ちみっこ公女、前世は悪い魔女でした!~家族の破滅フラグはあたちが全部ぶちこわしゅ!~

ゆいレギナ

第1話 転生したね


 魔女狩りは、私が生まれる二百年前から続く文化である。

 魔法を使えない者が、魔法を使える者を恐れた結果の迫害だ。


 私は、そんな時代に魔女の一族として生まれた一人だった。


 だから、母が村人たちに火炙りにされて死んだ。

 だから、私は村を燃やした。


 だから、父が町人たちから暴行を受けて死んだ。

 だから、私は町を死霊に襲わせて皆殺しにした。


 だから、妹が誘拐されたあげく、国王や国民の前で打ち首にされた。

 だから、私は国王を殺し、国を滅ぼした。


 だから、私は『世界で一番悪い魔女』として名を残した。


 ノヴァ=リュクス。

 その名は百年経っても、人々の記憶に残っているのだという。




 そんな私は、ある日、子どもを拾った。 

 そのとき、見た目はある程度の若さを保っていたが……実際の年齢は百を超えていただろうか。このあいだ、私が滅ぼした国を悼む新聞記事を読んだ気がする。それも、何年か前の話だったかもしれないけれど。


 私がひっそり暮らしていた森に、その子どもが迷い込んでいたのだ。本人は震えた声で『親に捨てられた』と言っていた。当時は、まだ七歳くらいの少女だった。


 私は、二度と家族を作らないと決めていた。簡単な話だ。家族が殺されるなんて、そんな悲しい思いをしないためには、家族を作らなければいい。


 だから、森の奥でひっそりと暮らしていたのに……私はどうしても、彼女を見捨てることができなかった。


 彼女の背丈が、亡くなったときの妹に同じくらいだったせいだろうか。

 あと、単純に寂しかったからかもしれない。


 魔女という生き物は、喋れもしない精霊に無駄に愛されるせいで長命だ。森に引きこもって百年は経過していた。このまま、ひっそりと独りで死ぬつもりだった。


 それなのに、私は結局、また家族を作ってしまった。

 それも、血も繋がっていない、赤の他人の子どもを。


 結果、その後十年、私はとても幸せだった。

 特に何があったわけではない。ただ私の味気ない日常に、子どもが加わっただけ。


 それだけなのに、無色だった私の世界に、久しぶりに色が付いた。


 不器用に食べる子の口を拭いた。

 いたずらした子を叱った。

 柔らかい子を抱きしめた。


 そんな他愛もない毎日が、とても幸せだった。

 だけど、十年後、私は彼女に殺された。


「ノヴァ……ごめんなさい……」


 その理由は、聞くまでもない。

 だって、私は世界で一番悪い魔女なのだから。


「ごめんなさい……ノヴァを殺せば……家に帰れるって……」


 そう言いかけて、十七歳になった彼女は口を噤む。

 数日前、彼女はおつかいの途中で、誰かと会っていた。あれが実家からの遣いだったのだろう。なんでそんなことを知っているかって? 当然、かわいい弟子には護衛をつけていたに決まっているじゃないか。


 だから、私は当然知っている。

 彼女が、私を殺すために、この森に派遣されていたことも。

 ずっと、魔法の影響を受けない白金のナイフを隠し持っていたことを。


「ノヴァを殺さないと、身籠った妹が、お腹の子どもごと殺されちゃうって……」


 彼女に妹がいた話を、私は聞いたことがあった。

 彼女は裕福な生まれだったようだが、産みの母親が流行り病で死んでしまったらしい。その後、すぐに継母がきたらしいが、継母にとって、腹違いの子どもが邪魔な存在。だから人さらいを装って、こっそり処分されるなんて少なくない話だ。


 処分ついでに、その子どもが魔女を退治してくれたら。

 魔女を倒せば、国から大層な報奨が出る。魔女が住む森に子どもを捨てて、もしも、その子が英雄になってくれたら……なぁに、失敗しても、邪魔な子が消えてくれるだけ。継母にとって、これほど美味い話はない。


 だけど、その子が魔女に育てられていたのは予想外だったのだろう。

 大事なほうの娘が結婚し、子どもに恵まれた。しかし、なんらかの婚家の伝手から、魔女に育てられてる隠し子の存在に気付かれてしまった。


 魔女と懇意にしている親族がいるなど、それこそ一族郎党、処刑されるような大罪だ。


 早く魔女を殺せ。早く英雄になれ。

 でなければ、おまえの大事な妹が、腹の子ごと殺されるぞ。


 その顛末が、これである。


「別に、私が殺される理由なんて、どうでもいい、さ……」


 そう、私が死ぬ理由などはどうでもいい。

 悪い魔女が討伐されるだけ。そこにこれ以上の理由は要らない。


 私が気になることは、一つだけ。

 私は、涙で濡れた彼女の頬に触れる。


 先詠みの力――それが、私を魔女としてここまで生き長らえさせた能力だ。

 そうして、視えた未来は――。


 彼女が、幸せになっていた。

 彼女は魔女を殺した英雄として、無事に生家に戻ることができた。すでに継母は亡くなっており、婿養子をとった妹との関係にも支障がなさそうだ。涙ながらに甥っ子を抱きしめる姿に、私も涙腺が緩くなる。


 優しく、賢い子だ。きっと姉妹で協力して、家の繁栄に努めていくのだろう。


「アド、ラ……最期に、よく聞きなさい」


 私は彼女の顔を引き寄せて、その愛しい姿を見納める。

 


 あぁ、愛しい我が弟子よ。

 遺していくかわいいあなたへ、私は最大の呪いを授けよう。



「どうか、幸せに死んでくれ」


  ◆


 そして、私、ノヴァの人生は幕を閉じたはずだった。

 なのに……どうしてだろうね。再び目を開けると、私は誰かに抱かれていた。


「よかった、セリーナ・・・・。ママよ、わかる?」


 私は誰かに抱かれていた。

 アドラではない。藍色の長い髪が美しい、もっと長身の女性だ。


 しかも、ママだと?

 私の母親は、私が五歳のときに魔女狩りの犠牲に……。


 と、このおかしな女を払いのけようとしたところで、ふと気づく。

 この手足が、妙に短いな?


 しかも、天井には見たこともない豪華なシャンデリアがぶら下がっている。

 私を抱く女だけではなく、メイドや使用人のような服を着た人たちも私を見下ろしては、目に涙を浮かべるほど歓喜したり、安堵したりしていた。


 どうしてだ?


 私が階段から落ちたところで・・・・・・・・・・・・怪我などするはずもないのに・・・・・・・・・・・・・……。


「あっ」


 私は心のうちで頭を抱える。

 これは前世の人格のまま、幼児に転生してしまったね……!?

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