第23話「謀略始動」
「それより、コイツを起動したのはどこのバカだ!」
暗闇の工事現場に、作業長の怒鳴り声が響く。
「私ですよ!」
声のする方を見上げた作業長は目を疑った。
暗闇に青白く浮かび上がる発電装置の上に、あの管理官が宙に浮かんで立っているのだ。周囲の作業員たちも、作業長の周りに駆け寄ってきた。全員が驚きの目を管理官に向けている。
「民政局の許可は取っていませんがね!」
管理官はそう言って、目深に被っていた山高帽を投げ捨てた。
「うわっ!」
「ば、バケモノ?」
「ひ、一つ目だぁ!」
巨大な目が一つしかない顔を見た途端、その場に居た作業員達が口々に叫んで後ずさる。中には逃げ出す者もいて、現場は一気に騒然とした。
「管理官!何のつもりだ!」
作業長だけが怯まずに管理官に叫ぶ。
「少し早い試験運転ですよ!」
管理官・端末群がその一つ目を歪めながら答えたその時だった。
ヴォオオオオオオ~!
発電装置の音が、さらに大きく甲高くなっていく。
バチッ!バチバチッ!
巨大な発電装置の周囲に、幾つもの稲光が放たれ始めた。
「いきなり…全力稼動だと?」
呆然と呟いた作業長は、すぐさま振り返って叫んだ。
「全員退避!急げ!ここから離れろっ!」
作業員たちが弾かれた様に駆け出した。全員が退避して行くのを確認しながら、作業長は最後尾を走っていく。その作業長の背後から、管理官の不気味な笑い声が響き渡った。
「はっはっはっ!帝都の発展に使う発電装置を、その破壊に活用するとは実に痛快だ!」
「さあ!早く来い!ケモノ使い!」
「くそっくそっ!彩華さんっ!」
岩之介は両手両足の自由を奪われ、ゴロゴロと転がりながらもがいている。
「ったく!何やってんだよっ!」
突然、割れ鐘のような怒鳴り声が響いた。
パキン!
何かが割れる様な音と同時に、岩之介の両手両足が自由になる。
「龍仁坊?」
転がっている岩之介が、傍に立つ龍仁坊を呆然と見上げた。
「ほら!さっさと行くぞっ!」
ドサッ!
龍仁坊が、黒い布の塊を岩之介に放ってよこした。
「これは?」
それは岩之介のバンカラ装束と特製ゴーグル、電慈式兵器一式だった。
「資格停止は終わりだ。〈始祖〉様の勅命により、お前は特技師に復帰だ!」
岩之介はポカンとして龍仁坊を見上げている。
「あの、〈始祖〉って…『MIKADOノ〈始祖〉様』のこと?」
唖然として尋ねる岩之介に、龍仁坊はイライラを隠さずに怒鳴った。
「そうだ!だから早く着替えろ!急いでウズメっ子を追うぞ!」
「ちょ、ちょっと話についていけないんだけど?」
「あの娘、死ぬ気だ!」
「え…」
岩之介の顔から血の気が引いて顔面蒼白になる。
「あの化け物を自分で止める気だ。ケモノ使いの秘術を使って…」
「秘術?…」
「〈慈頼眼〉だ。ケモノ化したケモノを殺せる唯一の方法…自分の命を弾丸に変えて、相方であるケモノに打ち込む」
「その〈じらいがん〉って、まさか…」
「そうだ。ケモノも、使ったケモノ使いも殺す術理だ」
岩之介は呆然と呟く。
「じゃあ、彩華さんは…はじめから…」
「あのケモノを止めるために、死ぬために帝都に来たんだ」
「そんな…それが、天命?」
呆然とする岩之介の脳裏に、ついさっき彩華が呟いた言葉が次々に蘇った。
《~私は死ぬのが、少しだけ怖くなったのだ~》
《~私は、私の天命を果たしに行く~》
《~さらばだ。イワ~》
岩之介は、拳を強く握りしめてその場に立ちすくむ。
「彩華さん…ダメだ!…」
困惑と怒りがないまぜになり、岩之介は唸る様に呟く。強く握りしめた拳はわなわなと震え、噛み締めた唇からは血が滲んでいた。
「だから急ぐんだよっ!」
岩之介にそう怒鳴りながら、龍仁坊は腕の小型端末を操作する。同時に岩之介の左腕がピコンと光った。腕時計型端末が、何かを受信したらしい。
「特技師専用の秘匿回線だ。今、お前の端末に中継して繋いだ」
「中継?」
「〈班長殿〉は、電気端末とか苦手なんだよ」
「班長?」
「その呼び方をしたら、◯ン◯マ引き千切るって言ったわよね?」
腕時計型端末から、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「す、すみなせん!班…いや、ママさん…」
龍仁坊は、叱られている子供の様にすっかり縮み上がっている。
「え?ママさん?」
「イワちゃん、聞こえる?」
端末から響いてきたのは、ボンドのママさんの声だった。
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