episode 5./神慮侵害/
言った。言った。確実に聞こえた。
もはや半分架空の食べ物だと思っていた古の肉が目前にあるというのだ。
これで興奮せずしてどこで盛り上がればいいのか。
「どうした?そんな珍しいもんでもないだろう」
ヨナからしてみれば、ごく一般的かつありふれたものだが、彼女等からすれば既に失われ、ありつけるはずのない食物そのものだった。しかも実物の想像なんてつきやしない。
知っていたのは、食べる為だけに育てられた生き物だということと、それだけあって相応の美味しさがある、という情報だけ。
「いや…初めて見たよ。今まで話に聞いてたことはあったけど。っていうか、何百年か前に消えたんじゃないの?それ」
「…────そんなわけ無いだろ。人間は日々進化してるんだ。ていうかそれさっさと置きなよリア。手、冷たいだろ」
なんだかうまい具合にはぐらかされてしまったような気もするが、言われた通りにテーブルの上に置いた。その具材を手に取って、ヨナは暖簾をくぐり生活スペースへはいると物陰に隠れて見えなかったキッチンへと入り、何やら焦げた色をした場所の前に立った。
腰元には等間隔に並んだ二つのツマミがあり、彼女がそれを軽く回すと、甘橙色と青色の火が小さな破裂音を立てて灯った。
その後、寸胴色をした深い鉄の容器を置いて、
「これから作るから。二人とも、手伝って」
と言った。
「はーい」
「わかった」
それからは、口頭で教えてもらいながら泥を流したり、野菜を切ったりした。
これが彼女の言う“調理”というものだった。
そこで知ったのは、植物とか肉は熱を通して食うのが基本だということ。
何故?と聞いたが、美味いから。と返されただけだった。
それと、組み合わせることで新たな食べ物へと生まれ変わるということだ。
鍋という深い容器の中に切った具材を入れて色々すると全くの別物へと変貌を遂げていた。
蓋を開けた時にこげ茶になっているのには面食らったが、それも匂いによって些細なものになった。
「そら出来た。さ、冷めないうちに食べよう」
上の棚から食器を三つ取り出し、それぞれに盛ってゆく。
鍋から直接匂うのもいいが、こうしてふんわりと香るのもとてもいい。
「ねえ。これどう使うの」
一足先に着席していたリアはテーブルの上の設計用紙を片づけた後、棒の先に薄くて丸い形をしたものを手に取り、不思議そうに眺めて問うた。
正直なところ、私も気になっていたものだ。
一体何に使うものなのだろうか。
一番先のとがった部分で刺すとか?
「違う。それは“スプーン”。こういう汁物を食べるときに使うものだ。それすらも知らないなんて、君らほんとに人間か?」
「いやー…こういうものは何分使ったことが無くて…」
当たり前だ。こちらの言う食事はあくまでエネルギー補給。
血肉に変われば何ら問題は無いので、わざわざ拘る必要なんて無い。様式美にクソを塗りたくったような所作なのだから。
「まあいい。食べなよ。冷めるぞ?」
「じゃあ、もらいます」
遅れて着席し、リアとともに手を合わせ、目をつむり祈る。
それを5秒ほど続けた後、スプーンを手に取り小刻みに震える手で口へとそれを運んだ。
「「──────────!!!!!!!」」
声が出ない。これは本当に食べ物なのか。わたしたちが知っているものはこう、もっと臭くて、硬くて、場所によっては気持ちの悪いほど柔らかい、汚物と何ら変わりないあの肉だけなのだが。これはもう、違う。
「──────────」
美味しいという言葉すら浮かばないほどに感激する二人は自然と涙を流していた。甘くて、しょっぱくて、濃い。
これを食べ終わったら、死んでもいいと思うほどの食べ物。
セーム缶の時より大きな衝撃が突き抜けるとともに、もう二度とアレは食べられないな、と確信するのだった。
「うまいか。そうか。…よかった」
今までにない優しい顔で安堵するヨナ。
身体の力が抜けたように、椅子に座り込み、横髪を耳へ掛け同じように口へ運ぶ。
「普段より形は悪いが…やはり、これはいいな。…あたたかい。」
能面の張り付いたような仏頂面が綻び、想像もつかない程の暖かな表情をするヨナ。もしかして、食事というものは単に血肉に変える作業ではなく、こうして調理し食すことで心に平穏をもたらす為のものなのではなかろうかと思った。
そう考えると、なんだか普段より一息つけているような気もする。…暖かな食事はここまで人を和ませるものなのか。
「─────こんなに心が落ち着いたのは初めてだよヨナ。これが、食事なんだね。普段のものよりずっと、ずっと良い。私達が今までしてきたのは、単なる血肉の補給だったんだって気づいたよ」
「そうか。でもそれは、大袈裟っていうもんだ」
独白に対して悪戯な笑顔で返してくる。憑物の落ちたような、大人の静けさの中に、少しだけ少年心が見えるような、そんな笑顔。
「大袈裟なんかじゃないよ。なんだか、一度死んだ気分」
「…ちょっと聞いてもいいかい」
打って変わって、少々真面目なトーンで問うて来るヨナ。
「君たちは今まで…一体何を食べてきたんだ?家畜も知らない。野菜も知らない。果物なんて以ての外。料理という概念すら備わっていなかったし、スプーンの存在も知らなかった。そんな君たちは、一体─────何を?」
蓋をした臭いものをまた取り出すような、聞きたくないであろう質問。知りたくないであろう事実。まさか、まさかとは思いたい。彼女たちは、肉の事は知っていた。地上を歩いている血肉を持つものと言えば“アレ”か、あるいは胎児。
「?何を…って、普通に胎児を殺して…それを」
「…もういいよ。それ以上、聞きたくない。君ら、あれはもう食べるな。食材は私がやるから、金輪際、あれを口にするのは辞めろ」
「なんで?」
「何でもだ。あれは喰らってはならないものだ。如何なる理由があったとしても。…君らは幸運だよ。だって、”目を付けられてない”」
目を付けられてない、と言ったか。
それは一体何に?誰に?なんにせよ意味は解らなかった。
それからというもの、皆それぞれに味わい、静かな空間に食器の音が鳴り響くだけだった。ただそれは嫌な沈黙ではなく、落ち着いた、心の安らぐ静寂。それが終わったのは、全員が腹を満たした後、一息ついてからだった。
「君ら…なんでそんなものを食べていたんだ?」
食後の一服だろうか。冷めた煙を吹きながら話の続きを始めるヨナ。何故だか嫌にまずそうに吸うのだが、どうしてだろうか。…きっと考えたって仕方のないことだろう。
「…食べたかったわけじゃないんだけど。強いて言えば、食べるものがなかったからかな。ほら、外にいる血肉をたっぷり持ってる生き物って胎児たちだけじゃん」
「なんて事を…。君たちが言っているのは、あの外をうろつく生命体のことだろう」
「うん」
ヨナは煙草を今一度深く吸い込んで、5秒ほどかけて静かに吐き出した。煙草の先に燻ぶる火を眺める濁った赤色をした瞳はひどく歪んでいる。
「外をうろついてるやつら─────今は胎児と呼ばれる生命体は、元々私らと何ら変わらない姿形をしていたんだ」
「…ということは胎児たちは元々人間だったの?」
「いや、厳密には違う。あいつらは元々ニューヒューマン、ホムンクルスと呼ばれていたんだ」
「ホムンクルス?あれって人じゃないでしょ。それがなんで“私ら”になるの?」
「厳密には違うと言っただろう?姿形は一緒なんだ。第一、エネは私が人間ではないと気づけなかったのだから」
「─────それ本当?」
「あぁ。荒唐無稽だと思うだろ?でも事実だ。そして、勿論“彼女も”ね」
彼女の目線は私の右下に続いていて、それが誰を見ているのかに気づくのに時間は要らなかった。
「おかしいと思わないか?人間の容姿をしているのに猫の要素も持っている生き物なんて存在するはずないだろ」
「それは─────、そうだね」
実際、私もこの目で見るまでは信じてなどいなかったのだから。事実無根な妄言だとすら思っていたくらいだ。
もし実在しても、キメラとそう大差ない容姿なのかとも思っていた。だが、実際は違った。私の横で表情を曇らせるこの少女は私が見た何よりも愛らしかったのだ。
「だから、私たち、っていうのはリアと私の二人だ。で、私が言いたいのは、エネはともかく、リア。お前は共食いしていることになるってこと。それをしてしまうと乳母に目をつけられてしまう」
「乳母?」
「あぁ。ホムンクルスを胎児にしたみんなのお母さんさ。平たく言えば神様かもね」
「な────」
「昔はね、神様は崇めるものだったんだ。でも今じゃあれっきとした人類の敵さ」
「それは、なんで?」
「─────私たちの存在があるからだよ。人は元来、生き物を創造することは許されていないんだ。それこそ、クローンなんてものは言語道断だったのさ。それなのに、人はついに手を出してしまったんだ。アダムとイヴに続いて三人目の脱法者が出たってこと」
「エネとリアが、ホムンクルスだから…?」
「そう。私たちホムンクルスはそんな罪深き二人から外れた無法者の実質的な子孫だ。アダムシリーズなんて大層な名前も付けられてさ」
「アダムシリーズ…?」
「あぁ。我々二人、そして胎児たちが成れ果てる前の種名なんだ」
通称アダムシリーズは失戦の後遺症により絶滅の一途を辿る人間という生き物の希望となるべく生み出された第二の人類で、その人間を作り出すために始まったのがSteins Live Facilities(世界再生施設)によるNHプロジェクトだった。
「それから作り出されたものは、最初は到底人間とは思えないほどに酷いものだったそうだよ?」
会話は成り立たない。奇形児が多く生まれてしまう。人間の胎児同様の運動能力、知能にも満たないほどの欠陥生物。
たまに平均レベルのモノが生まれたとしても、短命で三日とも持たない。そんな失敗作ばかりが募り募って、言葉以上に企画は難航していた。
「そりゃあ失敗するでしょ。だって人を作れるわけないもん」
「世界の摂理ではね。じゃあエネ、なんで私たちがいると思う?」
「あ…ごめん」
「気にしてない。私だっておかしいと思うし」
「そう。リアの言う通り、我々はおかしいな生命体なんだよ」
「でも、ヨナはどう見ても人なのに」
「限りなくそう見えるだけさ。半永久的に続く命だ。姿形を変えるくらい造作もない。さて、続きを話そう」
失敗続きで難航していたNH計画だったが、ある日、1人の研究員がとんでもないものを持ってきた。
名前をレンドロイゾと言い、マウス等で実験を行った結果反転衝動に襲われることがわかった。
「反転衝動?」
「反転衝動ってのはな、普段抑圧している感情と、普段からさらけ出せる感情が真逆になる現象のことだ。真面目だと評価されていた人が急にグレるように、また普段グレている人間が時たま良いことをしたくなるように」
「それがあると何が変わるのさ。私はそんなこと起こらないし、エネだってそう」
「ストッパーを無くすんだよ。レンドロイゾは。リアの言動によく出ているだろ?躊躇なく人に爪を突きつけたり、殺すことに抵抗がなかったり。それが、私たちを作るには必要だったんだ」
レンドロイゾはストッパーを無くす、つまり細胞の活性化、進化を大きく促すものだった。普段人の体は10%程度しか覚醒しておらず、殆どの人間がそれ以上に到達する事は有り得ない。だが、レンドロイゾは奇妙なことにその覚醒を強制的に行ったのだ。人と人を介して生まれる純粋な人間は初期動力が3%程度でも産声をあげることが出来る。しかし、培養器を用いて人を作るとなった時、22%以上の細胞覚醒が必要だった。レンドロイゾを用いることで、本来7%程度までしか動かせなかった細胞機能を三倍まで引き上げることに成功し、残りの1%は出産時に上がるか否かの賭けになったという訳だ。
「でもその1%がかなりの鬼門でね。上手くレンドロイゾが機能したとて残りの1%を超えるのは困難を極めたそうだ」
試行すること4075回。人間は、4076回目に神の手から離れることとなった。初めて産まれたNHは男性だった。研究員たちの不安をかき消すように、生まれながらにして人間の青年と大きく変わらない知能と筋力を持った個体が誕生したのだ。以前見られた欠落は無く、どれもとっても高水準。それから先は、その成功体を基にして5人のアダムたちを造った。
「私はその二人目だ」
「え─────!?」
「私はセカンドアダム、ヨナ・ノールだった。だが、実験に準ずるように次個体を作り続けるうちにヨナ・ウィーネ、(母胎)と呼ばれるようになったんだ」
そしてその5人達とともに、系列に並ぶように新たな個体を何体か生み出し、絶滅という結末に終止符を打ったのだ。
「私は、その時は誇らしかったよ。だって、自分の手で種の全滅に、世界の決定に抗ったんだ。これを誇りに思わなきゃそれこそ嘘だね」
それから、順調に数を増やし、“ヒト”という種の絶滅は完全に逃れた。人々はひどく喜んだ。そして手を取り合って、また一からやり直そうと決起したのだった。
「だけど、人は強欲で、傲慢で、愚かだった」
手を取り合って生きる、と宣言した日からおおよそ10年後か、ある日一人の人間が人権、世界権は我々純人間にあると言い出したのだった。所詮アダムシリーズは人の手によって造られただけの紛い物の人間だと。人の形をした悪魔だとすら言い張った。
「あの男は馬鹿だった。本当に憐れな程にね」
アダムシリーズ立ちからすれば至極どうでも良い宣言だった。自分たちの身の安全は確保されているはずだし、周りにいる純人間だって好意的で優しい人間が多かったのだ。
だが、その時の人間は優しいばかりで人を疑うことがあまりにも少なかった。そう。何を言われてもバカ正直に信じる欠落者の軍勢は、その男の言葉を冗談みたいに鵜呑みにし手当たり次第にアダムシリーズを殺して回ったのだ。
「救いの無い生き物だと思ったよ。知能指数は私と同じかそれ以上だと思っていた先人たちがまるで猿みたいに理性をなくしたまま狂気を手に走るんだ。当然、私もその毒牙にかかった」
「もしかしてそれが─────…」
「あぁ。失戦の始まりだ。失戦のフェーズは3つに別れていてな、それぞれ年代で内容が違う。この世界が機能を失ったのは第三次失戦になる。大まかに説明すると─────」
第一次。
人間が始めたジェノサイド的行為から勃発したNHと人間の間での戦争。既に人より優れた生物となったNHの圧勝。
人は権利を失う。
「人間は1度奴隷に堕ちたんだ。私はそれに反対だったんだけどね。いや、可哀想だとかでは全くないよ。ただ私たちより程度の低い生き物が使えるのかなって単純に思ったんだ。その時は」
「まぁそう思うのも自然だと思うよ。ヨナは頭がいいからね」
「エネ、そうじゃなくてだな…」
第二次。
人の扱いをそのままにしておきたい一心派と人との共存を望む逆行派との間に起こった戦争。
一心派はアダム、逆行派はイヴと呼ばれた。
「あの時は酷かった。私はイヴ派閥だったんだけど、人の解放のためにアダム派閥の病院に乗り込んだんだ。そしたら、そこで見たのは手足のない芋虫のような母体ばかり。冗談みたいに裂けたヴァギナがまるでザクロみたいで。とにかくまぁ最悪だったんだ」
結局、人と手を取り合ったイヴ派閥の勝利で第二時は収まった。
「そして最後。第三次なんだけど、これは人と人との間に起こった戦争じゃないんだ」
「と言うと?」
「第三次では、既に胎児たちの存在があったんだよ」
「そんなに昔から?」
「あぁ。ほら、言ったろ?胎児たちは元々ホムンクルスだって。原理は分からないが、アダム派閥のホムンクルスが全て胎児に変わったんだ。ある日突然ね。戦争を終えて世帯を持った奴もいた。今度こそ、平和が訪れたと皆が思っていたんだ。それなのに、全世界が地獄絵図になったんだ。あっちこっちで胎児による虐殺に次ぐ虐殺。私は本当に気が狂いそうになったよ」
限界をとうに迎えていた人類たちはさも当たり前かのように兵器を使い続けた。終われ、終われと願うままに。
胎児たちはそれを嘲笑った。口かどうかすらも判別できない程に膨れ、爛れたその口で。
「あの惨状は、口で伝えてもきっと分からない。私だって、出来れば思い出したくないほどだ」
─────何をしても減らなかった。殺しても、殺しても、殺しても、何度でも増え続ける胎児達にはついぞ手段も潰えてゆく。第三次はもはや戦争ではなく、人類の最後の抵抗を表した戦だった。
「これが事のあらましだ。ちなみに、その最後の虐殺のことはみんな終末って呼んでる。こんな世界になった一番の原因だし」
「成程…ちょっと何個か聞きたいんだけどいい?」
「なんでも聞けばいい」
「結局さ、なんでもアダム派閥のホムンクルス達は胎児に成れ果てたの?」
「─────分からない。ただ、あいつらは元々他の種を根絶させるために戦ってたのだから、まぁ気に入られたんじゃない?」
「お母さんに?」
「あぁ」
「ふぅん。じゃあ次。忌み地の外はどうなってるの?」
「…悪いがそれも分からない。ただでさえ忌み地は馬鹿みたいに広いんだ。それこそ大陸ひとつ分くらいに。だから気になるなら行ってみればいいんじゃないかな」
「成程なぁ。ちなみにヨナは雨が降らなくなったのは知ってる?」
「雨?あの腐乱臭のする雨が?」
「うん。先週の夜、リアと一緒に空を見たんだ。星も見えた」
「液体エネルギーが尽きたのか。ようやくだな」
「みたい。嫌な匂いがしなくなったんで過ごしやすくて助かってる」
「そうか。他に質問は?」
長話によりすっかり短くなってしまった煙草を皿に押し付け、次の質問を促すヨナ。
「あるよ。胎児達が関係しているかは分かんないけど、いっこ。人がいない理由はよくわかったんだけど、なんで建物はどこもかしこもあんなにボロボロなの?」
「なんでって…、そりゃ終末のせいだろうな。大分派手に戦ってたし。でもそのあとの一番の原因は風化。あれから一世紀半以上たっているんだ。人間と呼べる生き物がほぼ消えて、人間の作った文明は形を保てなくなっているんだよ。私ひとりじゃ、このシェルターだけで手いっぱいだ」
それもそうか。人の手によって創られたモノは人間の手によって保たなくてはならない。
その担い手がいなくなったとなれば、今のようになるのも必然だっただろう。
…で、“1世紀半前─────…????”
「エネ。君はちょっと顔に出すぎだ。というかそんなにちらちら見るな。私の年齢が気になるのは分かるが」
「そんなに顔に出てた?でも、うん。気になるもん」
正確には顔、というか仕草に強く表れていた。
なんというか落ち着きが一切ない。
人間は大抵そういう質問をする前は酷くそわそわするのだ。
「…デリカシーにかける奴だな本当に。まあいい。別に今更取っておいても腐るだけだ。私の年齢は223歳だ。とある研究の延長線上で不老になった。不死ではないから大きな外傷を受けると簡単に死ぬ。痛いのは嫌いだ」
「え、じゃあ15でその体?うわぁ…」
「何を言いたいのかは聞かないでおく。まあ、私らホムンクルスは生まれた時からほぼ成熟した身体で排出されるし、なにより無駄に乳がでかいのは愛玩機としての役割も果たせるようにってことだ」
過去の人間は聞けば聞くほど欲にまみれたどうしようもない生き物なんだなと思ってしまう。
主に性欲に。
そんな無駄な活用のために時間を掛けていたと思うと同じ人間としてやるせない。
「なんか…ごめん」
「? なんで君が謝る。だって君は─────いや、うん。謝らなくっていいよ。で、これで話は終わりかい?」
「聞きたいことは一通り聞いたし…もういいかな」
知りたいことはだいたいわかったし、それ以上にこの話を聞いてたら胃もたれで吐きそうだ。
「あ、でも一つだけいい?」
「いいとも」
1つ、最後にひとつ大きな疑問が浮かび上がった。
夜に出歩くと出現するあいつ。
あれは一体なんなんだろうか。
見た目はキモいしきちんと血は赤い。
「夜に移動していると、よく見るんだけどさ。見るからに異形をしてるアイツって何?」
「異形って、例えば?」
「ちょっと丸みを帯びた形で白くて、大きな赤い1つ目だったり、数えるのも嫌になるくらいの眼を持ってたりする感じ」
「なんだそれ。実際に見たのか?」
「見たし殺したよ。普段実害は無いんだけど、どうもあれが視界内にいるだけで酷い頭痛と目眩がするからさ、仕方なく」
「んー、分かんないかな。というか外はそんなもんまで居るのか。私はもうずっとこの中に居たからさ、分かんないんだ」
ヨナにも分からないとなれば、もうお手上げとしか言いようがない。
あれの正体を知ることの出来る日は来るのだろうか。
「じゃあ一旦外出てみる?何か変わってるかも」
「いいよ面倒臭い。私はここで生を全うするね」
頑として動こうとしないのは今までの性によるものか。
結局、押し問答は小一時間続いたが彼女を連れ出すことは叶わなかった。
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