第7話 入学と記章

「えっと、推薦書だけではダメなんですか??」

「大学側としては余計な衝突を避けたいのです。なにせ、編入でやって来た生徒が突然最上位の階級となれば他の者に示しがつかないというものです」


「なるほどね、ですが一体どのように証明を?」

「我が大学におけるもっとも簡単なゴールドランクのテストは魔物討伐になります」


「魔物討伐が実力の証明になるんですか?」

「はい、近年は魔物の数も増加傾向にあります、なので実戦向きの学生が求められているのですよ」


「それ以外の方法もあるんですか?」

「ありますが・・・・・・実は、大学内にある研究所からちょうど魔物が逃げ出したという報告を受けていましてね、今からその対処をしに行く所だったんですよ」


「そ、それは随分と都合の良いタイミングですね」

「えぇ、ですのであなたにはその魔物の討伐、あるいは鎮圧をお任せしたいのですが、よろしいですか?」


「わかりました」

「もちろん、助けが必要だと思ったら遠慮せずに行ってください、すぐに助けますので」

「ありがとうございます」


 そうして、扉を避けた先には真っ黒なオーラを放つ大型犬の姿があった。そいつはこちらにおびえる様子も威嚇する用もなく、ただじっと俺の事を見つめていた。


「あれですか?」

「はい、研究員の情報によると上位個体であるという情報が入っています」


「上位個体って何ですか?」

「通常の個体に比べてより強い力と知性を兼ね備えた個体となります」


「ゴールドクラスの学生なら上位個体の相手は普通なんですか?」

「はい、当然やってもらわなければならない相手です」


「わかりました、じゃあやる前に一つ聞いていいですか?」

「なんですか?」


「この大学で禁止されてる魔法とかってあったりしますか?」

「そうですね、近年は死霊術に関する魔法は規制が強まっていますからその類、あとは施設を破壊する程の強力なものは遠慮いただいています」


「魂に関する魔法とかは」

「魂をとらえる技術は近年急速に進みつつあります。できるのであればどうぞ、お好きなように」

「そうですか、では・・・・・・」


 俺は上位個体の魔物に向かって数歩進み、静かにクロコを呼んだ。


 すると俺の影がわずかに動いて反応してくれた。そして魔物に向かって掌を突き出した。

 今からやるのは、俺が八年間の時間の中でクロコと共に磨き上げたものであり、ドッペル家の悪しき運命が背負う力だ。


魂握こんあく


 俺はその言葉を唱えながら、ゆっくりとその手を閉じて見せた。すると魔物の犬はその場で苦しみ始めた。

 そして、震える足でフラフラとおぼつかない足取りを見せると、魔物はその場で倒れこみ苦悶の表情と声を上げた。


 状況としては鎮圧に近い、そして魔物が襲ってくる様子もない。俺はすぐに副学長先生に現状を確認してもらおうと目を向けると、先生はどこか驚いた様子を見せていた。


「あの先生、これでどうですか?」

「・・・・・・」


 副学長先生はしばらく魔物の方を見つめていると、ふと俺と目が合った。


「あの副学長先生、まだ物足りないでしょうか?」

「も、もう結構です、あとはこちらに任せてくださいっ」


 そういうと、副学長先生は魔物に向かって手を突き出すと、そこから優しい白い光の光弾が飛び出し、それは魔物に直撃した。


 すると、魔物はまるで眠るようにぐったりとした。俺もあんな優しい力が欲しかったものだ。


 その後、副学長先生は近くにいる研究員と思われる人たちに魔物の後始末を任せた後、どういう訳か副学長室へと案内される事になった。


 副学長先生は俺を部屋に招き入れると、手慣れた様子でお茶セットをテーブルに用意して、お茶菓子と共に俺に茶を入れて歓迎してくれた。


 随分と手厚い歓迎と、見た事のないおいしそうなお菓子を前に俺は思わず釘付けになっていると、副学長先生は微笑みながら「どうぞ」といった。

 その言葉に、俺は感謝の言葉を述べながらお茶菓子に手を付けて、その新鮮な甘みと香りを存分に楽しんだ。


 そして、甘い時間を堪能していると副学長先生は俺の前に一つの箱を差し出してきた。


「それでは、ジュジュ君にはゴールドランクの証明である記章をここに授けます」

「それはつまり、合格という事ですか?」


「えぇ、あれだけのものを見せられて不合格だなんて言える訳がありません」

「それはなによりです、それでこれは何ですか?」


「それがあなたの階級を証明し、多くの特権を得られることになるものです」

「ちなみに、ゴールドだと何がお得なんですか?」


「大学内にある多くの施設へのアクセス権が与えられます」

「そりゃ便利そうですね」


「まぁ、ゴールドランクである以上余計な心配はいりませんよ、どこに行っても敬意をもって対応されるでしょう」

「でも、逆に疎まれたりしませんか?」


「そう思うのであれば外しておけばいいんです、この大学には記章を与えられていない学生も多数いますからね」

「なるほど」


「ですが、ゴールドクラスであることを隠す様な人はあまりいないでしょう、それほどにその階級は特別です」

「そうですか、じゃあ遠慮なくこれはいただきます・・・・・・と、言いたい所なんですが、その前に提案が一つありまして」


「なんですか?」

「すべての階級の記章をいただけたりしませんか?」


俺の言葉に副学長先生は随分と慌てた様子を見せた。どうやらよほどの事を言ったらしい。


「なっ、あなたは何を言っているのですか」

「いえ、ただ、全部あればいろいろ便利かと思いまして」


「認められません、先ほども言ったように大学で治安を乱す行為はなるべく避けたいのです」

「そうですか、そうですよね、すみません変な事を言って」


「・・・・・・どうしてその様な事を?」

「俺は一人でも多く信頼できる仲間を作れればいいと思っています。もしもそれが、階級のせいでそれが阻害されるようなら、困るかと思いまして」


「なるほど、であればこちらで学生の斡旋を行うというのはどうでしょう」

「こちらというのは?」


「私自ら紹介します」

「副学長先生が?」


「えぇ、不服ですか?」

「いえ、でも先生がどうしてそこまでしてくれるんですか?」


「無論、貴重な人材を壊されては困るからです」

「それはどういう意味ですか?」


 副学長先生は紅茶を一口飲むと、真剣なまなざしで見つめてきた。


「断言します、ジュジュ君あなたは間違いなくこの大学で疎まれ、妬みの対象として攻撃されるでしょう」

「そ、そんな事を断言しないでくださいよ」


「ですが、あなたの「仲間」を欲する心構えはこの大学において最も重要で必要不可欠なものでるのは確かです」

「それは何よりです」


「ただ、この大学内において人材の確保というものがいかに骨が折れるかというのをあなたはまだ理解していません」

「・・・・・・俺の考えが浅いと?」


「はい、要するにあなたの様な考えを持った学生は既に大勢いるという事です。そして、その人脈はクモの糸のように広がっています」

「つまり、すでに大学内での派閥が出来上がってるとでも言いたいんですか?」

「はい、ですが私は優秀な学生を見殺しにできない性分でして、あなたさえよければそれ相応の人材を斡旋します、どうしますか?」


 実に嬉しい提案だが、そんな環境において、果たしてこの副学長先生すらも信用できるのかというと、まだわからない。


 そんな事を思いながら見つめていると、副学長先生は笑った。


「ふふっ、私の事が信用できませんか」

「あぁ、いや今日あったばかりですし」


「そうですね、でも、疑心暗鬼になりすぎるのもよくないことです。それにあなたほどの人ならば騙されでも危機を回避する能力はお持ちでしょう?」

「・・・・・・では、ぜひ喜んでお願い申し上げます」


 できる限りの丁寧な言葉遣いを使って見せると、副学長先生は満足した様子で丘足をつまんで見せた。


「よろしい、ではどのような人材が好みですか?」

「強い信念と志を持った人材がいいですね、能力は問いません」


「なるほど、こちらで厳選しておきます」

「はい、よろしくお願いします」


「それから、もしも自分の力で仲間を集めるのであれば記章無しの人材に目をつけるべきでしょう」

「その理由は?」


「彼らは学内における階級社会を非常に毛嫌いしています。なのでクモの巣の外にいるのですよ」

「つまり、危険が少ないという事ですね」


「えぇ、ただ能力は低いので頼りになるかどうかはわかりません」

「階級なしの学生が良くいる場所とかは」


「そうですね、彼らは大学図書館によくいますよ」

「図書館ですねわかりました、早速行ってみます」


 そうして、俺はすぐさま仲間を見つけに図書館へと向かおうとしていると、副学長先生が引き留めてきた。


「お待ちなさいジュジュ君」

「え、はい、なんですか?」


「もし何かあればここにいらっしゃい、いつでも歓迎しますよ」

「ありがとうございます」


 そうして、ひょんなことから大学のお偉い人と知り合いになれた俺は、副学長室を後にして大学図書館へと向かう事にした。

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