち寄ってみることにした。
英雄の安息所は地獄房の近くに存在しており、厳重な警備体制が敷かれていた。
ダリア先生によると、この英雄の安息所のせいで魔物が湧き上がってくるとは言っていたが、現状それほど強力な魂の存在を把握することはできずにいた。
本当に魔物は英雄をたどって湧き上がっているのか?
そして何より、本当にこの大学には英雄の魂が保管されているのかという疑念が頭をよぎった。
ともあれ、そんなものはこの目で確かめればいいものだ。
そう思い英雄の安息所への入場を試みようとしていると、入場口には警備員と思われる人の姿があった。
それらは固有の制服に身を包んでおり、その表情はとても厳しい様子に見えた。
「失礼ですが、階級の提示をお願いします」
「誰でも入れるわけじゃないのか?」
「英雄の安息所にはシルバーより上の階級が必要になります」
「それ以下は?」
「入場を許可できません」
「そうか」
思いのほか厳しいセキュリティだ、だが、運のよいことに俺には金色に輝く記章がある。
つくづくおじさんにもらった推薦書と、俺の入学を認めてくれたダリア先生には感謝しかない。
そう思いながら俺はゴールドの記章を見せると、警備員はかしこまった様子で頭を下げてくると、すぐに入場させてくれた。
英雄の安息所は、壁や床が真っ白にデザインされており、目が恨むほどの光景が広がっていた。
そんな真っ白な空間の中には、一定間隔にひときわ目立つものがいくつも並べられていた。
それは、個性豊かな棺の数々であり、その周辺には英雄たちの遺品と思われるものや説明書きが置かれていた。
俺はひとまず手近なところにある棺に近づき、説明書きを読んでみることにした。
『英雄「ゲコ・カエルレウス」
かつて、世界征服を目論んだ吸血鬼の一族を、たった一人でうち滅ぼした伝説の英雄であり、世界最高峰の剣士である。
彼のアンデッドに対する豊富な知識や戦闘技術は、現代においても重要な役割を果たしている・・・・・・』
とても簡潔な説明書きと、数多くの遺品が並べられている状況、それは確かに英雄という存在を知るには良い場所に思えた。
ただ、これが英雄の安息所といえるのかというと、俺にはそう思えなかった。
そして何より、ここのある棺や遺品の数々からは、何の力もその残滓たるものも一切感じる事ができなかった。
もちろん、これらはレプリカであり、本当の墓は別にあるという可能性も否定できないが、それでも、これだけ期待はずれな場所はなかった。
そう思えるほどに、この空間はまさしく真っ白で何もない空間に思えた。
これじゃあ、本来の目的である英雄の魂の回収は期待できない。そんなことを思っていると、ふと、俺の隣に誰かが歩み寄ってきた。
「こんにちは」
俺の隣に来たのは、白衣に眼鏡をかけた人だった。性別は声の高さや見た目からして、おそらく男。
きれいな青い瞳と、肩まである黒色の長髪はとてもつやのある綺麗なストレートヘアーだった。
知的な容姿の彼だったが、そのきれいな左目には、鋭く細い縦の傷が刻まれているせいで、ただものではない雰囲気が漂っていた。
「見学ですか?」
「はい」
「見ない顔ですね、昇格組、それとも新入生ですか?」
「新入生です」
「あぁ、では噂の方ですか?」
「噂?」
「えぇ、入学と同時にゴールドランクに認定され、上級の魔物を一ひねり、おまけに賢者への謁見も済ませたという超大型ルーキーの噂ですよ」
「もうそんな話が回ってるんですか?」
「否定されないという事は、あなたがその超大型ルーキーという事で間違いないのですね」
「俺はそんな大それた噂をされるような人間じゃないですよ、森から出てきた、ただの田舎者です」
「そうですか、ちなみにお名前を聞いても?」
「ジュジュです」
「おぉ、やはりあなたがジュジュさんでしたか、一目見ただけでただものではないと思っていたんです」
「それで、どうして俺に話しかけてきたんですか?」
「いえ、もしよろしければ英雄の安息所をご案内とでも思いまして」
「してくれるんですか?」
「勿論です」
「ちなみに、あなたは?」
「私は魔法大学に在籍しているアオヌマ・ケンジといいます」
「アオヌマ・ケンジ?」
「えぇ、アオと呼んでください、敬語も必要ありませんよ」
「それは助かるが、アオは学生なのか?」
「はい、この大学には数年前から在籍していて、シルバーランクの身です」
「ならこの大学にもそこそこ詳しいんだな」
「えぇ、特に英雄の安息所について研究を深めています、早速案内をしましょう」
「あぁ、助かる」
そうして、俺は突如として出会った謎の学生アオヌマ・ケンジと一緒に英雄の安息所を見て回ることとなった。
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