第三十話:ギルドの影と、新たな誘い
「採集」と「剣術」。二つのスキルを融合させたテトの戦闘スタイルは、アッシュたちのパーティにおいて、その真価を発揮し始めていた。魔物の痕跡を読み取り、危険を察知しながら、いざとなれば剣で身を守る。それは、テトにしかできない、独自の戦い方だった。パーティは、その相乗効果によって、以前よりもさらに効率的に、そして安全に依頼をこなせるようになっていた。
ある日、テトたちはギルドで、次の依頼について話し合っていた。広場は相変わらず活気に満ちているが、テトは最近、その賑わいの裏に、どこか不穏な空気を感じ取ることがあった。特に、ギルドの奥の方で、ゼノンが謎めいた依頼を受けているのを目にする機会が増えた。そして、そのゼノンと、以前見かけた顔に大きな傷跡のある男が、頻繁に言葉を交わしているのを、テトは何度か目にしていたのだ。
「テト、次はどうする?少し高難度だが、報酬のいい依頼があるが……」
アッシュが、掲示板の依頼を指差しながら言った。テトは、アッシュたちの顔を見つめた。彼らと共に戦う日々は、テトにとってかけがえのないものとなっていた。
「アッシュさんたちが決めるなら、どこでも行きます!」
テトが笑顔で答えると、フィーはテトの腕に抱きつき、リナはわずかに口元を緩めた。
その時、テトたちの近くを、道具屋の娘で、冒険者の装備や持ち物について並々ならぬ知識を持つ受付嬢、シモンが通りかかった。彼女は、テトのギルドカードにちらりと視線を向けた。
「おや、テトさん。あなたのギルドカード、随分と賑やかになりましたね。採集と剣術ですか。それは良い組み合わせです。今後、より効率的な装備が必要になるかもしれませんね」
シモンは、にこやかに言った。彼女の言葉は、テトの今後の成長を見越しているかのようだった。
「効率的な装備、ですか……?」
テトが尋ねると、シモンは頷いた。
「ええ。採集と戦闘を両立させるなら、軽くて動きやすい防具が良いでしょう。それに、剣の素材も、もう少し良いものに変えれば、さらに強くなれますよ。ギルドの提携している鍛冶屋で、テトさんの動きに合った剣を打ってもらうのも手ですね」
シモンのアドバイスは、テトにとって非常に具体的で、今後の目標がより明確になった。自分のスタイルに合った装備を整えること。それは、テトがシーカーとしてさらに上を目指すために、不可欠な要素だった。
テトがシモンに礼を言い、アッシュたちと再び依頼について話し合っていると、不意に、背後から声をかけられた。
「テトさん。少し、いいでしょうか?」
テトが振り返ると、そこに立っていたのは、ギルドの副ギルド長、セリア・グリーンウィンドだった。亜人種(エルフ)特有の尖った耳を持つ彼女は、常に穏やかで、ギルド内の調停役を務めることが多い。
「セリアさん!」
テトは、驚いて声を上げた。セリアが直接テトに話しかけてくることは、あまりなかったからだ。
「テトさん、少し、お時間をいただけますか?あなたに、是非お願いしたい依頼があるのですが……」
セリアの言葉に、テトはますます驚いた。副ギルド長が、直接依頼を持ちかけるとは、一体どのような依頼なのだろうか。アッシュたちも、セリアの言葉に、少し戸惑った表情を見せていた。
「私からあなたに、直接お声がけするのは初めてですね。今回の依頼は、ギルドの中でも特に慎重を要するものです。しかし、あなたの『採集』と『剣術』、そして何よりもその『直感』。それが、この依頼には必要だと判断しました」
セリアは、穏やかな口調で、しかしその瞳はテトを真っ直ぐに見つめていた。彼女の言葉に、テトは自身の体に電流が走るような感覚を覚えた。直感。それは、テトが森の中で危険を察知したり、隠れた素材を見つけたりする際に、無意識に使っていた力だ。
「……はい、喜んで」
テトは、思わずそう答えていた。アッシュたちが少し心配そうな顔をしているのが分かったが、セリアの言葉に、テトは抗えない魅力を感じていた。
セリアは、テトをギルドの奥へと案内した。そこは、普段はあまり冒険者が立ち入らない、静かな一角だった。セリアは、小さなテーブルを挟んでテトと向かい合うように座ると、一枚の地図を広げた。
「この依頼は、『古の遺跡:隠された薬草の探索』というもの。通常の採取依頼とは異なり、場所が特定されていません。また、遺跡には、未確認の魔物や、罠が仕掛けられている可能性もあります」
セリアの説明に、テトは息を呑んだ。未確認の魔物、罠。それは、これまでのテトが経験してきた依頼とは、比べ物にならないほどの危険を伴うものだ。
「なぜ、僕に……?」
テトが尋ねると、セリアは穏やかに微笑んだ。
「その遺跡は、非常に特殊な環境にあり、特定の条件下でしか育たない薬草が存在すると言われています。その薬草の存在を察知し、採取できるのは、あなたの採集スキルと、その『直感』がなければ難しいでしょう。そして、未知の危険から身を守るために、あなたの剣術スキルも必要です。それに、ギルドの奥にある特殊な依頼を扱う受付、ゼノンも、あなたの『可能性』に注目していました」
セリアの言葉に、テトは再びゼノンの姿を思い出した。彼の謎めいた言葉の意味が、少しだけ分かったような気がした。
「この依頼は、単独で行ってもらうことになります。ただし、緊急時には、ギルドが精鋭のシーカーを派遣する準備は整っています」
単独での高難度依頼。それは、テトが目標としていた、シーカーとしての次のステップだった。しかし、テトの心には、期待と共に、大きな不安も芽生えていた。
「……分かりました。やらせてください」
テトは、深く息を吸い込み、決意を込めて言った。セリアは、満足そうに頷いた。
「ありがとうございます、テトさん。この依頼は、あなたにとって、大きな試練となるでしょう。ですが、同時に、あなたの『力』をさらに深める、貴重な経験となるはずです」
セリアの言葉は、テトの心に強く響いた。この依頼は、テトのシーカーとしての能力を試す、真の試練となるだろう。そして、その試練を乗り越えた時、テトはきっと、今よりもっと強くなれる。
ギルドの奥で交わされる不穏な会話、そしてセリアがテトに直接持ちかけた謎めいた依頼。この大都のギルドは、テトが想像するよりも、はるかに奥深く、そして複雑な世界を抱えているようだった。
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