第21話 幸せは香水のようなもの。人にふりかけると自分にも必ずかかる
新しい季節の始まり、桜が校門を淡いピンクに染めていた。
高校二年生の瑞希は、その美しさに見惚れる余裕もなく、急ぎ足で校舎へと向かっていた。
新学期の初日、クラス替えで一緒になった顔ぶれに戸惑い、どこか居場所を探すような気持ちで机に座った。
瑞希はもともと、人付き合いが得意な方ではなかった。
小さな親切をすることは好きだったが、「お節介かな」と不安になることも多い。
クラスの人気者になりたいわけじゃないけれど、誰かが困っているとつい手を差し伸べたくなる自分がいる。
ある日、廊下で落ち込んでいる一年生の沙羅を見つけた。
話を聞けば、「新しい環境に馴染めない」「友達ができない」と、涙をこらえていた。
瑞希は自分の体験をそっと話し、「最初は誰でも緊張するよ。一緒に帰ろうか」と声をかけた。
沙羅は小さくうなずき、それから放課後は二人で校門まで歩くのが日課になった。
それ以来、瑞希のまわりには少しずつ小さな“ありがとう”が増えていった。
忘れ物をしたクラスメイトにノートを貸したり、ケガをした友達に保健室まで付き添ったり。
見返りを求めたことはなかったが、「助かったよ」「ありがとうね」と笑顔で言われるたび、心が少しだけ温かくなった。
しかし、ある日友人から「瑞希っていつも損な役回りだよね」と言われた。
「どうせ私の親切なんて誰も本気で喜んでないんじゃないか」
そんな迷いが心をよぎり、ふと自分が小さくなったような気がした。
その夜、帰宅すると母が珍しく香水をつけていた。
「今日は同僚のお祝いでね、少しだけ特別な気分になりたくて」
瑞希は母の隣に座りながら、ふと「幸せって何だろう」と尋ねた。
母は静かに笑って、「幸せは香水のようなもの。人にふりかけると自分にも必ずかかるんだよ」と話してくれた。
「誰かに親切にするってことは、自分も幸せになるってことよ」
次の日、瑞希は久しぶりに笑顔で学校へ向かった。
朝の挨拶を少し大きな声でしてみたり、部活で後輩の悩み相談にじっくり付き合ってみたり。
周りの反応は劇的には変わらない。でも、自分の中に“あたたかな気持ち”が少しずつ満ちていくのを感じた。
ある日、沙羅が「先輩、実は友達ができたんです」と嬉しそうに報告してくれた。
「最初に声をかけてもらったから、がんばれました」と言って、そっと小さな手紙を渡してくれた。
「瑞希先輩のおかげで学校が好きになりました。私も誰かの力になりたいです」
瑞希はその手紙を何度も読み返し、胸が熱くなった。
「幸せを与えると、自分にも返ってくる」――それは何も大げさなことじゃなく、小さな勇気や思いやりの積み重ねの中にあるのだと気づいた。
夏休み、地域のボランティア活動に参加した。
子どもたちと遊んだり、高齢者のお手伝いをしたり。
感謝されるよりも、自分が誰かの役に立てること、その一日一日に「生きている実感」を強く覚えた。
秋になり、瑞希の表情は以前よりも明るくなっていた。
「ありがとう」と言われるたび、前よりずっと自分を好きになれた気がした。
香水のように、幸せの香りは自分にも広がっていく――
瑞希はこれからも、小さな優しさを大切にしていこうと決めた。
【コラム】偉人と名言
ラルフ・ワルド・エマーソン
「幸せは香水のようなもの。人にふりかけると自分にも必ずかかる」
“Happiness is a perfume you cannot pour on others without getting a few drops on yourself.”
ラルフ・ワルド・エマーソン(1803-1882)はアメリカの思想家・詩人であり、“自己信頼”や“善意”の大切さを多くの人に説きました。
この名言は、幸せや親切は決して自分ひとりのためだけでなく、周囲にも自然と伝わっていくものである――
そして、自分の行動がいつか自分の心も明るく、豊かにすることを教えてくれます。
見返りを求めなくても、あなたが誰かに分けた幸せや優しさは、きっとあなた自身をも優しく包んでくれる――
そんな希望が込められています。
今日も、誰かにそっと“幸せの香水”をふりかけてみませんか。
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