第2話
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ふ、と体の前後に大荷物を抱えたまま自分の二本の足で立っていることを群治は理解した。
群治は、なぜそんな当たり前のことを意識したのかと疑問を覚え、直ぐにというべきか漸くというべきか、唐突に足下の地面が消えたことを思い出した。
群治は咄嗟に周囲へ視線をやり何でもいいから現状を理解しようとした。
群治が立っているのは教室くらいの広さに開けた場所だが、その外は下草が繁茂し木々が並び、その木々の合間から見える同じような光景は徐々に暗闇に飲まれていく。判断材料はないも同然だが、木々が多いようなので森の中に居ると推測した。
自分以外には、自分にからもうと近寄ってきていた犯罪者集団の四人が居ることも、嫌々ながら把握してしまった。いっそ一人きりの方がマシだったと群治は今度こそ溜息をついた。
その犯罪者集団は男二人がなにか話し合い、女二人のうち比較的背が高く金髪の方が男たちのそばで自分を抱きしめるように腕を組み肩を竦めキョロキョロと落ち着きなく首を動かしている。最後の比較的背の低い、より正確には客観的に見ても背の低い黒髪の女は三人から少しばかり距離を置き、その三人と群治を同程度に観察しているように群治には感じられた。
多少なりとも知り合いであろう三人と群治を同列に扱っているかのような黒髪女の仕草は少しばかり気になった群治だが、そんなことよりも自分の置かれた状況の方が大事だと、群治は何をすべきか必死に頭を回転させようとした。
悩むにしても何かあった際に動けるよう、体の前後の大荷物を一度下ろした群治は、その瞬間何かがおかしいと違和感を抱いたものの何がおかしいのかわからず、どうやって確認しようかと少し悩み、そもそも現状がおかしいことばかりだと直近の違和感を棚上げした。
考えることをやめた群治はなにか気持ちが楽になった気がした。しかし即座に憂鬱になった。犯罪者集団の四人が群治に近寄ってきて、金髪男がなにやらわめき始めたのだ。もう一人の群治より背の高い茶髪男は威圧しているつもりなのか、いつの間にか拾っていた木の枝を無意味にぶんぶん振り回している。
森から猪とか熊とか野犬とか出てきそうで気が気でない群治は、話半分にしか金髪男の話を聞いていなかったものの何を言いたいのかは大体わかった。要するに、今は緊急時なのだから
第一に、彼らと群治は赤の他人である。
第二に、それに犯罪者集団とは如何なる形であろうと関わり合いになりたくない。
第三に、緊急時であろうと、群治は被害または被災者である。彼らを助ける義務は多分ない。助ける義理は確実にない。被災者同士助けあおうという意識は大事かもしれないが、犯罪者集団に助けてもらいたいとも犯罪者集団を助けたいとも思えない。
犯罪行為に手を染めながら司法に裁かれていない相手であり信用には値せず、一応聞いてみた主張は群治の理解の範疇を超えていた。言葉による相互理解は不可能だと断定した群治は、何も言わずにその場を去るべく荷物を抱えなおそうとした。
当然のこと、一度獲物と定めた対象を犯罪者集団が逃がすわけもなく金髪男が慣れた様子で群治の右手の手首を掴んだ。
群治は掴まれたと意識するよりも先に、いつぞやニーちゃんと動画を見て一緒にちょっと練習してみた護身術の動きを思い出した。
具体的にどうしようと考えるでもなく自然と動いた群治の体は、群治の右手首を掴んでいた金髪男の右手の小指を左手で取り、そのまま腕を捻って金髪男を地面に転がした。
さも当然かのごとく延髄を踏み抜こうとした群治は、いや流石に殺人はマズそうだと自身の暴力的衝動にブレーキをかけ、上げていた右足で金髪男の右肩を踏み抜いた。生きた人間の骨を踏み砕いた経験のない群治は、犬の糞を踏みつぶした時よりも気分が悪くなった。
修行歴数十年の武術家のような鮮やかな手並みで一人を無力化した群治だが、異常な手際の良さを気にする余裕もなく、もう一人の木の枝ぶんぶん茶髪男がその木の枝で大上段から殴り掛かってきた。
当然普段の群治ならただ殴られるほかないが、今の群治は普段とは違い、木の枝を握る茶髪男の手首をそっと掴み、茶髪男が枝を振り下ろすその勢いのまま茶髪男を投げ落とした。
群治は今度は冷静に、木の枝を握っていた茶髪男の左腕を捻り上げたままその肘に自身の右膝を叩き込み関節の向きを逆にしてやった。肩を踏み抜くよりは手ごたえがマシで群治はちょっと安堵した。
犯罪者集団の男二人を転がした群治は、そのまま男二人を蹴り転がして自分から距離を取らせた。大荷物があるため自分が動くのもはばかられたのだ。
さて、とひとまず事態が落ち着き、流石に群治も現在の自分がおかしいと理解が追いついた。
群治は自身の暴力性を理性でもって制御できている自覚を持って生きてきたつもりだし、実際にここまで人に怪我をさせた経験はなかった。
なによりも、ニーちゃんと動画を見て練習したときは、結局人を転がすどころかうまく手首を取ることもできなかったのだ。
群治は、自分自身になにかしら異常が起きていると明確に認識した。
そして、先ほども何かおかしなことがあったと心の中の棚を覗き込みそうになり、それよりも自分を襲った集団から離れるべきだと考え直した。現状が何もわからない状態で動き回る危険よりも、犯罪者集団と共にいる方が危険だと群治は判断した。
何かが視界の端で動いた気がした群治がすっかり存在を忘れていた女二人へ視線をやると、比較的背の高い金髪女は両手で口を覆い顔を青ざめさせ、背の低い黒髪女は内心の読み取れない無表情で群治をじっと見つめていた。
群治は手早くロッカーと通学カバンを体の前後に固定すると、どこへ向かえば良いのかも分からないのでとりあえずは女二人から一番遠い方向へと歩き始めた。
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