第19話 顔合わせ

「簡潔で構わない、今は他に集中すべき事項があふれている。副学長先生もそこは理解してもらえますか?」


 随分とクールな白銀美青年は、まるでこの場を取り仕切るリーダーの様に見えた。

 

 それにしても、こっちとしても余計な手間が省けるというのはありがたい。そう思っていると、ほとんど俺の保護者であるダリア先生が声をあげた。


「それは残念ですねぇ、では、顔合わせのみでよろしいのですか?」

「はい、素性がなんであろうとこの大学の戦力となるのであれば問題ありません。我々に必要なのは圧倒的な力ですから」


 銀髪の美青年は力強くそう答えると、ダリア先生はわずかに頭を下げて、俺に向かってこの部屋を退出するように促してきた。


「もういいんですか?」


 俺はそう尋ねると、ダリア先生は黙ってうなづいた。

 

 そうして、俺はほとんど何をしに来たのかわからない状況で賢人会を後にした。そして、再びさっきあふれる賢者の付き人がいる廊下を通り、しばらく歩いたところでダリア先生が突然立ち止まり、大声で笑い声をあげ始めた。


 何がそんなに面白いのかと思っていると、ダリア先生は泣くほど笑っていたのか、目をぬぐいながら話しかけてきた。


「ジュジュ君、改めて私はあなたの素質に驚いています」

「あの、なんですか急に笑い出して」


「すみません、あまりに面白くて」

「何がですか?」


「賢者の皆さんったら、あなたに敵意むき出しで、ふふふっ、あんな賢者達の様子を見たのは随分と久しぶりです」

「楽しいのは良いことですけど、ちゃんと説明してもらえませんか?」


「えぇ、実は例年、ゴールドクラスに上がった者達は賢人会へのあいさつが通例なんですが、その場では必ずと言ってよいほど賢者たちとの力量差にあてられる人が多いのですよ」

「あてられる?」


「えぇ、足が震えて立てなくなったり、呼吸を忘れてしまったりと、そもそも賢人会が行われている賢人の間にすらたどり着けない人だっているんですよ」

「ゴールドと賢者との差はそれほど深いんですか」


「えぇ、ですが、ジュジュ君は平然と賢人の間にたどり着き、こうして私と会話ができている」

「何が言いたいんですか?」


「あなたは稀代の才能を秘めた逸材ということです、賢者にだって負けず劣らずの力を持っているのです」

「じゃあ、先生は俺を試したってことですか?」


「えぇ、ですが予想以上でとても面白かったですよ、本当に、こんなに楽しいのは久しぶりです」

「あぁ、そりゃよかったですね、じゃあ俺はもう行きます」


「あぁ、ちょっと待ってくださいジュジュ君」

「あの、まだ用があるんですか?」


「機嫌を悪くしたのなら謝ります、すみません」

「いいですよ、ただこんなことのために俺を呼び出したんですか?」


「いいえ、本題はここからです。実は、あなたに紹介したい人がいるんです」

「・・・・・・それはずっとついてきている、この黒マントの人の事ですか?」


 俺は、ずっとついてきている黒マントの人を指さした。


 賢人会が行われている賢者の間とやらには入ってきていなかったが、扉の前までは一緒についてきていた。明らかに怪しいし、ダリア先生が今しがた言った事が本当なら、子人だってただものではないはずだ。


「いえ、彼女よりも先に紹介したい人がいるんですよ、さぁついてきてください」


 そういうと、ダリア先生は軽い足取りで再び歩き始めた。まったく、入学してからつくづく俺はこの副学長先生に振り回されているな。


「で、今度はどこに向かうんですかダリア先生?」

「魔法大学の地下、大学で罪を犯した者が収容される地獄房ですよ」

「地獄房・・・・・・?」


 上に上ったと思ったら、今度は下に行くらしい。どうせなら下から上に上がりたかったものだ。

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