第39話  闘気×邂逅

闘技場に入った瞬間、迅は肌を刺すような重圧を感じた。

そこに立つのは、無駄のない立ち姿の男。

腰には武器もなく、素手。

だがその佇まいが、無防備というより、あらゆる攻撃を受け流す自信を物語っていた。


男は軽く首を回し、静かに言った。


「……俺は傭兵グラード。

この闘い、全力で行くぞ」


言葉と同時に、空気が変わる。

男の体から淡い揺らぎ――熱のようなものが放たれ、迅の皮膚にまとわりつく。


――これは……何だ?


次の瞬間、グラードの踏み込み。

距離が一瞬で詰まり、拳が一直線に突き出される。

防御するも、衝撃が腕から背中まで走り、体が半歩下がる。


「天魔神功……知らんか?」


挑発気味の声と同時に、さらに踏み込み。

拳が触れる瞬間にだけ、力が爆発する。

その動きは、一拍遅れて衝撃が体に届くような、不思議な感覚を伴っていた。


――何だ、この“溜め”と“解放”……。


受け流そうとしても、打撃の瞬間に芯へ突き抜ける。

合気道の崩しも、完全には決まらない。

気を集中して反撃を狙うが、男は微妙な体重移動で避け、逆に肘打ちを叩き込んでくる。


息が上がり、視界が狭まっていく。

このままでは倒れる――そう思った時、迅は迷わずポーションを口に流し込んだ。

冷たさが内臓を走り、足が再び動く。


そして気功を右腕に集中させ、正拳突きを繰り出す。

グラードの拳とぶつかり、互いに押し合う――が、その瞬間、男の呼吸が僅かに乱れた。


「……悪くない」


そこから迅は、崩し・打撃・蹴りを連続で叩き込み、ついにグラードを押し倒す。

傭兵は笑いながら立ち上がり、戦意を解いた。


「覚えておけ。強き者は皆、己の“オーラ”を持つ。

俺の天魔神功も、その一つだ。

拳の前に気を溜め、触れた瞬間に解き放つ……ただの武術じゃ届かん。

だが、お前には感じ取る目がある」


そう言い残し、グラードは闘技場を去った。

迅は深く息を吐きながら、その拳の軌道と呼吸のリズムを頭の中で何度も再生していた。


報酬:

・ポーション ×1

・天魔神功の心得

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