第十四話 初依頼
冒険者ギルドを出ていざ依頼をこなそうと息巻いていたら、カガミ師匠は町の外とは逆の方向へ足を向けた。
「師匠どこへ?」
「ネロにプレゼントを買ってあげようと思ってね」
ニッと笑う師匠。
「プレゼント?」
「そう、もうすぐ八歳だろ? ちょうどいいから、誕生日プレゼント代わりに装備をプレゼントしようと思ってね」
「いっいいんですか!?」
「ああ、どのみち木刀じゃ魔物相手には少し不安だし、防具もあった方がいい」
「そっそうですね。それじゃお言葉に甘えて……よろしくお願いします」
こうしてまずは俺の装備を買いに行くことになった。
商業区を歩くことしばし、剣と盾の絵が書いてある看板の前でカガミ師匠が止まった。
「ここだ」
それだけ言って中へと入っていく。俺もそれにならう。
中に入ると左右に剣や槍、盾などが置いてあり、一番奥にカウンターがあった。カウンターにはドワーフと思われる低身長でヒゲの長い定員がいた。
「店主、久しぶりだな」
師匠が店員に気さくに話しかけた。
知り合いのようだ。
「おぉ久しいのぉいつぶりだ?」
「もう、八年前ほどになるかな」
「そうかそうか! もうそんなに経つか! 元気にしとったか?」
「まぁそれなりにね、それより店主今日は装備一式を買いにきたんだ。見繕ってもらえるかい?」
「あぁお前さんのかい? それとも後ろの坊主のかい?」
ドワーフの店主が俺を指差す。
「この子のを頼む。成長期だから、変えの利きやすいもので」
「あい、わかった。ちなみに要望なんかはあるかい?」
「ネロあるかい?」
師匠が俺に問いかけてくる。
「そっそれじゃ防具は軽くてコンパクトなので、武器は刀で良さげのなのをお願いします」
「りょーかいじゃ、それなら防具はこの辺りかの〜あと、刀は坊主の身長だとこの辺か〜?」
そうして出されてきた装備は防具が革の胸当てに小手、刀が刀身が普通の刀より少し短いものだった。
早速試着させてもらう。防具はサイズぴったり。刀も手に良く馴染んだ。
「どうじゃ坊主?」
「はい! とてもいい感じです!」
「そうかそれは良かった。ちなみに説明しとくと、防具の皮はレッサーラビットの皮で刀は本来脇差の少し長いやつじゃ。将来、体がデカくなっても非常用として持っといてもいいだろう」
「そうなんですね。ありがとうございます」
俺は頭を九十度下げてお礼を言った。
「師匠もこんないいものをありがとうございます」
そうして師匠にもお辞儀する。
「いいさいいさ、プレゼントだからね」
師匠は手をヒラヒラさせて、ちゃちゃっとお会計を済ませていた。
「それじゃ店主また来るよ」
「なんじゃもう帰るのか? つもる話もあろーに」
「まぁそれは後日ということで。この後早速討伐に行くんだ」
「そうなのか。それは引き止めて悪かったのぉ。気をつけてな」
「ああ、それじゃまた」
師匠と店主の話が終わったら、もう一度店主にお辞儀して、出口へと向かう師匠の後を追った。
さて、いよいよ人生初となる実践だ。
楽しみだ。
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今俺は街を出て近くの森の中を師匠と一緒に歩いていた。
狙う魔物はレッサーボア。イノシシの見た目をした魔物らしい。体調はニ、三メートル。レッサーとつくだけあって下位種族らしく、普通のボアは五メートルを越えるとか。
五メートルの生き物が走ってくると考えたら末恐ろしいものがある。
だが、今回はレッサーだ。まだ大丈夫、と信じたい……
「なんだネロ緊張しているのか?」
「はっはい、少し……」
「はははっ心配しなくてもネロの実力なら相手にならないよ」
そう言いながらレッサーボアが通ったであろう轍を抜けていく師匠。
「そっそうでしょうか?」
俺は自信なく返事を返すのだった。
それから数十分歩いて、やっとレッサーボアに遭遇した。
隠れてる茂みの向こう、前方に三体のイノシシっぽい奴がいた。ただ、牙が四つあった。あれで、腹とか裂かれたらひとたまりもないぞ……
なんてことを考えているとカガミ師匠が顎でクイっと俺に行けと合図してくる。
えー!? そんな無茶苦茶な! 少しは手本とか見せてくれても……
俺が講義の声をあげようとすると、師匠が俺の背中を押して茂みの外へと放り出した。
え〜?
俺が動揺して突っ立っていると、レッサーボアと目があった。
はははっこっこんにちは。
咄嗟に心の中で挨拶していた。
するとレッサーボア三匹が目を地走らせて突進してきた。
くそ! やるしかない! そう気合いをいれるも……
……来んのおっそ!
嘘だろ。なんだこのスピード。まだ冒険者ギルドで絡んできた奴らの方が早かったぞ。
俺は内心驚愕しながら、向かってきたレッサーボアの首を一瞬で三頭分切り落とした。
この刀すげ〜、めっちゃ切れる。
買ってもらった刀の切れ味に感動していると、師匠が後ろの茂みから拍手をしながら出てきた。
「なっ問題ないって言っただろ?」
ドヤっという感じで言ってくる。
いや、でも心の準備とかさせて欲しかったよ。内心の愚痴を押し殺して俺は師匠に尋ねる。
「今の魔物はどれくらいの強さなんですか?」
「Eランクだよ。下から2番目の位置付けだね」
「そうですか……それでこんなに手応えがなかったんですね」
「初心者は普通苦戦するんだけどね。ネロが異常なだけさ」
「いっ異常って。やめて下さいよ人を化け物みたいに」
「あれ? 自覚ないの? ネロは化け物だよ?」
何故か笑いながら言う師匠。
「やめて下さいよ、もう」
俺はそう言って話を切り上げた。
それから、レッサーボアを見つけては俺が処理した。その他、リトルラビットやゴブリンなんかも出たが、これも俺が相手した。
ちなみに魔物は狩ったらギルドに提出する討伐証明部位を持って帰る。レッサーボアなら牙、ゴブリンなら耳という具合に。あと、魔石もあるのでそれも取っておく。普通の動物と魔物の違いはこの魔石があるかないかで決まる。魔石の力で変質した生き物。それが魔物ってわけだ。
沢山狩ったせいで、今日は討伐証明部位と魔石で持ってきた背嚢がいっぱいだ。
「そろそろ帰るか」
日がまだ傾いていない三時ごろ師匠が帰る提案をした。
「そうですね、もう背嚢もいっぱいですし」
俺が同意の声をあげる。
さて、それでは冒険者ギルドへ今日の成果を持っていこう。
果たしていくらぐらいになるだろうか? 結構狩ったしそれなりにはなるんじゃ
なかろうか? ぐへへ。
俺は、まだ得てもいない金に思いを馳せて下卑た笑みを浮かべるのだった。
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「こっこれを一日もただずにですか?」
登録で担当してくれた冒険者ギルドの受付嬢が顔を引き攣らせていた。
「しかも、さっき登録したばかりのそちらのネロさんが全て討伐したと?」
「はっはい、そうです……」
何か不味かっただろうか?
「分かりました。今鑑定してきますので、少々お待ち下さい」
それから、鑑定を待つ間周りから奇異の視線で見られる。
「あのガキが今朝の……」
「あの数全部討伐したってマジかよ。登録したの朝なんだろ?」
「バカやろーホラに決まってんじゃねーか。間に受けんな」
「でも、ホントならもうD級ぐらいの強さはあるんじゃ……」
「だから、そんなわけないってーの!」
至るところでそんなヒソヒソ声が聞こえる。
うーん、やりづらい。
師匠は涼しい顔してるし、気まずいのは俺はだけか……
そうこうしてるうちに鑑定が終わったようで受付嬢が硬化を入れた袋を持って戻ってきた。
「レッサーボア32頭、リトルラビット12匹、ゴブリン23体を確認しました。魔石の料金を含めてレッサーボア一匹が大銅貨二枚、リトルラビットが一匹銅貨五枚、ゴブリンが一匹大銅貨一枚。しめて、九万三千リルで銀貨九枚に大銅貨三枚になります。どうぞ、お受け取り下さい」
俺、口あんぐり。
九万三千リルって……
聞いたところによると、平民の一カ月の稼ぎが七万リルほどらしいので、今回の稼ぎは平民が一カ月と少し暮らせる額になる。それをたった数時間で稼げてしまったことに驚きを覚える。
俺がしばらくフリーズしていると、師匠がお金を受け取っていくぞと促した。
俺は意識を取り戻して冒険者ギルドを後にした。
「これはネロの分だ。好きなものを買うといい」
冒険者ギルドを出るとカガミ師匠が俺に銀貨二枚を渡してきた。
今まで払ってもらってる分を幾分か引いて残りをくれるらしい。
「いいんですか?」
「いいよ。初の討伐報酬だ。手元に何も残らないんじゃ寂しいだろ?」
「そう……ですね。それじゃ遠慮なく頂きます」
「ああ」
師匠が俺の頭をくしゃくしゃっとした。
その夜、賑わう酒場で晩御飯を食べた。初報酬で食べるのはもちろん肉!
なんの肉かは知らないがとりあえずステーキを頼んだ。
師匠は魚料理だ。お酒は飲まないんですか? と聞いたら、今は禁酒してるとのこと。つらくないのかね。まぁいいけど。
それはそうと肉である!
目の前には厚さ五センチはある特大のステーキ。ナイフで切り分け、塊を一口。
ん〜〜〜ジューシー!!
噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる。野生的だが確かな肉って感じ! 上手い!!
ものの数分で平らげ食後のお茶を頂く。
ジュースじゃなくてもいいのか? とカガミ師匠に聞かれたがこのあったかいお茶がいいんですよ。お茶が。もうすぐ42歳ですから。
満足して今日の稼ぎの二万リルから食事代を出す。
そして夜風に当たりながら宿へと向かう。
仄かな達成感と食事の満足感、そして心地よい夜の風。
なんか……いいな冒険者。楽しいかも。
◆◆◆
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