最強ヒロインですが、なぜか元カレ3人とダンジョンに潜ることになりました
鵺
第1章 第1話
リネアは、銀のカップに注がれたワインをくるくると揺らしながら
目の前の男にあくまで冷静に話す。
「…で?結局…あなたの職業は“冒険者見習い”ってことでいいの?」
酔いでぐでんぐでんに揺れている男は、鼻の穴をふくらませて叫んだ。
「そうだぁ!!でもな、よーく聞けよ!」
「俺は…いつか必ず、世界を救うんだぜぇ!!」
ドヤ顔で胸をバンッと叩いた。
リネアは呆れたように立ち上がり、ため息混じりに言い放つ。
「はいはい…悪いけど、あんたが私より先に世界を救う確率…ゼロよ。」
男は顔を真っ赤にして何か言いたそうだったが、リネアは華麗にスルーして席を離れた。
「はぁ……クソみたいなパーティーだわ…」
そうつぶやく声に、疲れがにじむ。
リネアにとって初めての“婚活パーティー”。
一縷の望みに賭けてやってきたこの場所。
しかし……
集まっていたのは、口だけは達者な“自称・頼れる男”たちばかりだった。
(この世に強い男はおらんのかぁぁぁ!?!?!?)
リネアは、誰が見ても美しい女性だ。モテないはずがない。
これまでも何人かと付き合ってきた……が、毎回同じ結末を迎えていた。
なぜか、必ず「頼られる側」になってしまうのだ。
歴代の彼氏たちがそろって口にしたのは、こんな言葉。
「リネアは強い」
「リネアはかっこいい」
「リネアは頼りになる」
「リネアに守られたい!」
……いや、違うでしょ! 私が“守られたい”のよ!!
恋人たちはなぜか次第に腑抜けになり、
嫌気がさしてリネアから別れを切り出すパターンだ。
すると泣きつかれ、逃げれば追われ……
最終的には「転職」か「失踪」で
雲隠れして終わるのがいつものルーティン。
リネアの心は、もうすっかり擦り切れていた。
「今度こそ、強くて頼れる男を見つけてみせる!」
そう意気込んで参加した婚活パーティーだったが、出会ったのは酒臭い“自称ヒーロー”。
リネアは深いため息をつき、ワインを飲み干した。
(……もう、いっそ魔物とでも付き合おうかしら)
(…あっ…ドラゴンとか!カッコいいし、飛べるし……)
本気半分、冗談半分で考えながら、自分の思考に思わず苦笑しかけた……そのとき。
「……あれ? もしかして……リネア?」
聞き覚えのある声に、リネアは条件反射で振り返った。
「げっ……エリオット……」
相手の顔を見るなり、彼女は隠すことなく顔をしかめた。
だがエリオットは、そんな彼女の反応など気にも留めず……
「リネアーッ!! やっと会えた!探したんだぞーっ!」
ハイテンションでリネアの肩をバシバシ叩く。
地味に痛い、いや普通に痛いから。
(はぁ…最悪だわ……)
(よりによって、婚活パーティーで“元カレ”に遭遇とか……呪いなの?)
「ごきげんよう、ではさようなら」
リネアは完璧な笑顔を作って即座に撤退を試みるが……
なぜか、エリオットはしつこくついてくる。
「俺、あの日からずっとリネアを探してたんだぞ!」
「まさか、こんな場所で会えるとは! マジ嬉しいって!」
「それでさ、リネアは…………」
リネアの後ろをぴったりとついて歩きながら、
エリオットはひとりで喋り続けた。
「ちょっとぉぉ!!私から、離れなさいよ!」
「婚活してるのに“元カレ”と一緒にいるとか、頭おかしいでしょ!!」
エリオットは、きょとんとした顔で首を傾げる。
「トンカツ……?それ、おいしいのか?」
「こ・ん・か・つ!!」
「このパーティーのこと!!バカなの!?」
リネアの怒りが臨界点に達しかけたそのとき……
「なんか、よくわかんねぇけど……まぁいいや!俺、リネアと契約する!」
突然、エリオットが拳を突き上げた。
その瞬間、ふたりの腕が同時に光を放ち、おそろいの“紋章”が浮かび上がる。
「なっ……なにこれ!?タトゥー!?ダサっ!!」
リネアは必死にこすって落そうとするが、魔法で刻まれた紋章はびくともしない。
「大丈夫、大丈夫!魔法契約だから!」
「いやぁ~こんなに早くパートナーが見つかるとは思わなかったぜ!」
「ここでリネアに会えるなんて、やっぱ運命だよな!」
「一緒に頑張ろうぜ!!!」
エリオットは満面の笑みで、リネアの手を取ると勝手に握手をした。
「頑張るって……なにをよ!てか、このクソ恥ずかしい紋章、消して!」
「あっ、言い忘れてた。ゴールは“難攻不落のダンジョン攻略”だ!」
「……はぁ?ダンジョン……?」
「え……待って……まさか、このパーティーって……」
リネアの表情が固まる。
「そうそう!勇者パーティーの“新規メンバー勧誘会”だ!」
「………………」
真っ青になるリネア。
「間違えたああああああああ!!!!!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます