第24話 正しいことを行うのに遅すぎるということはない

 秋の風が校庭の木々を揺らす放課後。

 高校三年生の貴子は、校舎の階段をゆっくりと降りていた。

 生徒会の仕事を引き継いでから一年、さまざまな行事の準備に追われ、やりがいも感じてきた。

 だが、ずっと心に引っかかっていることがあった。


 一年前、クラスでいじめが起きていた。

 貴子はその現場を何度も見かけながら、「自分が口を出しても変わらない」「空気を悪くしたくない」と目をそらし続けてしまった。

 その子が学校をやめてしまったとき、胸が締め付けられるような後悔に襲われた。

 「私があの時、何か言えていれば――」

 けれど時間は戻せず、貴子は後ろめたい気持ちを抱えたまま、日々を過ごしていた。


 卒業まで残り半年。

 生徒会主催のボランティア活動で、町の児童館を訪れる機会があった。

 子どもたちは無邪気にはしゃぎ、ケンカしてもすぐ仲直りしていた。

 一人でぽつんと座っていた男の子に声をかけると、「友達なんていなくても平気だもん」と強がってみせた。

 貴子はふと、一年前のあの子の背中を思い出した。


 夜、帰宅してから、机の上に手紙を見つけた。

 それは卒業生の先輩から届いたものだった。

 「高校生活に後悔があるかもしれない。でもね、チャールズ・ディケンズの言葉を思い出して。“正しいことを行うのに遅すぎるということはない”。

 あのときできなかったことも、今からでもできるはず。貴子なら大丈夫」


 手紙を握りしめながら、貴子は涙がこぼれた。

 「もう遅い」と思い込んで、自分に言い訳していたことに初めて気づいた。

 「今からでも、やれることがあるかもしれない」


 翌日、貴子は生徒会のミーティングで「学校にもっと相談しやすい“話し合いスペース”を作りませんか」と提案した。

 「悩んでいる子が一人で抱え込まず、誰でも話せるような場所がほしい」

 最初は驚かれたが、先生や仲間たちも次第に賛同し、話し合いが始まった。


 貴子は放課後、相談スペースで当番をするようになった。

 自分から「困ってることない?」と声をかけると、最初は誰も寄ってこなかった。

 けれど、数日後、一人の一年生が勇気を出して話しかけてくれた。

 「クラスでいろいろあって……誰にも言えなかったんです」

 貴子は静かに話を聞き、「あなたは一人じゃないよ」と伝えた。


 その日から、少しずつ相談に来る生徒が増えた。

 貴子も、同じような経験をしたこと、あの時助けられなかった後悔が今の自分の行動につながっていることを、少しずつ語るようになった。

 「今なら、誰かの力になれるかもしれない」

 そう思える日が増えていった。


 卒業式の日、かつていじめに遭っていた子が遠くからやってきて、

 「生徒会の相談スペース、すごくよかったって聞いたよ。貴子さん、ありがとう」と声をかけてくれた。

 貴子は涙ぐみながら、「今からでも遅くなかったんだ」と心から思った。


 人生には、やり直せない過去もある。

 でも、“正しいこと”をしようと思う気持ちは、いつ始めても遅すぎることはない。

 これからも貴子は、迷いながらも一歩ずつ、自分なりの“正しいこと”を探し続けていこうと誓った。


【コラム】偉人と名言

チャールズ・ディケンズ

「正しいことを行うのに遅すぎるということはない」

Never too late to do the right thing.


チャールズ・ディケンズ(1812-1870)はイギリスの小説家で、『オリバー・ツイスト』『クリスマス・キャロル』など数々の名作を世に送り出しました。

彼は貧困や社会の矛盾と向き合い、「人はいつからでも“正しい行い”を始めることができる」と語り続けました。


過去を悔やんでも、後戻りはできない――

でも、“今から”正しいことに挑戦するのに、遅すぎることはありません。

あなたも、今日この瞬間から新しい一歩を踏み出せるのです。


迷いや後悔にとらわれず、

今できる“正しいこと”を、小さくても行ってみてください。

それが、あなたと誰かの未来をきっと変えていきます。

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