第4話 社長、それってマジですか?

美玖が、慣れない仕事に奮闘していると、扉がガチャと開き、「帰ったぞー」と言う声が聞こえた。


その後で

「何度も言いますが、客先で親父ギャグを連発するのやめて下さい!みんな引きつっていたでしょ!私、こんなに恥ずかしい思いするなら、二度と社長と客先の打ち合わせ行かないですからね!」

と若い女性の快活な声が聞こえた。


社長と呼ばれていた初老の男性は、濃紺の作業着を着て、いかにも、のほほんとした風体をしていた。


社長は美玖を見ると、和かな表情で、「どちら様でしょうか?」と言った。


「え?へ?どちら様?どういう意味?」美玖は思考が止まる。


青木はムッとして、「社長、ボケる年だとは理解してますけど、いい加減に、してくれませんかね。

納期、今週末なんですよ!」

と不機嫌をまるで隠さないで、その初老の男に言い放った。


「青木くん、悪いねーいつも。後で僕も手伝うからさ。」とにぃと笑った。


青木は「社長に手を出されたら、仕事になりません。邪魔だけはしないでください!」と厳しく社長を叱ったあと、美玖をチラリと見た。


その視線を見て、社長はやっと美玖との約束を思い出したかのように

手のひらを拳でポンと叩き、「ああ!」と呟いた。


美玖は、自分の上に降り注ぐ、カオスに対応できずに、翻弄されていた。


社長と青木のやりとりの中に、一人の女性が割り込んで来た。


彼女は美玖を見ると「ごめんなさいね。


さっき、社長から打ち合わせがあることを忘れて、あなたを呼んだと聞いて、叱りつけたところなの。


バカな社長で本当にごめんなさいね。」

と美玖に謝罪をした。


社長はバツが悪くなったので「じゃ、これで」と言って、2階へ登って行った。


「……逃げた」美玖は思わず心の中で呟いた。


彼女は「あのタコ親父」と、呟いた後で、美玖に視線を移し直して、

「あら、ガラス手すりの紙剥がし、させられてるの?」


と言った後、青木を見た。青木は無言で、パソコンに向かっていて聞こえないようだった。


彼女は、「びっくりしたでしょ?上に会議室があるから、そこで、改めてお話ししましょ」と美玖の腕にそっと手を置いた。


(優しそうだけど、さっき怒鳴ってた人よね……それに社長のことをバカって.....)と思いつつも、美玖は無言で、うなずいた。

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