第60話 アラフィフ介護士 山賊退治する②
キョウカさんは大剣を携え、馬車を囲む山賊の一角へ駆け出した。
剣は刃を立てず、側面で叩くように振るっていたが、それでも受けた山賊は数人まとめて吹き飛ばされる。
「ちくしょうっ!」
別の山賊が雄叫びを上げ、剣を振りかぶって襲いかかる。
だが、キョウカさんはその勢いを真っ向から受け止めた。
ガキン。
金属音と共に、相手の剣は途中からぽっきり折れた。
キョウカさんの剣は、容赦なくそのまま相手の肩口へ振り下ろされる――が、直前でピタリと止まり、相手は白目を剥いてその場に崩れた。
その光景に、周囲の山賊たちは一斉に動きを止める。
「次は?」
無造作に大剣を下ろしながら、キョウカさんが静かに問いかける。
その声に触発されるように、戦槌を担いだ大柄な山賊が一人、前に出た。
「調子に乗ってんじゃねえ!!」
勢いよく突っ込んできたが、キョウカさんは剣をすっと跳ね上げ、戦槌を持つ手を叩きつける。
激痛に耐えきれず、山賊は武器を落とし、次の瞬間には横っ面を叩き飛ばされ、宙を舞った。
(やっぱり、この人、強すぎる)
感心していると、背後に斬りかかろうとする別の山賊に気づく。
俺はそいつの剣を横から叩き、軌道を逸らすと、そのまま踏み込み首筋に手刀を打ち込んだ。
直後、弓矢の気配を感じ、気絶した山賊を盾にして突っ込む。
「撃つな!当たるぞ!」
仲間を人質に取られ、動揺する山賊たち。
俺は距離を詰めた瞬間、盾にしていた体を放り出し、その隙を突いて拳と蹴りで数人を一気に倒していった。
その時、火球が後方から山賊の群れに向かって飛来する。
「キョウカさん!来たよ!」
俺の声に、キョウカさんが耳と目を押さえる。
ズガァァンッ!!!
すさまじい閃光と轟音が闇夜を切り裂いた。
目を閉じていても光が焼き付くようで、耳を塞いでいても鼓膜が震える爆発音が辺りを支配する。
閃光が収まり、目を開けると、山賊たちは目を抑え、耳を押さえ、滅茶苦茶に剣を振り回していた。
(やっぱり効いたな、スタングレネード魔法)
この魔法は、俺がスミットに提案して実現した“暴徒鎮圧用”の応用魔法だった。
「いやあ……こんな手品みたいな魔法がここまで効くとは思いもしませんでしたよ」
馬車から出てきたスミットが感心したように辺りを見回す。
「ここまでくれば楽勝だな」
ドールマンとグラントが、混乱する山賊を片っ端から殴って気絶させていく。
「ここまで楽な戦闘は初めてかも」
クインシーがぽつりと呟きながら、イアンと共に山賊の武器を奪い、手際よく縛り上げていった。
「終わったみたいね」
ローザさんも数人を片付け終えて合流する。
「これで全員……だと思うけど」
キョウカさんが周囲を見渡した、その時だった。
「ふざけんな!! てめえら一体何者だ!!」
突然、怒鳴り声が響く。
爆発の被害を逃れたのか、後方から巨体の男が現れた。胸当てをつけた、明らかにボス格。
「てめえらぁ……ああっ!? お、お前ら……!」
突然、ボスが驚いた顔になる。
「……誰だっけ?」
俺が首をかしげると、ローザさんが「あ」と声を上げる。
「あの宴の時の……」
そう、あの実践研修の後の宴会に乱入してローザさんにボコられた、あのならず者だ。
「前は油断しただけだ!今度は違う!てめえら全員あの世に!」
「おっさん、懲りないな。やめときゃいいのに」
「うるせえ!!」
怒鳴りながら剣を振り下ろしてくるボス。
勢いはオーク並だが、速度は見切れる範囲。
俺は一歩でかわし、そのまま様子を見る。
二撃、三撃と振ってくるが、俺は一切の反撃をせず、すべて躱すだけ。
(攻撃も防御も重い。でも……それだけだ)
この時、俺はすでに相手の動きを把握していた。
派手な剣撃の隙を見て、左拳を突き出すが、ボスは盾で防ぐ。
(盾の硬さは本物か……)
「そんなパンチが通じるか!」
ボスが嘲笑うように言って、鋭い突きを繰り出す。
俺はそれをギリギリでかわす。
後で聞いた話だが、俺が防戦一方だった時、加勢しようとしたグラントを、キョウカさんが「もうすぐ決着がつくから」と止めていたらしい。
実際、防御に徹していると、次第に攻撃は雑になってきた。
そうした自覚もなく一方的に攻めるボスは、勝ち誇ったように叫ぶ。
「これで終わりだぁ!!」
大きく剣を振りかぶったその瞬間、俺はその懐に飛び込んだ。
掴んだのは剣を握る手首。そして、その腕ごと、俺の肘がカウンターで振り上がる。
ビキィ!!
「ひ、ひぃぃぃっ!!」
鈍い音と共に、肘は逆方向に曲がり、剣が地面に落ちる。
俺はそのまま、そいつの顔面に正拳一発。
気絶したボスは崩れ落ちた。
「……これで、痛みからも解放だな」
夜が明け、宿場町から駆けつけた自警団が現れた。
調査の結果、俺たちの行動を監視し、早朝に町を出た“内通者”も山賊の中にいたという。
王都の騎士団に引き渡された山賊たちは、長く牢に繋がれる運命となった。
「てめえら!覚えてろ……!」と毒づくボスに「オッサン、他に言うことないのかよ」
俺は一言だけ返し、仲間と共に王都を目指して馬車を走らせた。
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